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神話29|山歩きで出会う神々:左右の異なる目を持つ神様、蛇紫音(じゃしおん)

蛇紫音(じゃしおん)は、蛇神一族においても特異な存在だった。彼女は左右に異なる瞳を持ち、左目には紫焰蛇(しえんじゃ)、右目には蛇毒炎(じゃどくえん)の力が宿っていた。その瞳は、紫の炎がゆらめく不気味な輝きを放ち、触れる者すべてを焼き尽くし、毒に蝕む力を秘めていた。

雲取山には、蛇神一族と長らく対峙してきた狼たちが巣食っていた。彼らは蛇神の一族の力を忌み、また恐れてもいた。ある晩、蛇紫音は一人、静かに山の入り口に佇み、狼たちを待った。彼女の左目がわずかに光を帯び、山中の空気がピンと張り詰める。遠くから、群れの気配が次第に濃くなるのを感じると、彼女は薄く微笑み、山道を一歩ずつ後ずさりしながら、狼たちを誘い込んでいった。
やがて、群れが迫り、壮絶な戦いが始まった。蛇紫音は右目を見開き、蛇毒炎で数頭の狼の動きを止めたが、その攻撃は一瞬の隙を突かれ、彼女の右目を奪われた。血が頬を伝うのを感じながらも、彼女は残された左目を開き、紫焰蛇の力を解き放つ。紫の炎が蛇のようにうねり、10頭の狼を巻き込んで絡みつき、静寂の中でそれらを焼き尽くした。

彼女はその場に立ち尽くし、最後の息を吐くと共にゆっくりと石化していった。今も彼女の面影は、雲取山の奥深くで冷たい岩となり、眠りについている。その瞳は閉じることなく、遠く過ぎ去った夜の記憶を、静かに見つめているかのようだ。

雲取山のトレッキングで出会った神様

※この物語はフィクションです。実在する人物や宗教団体とは関係ありません。

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