法テラスについて考える(その2)
野党共同会派が、新型コロナ法テラス特措法案を提出しました。これについて検討してみます。
なお法テラス全般については「法テラスについて考える(その1)」についてもご参照ください。
法案の内容
法案の中身としては、「法テラスの民事法律扶助業務分野の拡充」ということができます。
内容は次のように整理できます。
①新型コロナによって収入が著しく減少した者が対象
「法テラスについて考える(その1)」で、扶助を受けるには、資力基準を満たすこと(=一定以下の収入と資産しかないこと)が条件と説明しました。
この法案では、「新型コロナによって激しい減収があれば」対象になることになります。
例えば、月収100万円あった人でも、それが40万円になったことがあれば、法テラスが利用できることになります。
②新型コロナ及び蔓延防止措置に起因する紛争に限定
①のように対象者をかなり広く拡大していますが、業務内容で制限を加える格好になっています。
すなわち、新型コロナそれ自体に関する紛争(例えば新型コロナで雇止めにあったなど)、蔓延防止措置に起因する紛争(緊急事態宣言による休業でテナントとの地代交渉など)に限定するとしています。
ただ、これには懸念があり、どこまでも広がっていくおそれがあります。
例えばAさんがBさんに100万円貸したとしましょう。
Bさんの代理をする場合、通常は資力基準が必要ですが、例えばBさんの返せない理由が新型コロナによる雇止めだったらどうでしょう。
新型コロナによって他の出費が増え、返せなくなった場合はどうでしょう。
業務内容で制限を加えようとしても、結果的に無限定になり得るおそれがあります。
③立替金の償還について、手続中は猶予
「法テラスについて考える(その1)」で述べたとおり、法テラスの利用料は国が負担してくれるわけではありません。利用者は例外的な場合を除き返す必要があります。
法案では、手続中は猶予とされており、あとは震災特例法に従うとされていますが、東日本大震災の例でいけば、基本的には「終わるまでは返さなくていいが、終わった後はきっちり返す必要が出てくる」ことになります。
このように、結局のところ利用者の負担は変わらないことになります。
④時限立法
東日本大震災のときと同様、本法案も時限立法(2年以内)とされています。ただ、東日本大震災の際は延長に延長を重ねまだ終期を迎えていないので、どうなるかは不透明です。
まとめ
以上からすると、収入が大きい方でも、減収要件を満たしてしまえば援助を受けられるということになります。
先の例でしたら、「100万円→50万円」の方はOKで、「50万円→40万円」の方はダメということになります。
東日本大震災のときは「被災地に住んでいたこと」という、事後的に動かしがたい事実で対象者を絞っていましたが、減収としてしまうとその資料はどうするか、それは正確かなど、対象者が広がりすぎてしまうきらいがあります。
他方、紛争で絞ろうとも、新型コロナや緊急事態宣言に「起因する」という記載では、やはり無制限になりかねません。
例えば交通事故のような偶発的なものであれば制限できると思いますが、破産(借入れの経緯に新型コロナが絡む場合)、貸金請求(滞納の経緯に新型コロナが絡む場合)、離婚(新型コロナで失職し離婚に至った場合)、相続(揉める原因が新型コロナによる不動産の価値減少の場合)などにも対象になるのか、不透明です。
そうすると、先ほどの「100万円→50万円」の方は「立替基準でOK+終わった後の分割でOK」となるのに対し、「50万円→40万円」の方は法テラス利用不可(立替基準を使えず着手金は一括支払いが原則)という、大きな不公平が生まれるおそれがあります。
以上のように考えてくると、減収という切り口で対象か否かを決め、しかもその援助内容に濃淡のない今の法案では、不公平が残ってしまうおそれがある、といえると思います。
次回は、この辺りの不公平を是正するための方策について考えてみます。