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金曜日の日記/『神戸・続神戸』『「鬼畜」の家』『万引き家族』などなど

 ハンドルを切り過ぎる私に教習官が指示棒をクイッと振って見せ、「手元は少ししか動かしていないのに棒の先は大きく動いたでしょう?」と説明した。「本当だ!」と思った感覚が忘れられない。少しのことが先の方で大きく変わる。三件の幼児虐待事件を徹底的に調べ上げたルポルタージュ、石井光太『「鬼畜」の家』を読みながら、この自動車学校の一幕を思い出した。改めて、ひとは偏った世界で生きているのだと思い知らされる。

 なかでも三件の事件現場となった自宅がゴミで溢れかえっていた描写が印象に残る。汚物のついたオムツはとても臭い。それらが家族の眠る部屋に放置される感覚からもわかるように、その人にはその人たちなりの「普通」や「幸せ」を持って暮らしていたのだろうと想像できる。その違和を大きく描いた映画『万引き家族』も観た。「血縁とは」という是枝裕和監督が一貫してテーマに掲げ続けている問いが、他の作品以上に色濃く描かれていると感じた。『「鬼畜」の家』では、その血縁の枠を超える養子縁組を手助けする団体へも取材されていて、その内容には唯一救われた。

 この本と映画を読もう観ようと思ったのは、先日また類似の事件が起きたからだ。一体誰がどのようにして手を差し伸べられたのだろうか、答えが見つからない。週に一度の日記くらい続けてみようと思っていたのが、言葉にならず、一週、二週と空いた。その間にも同様のニュースがいくつも流れていく。

 西東三鬼『神戸・続神戸』を読む。私が幼稚園から高校までを過ごした神戸で、かつて戦禍を生きた外国人や娼婦たちの話。今なおエキゾチックを魅力にする神戸が、昭和の時代には人々の目にどんなふうに映ったのだろうと想像する。彼らは空襲や飢えに怯えるなかでも、笑い、騒ぎ、恋愛をする。一方で命が奪われ、表現を失う。歌人である西東三鬼が、数年間創作をできなくなったことがとても重たく感じた。

 Netflixでベルギードラマ『運命の12人』を観た。とてもおもしろい。ベルギードラマは以前に観た『イントゥ・ザ・ナイト』というディストピアものもとてもおもしろかった。裁判の陪審員に選ばれた人々の素性が少しずつ暴かれる群像劇『運命の12人』と、たまたま同じ飛行機に居合わせた密室劇を描く『イントゥ・ザ・ナイト』は構造も似ている。最近テラス席がある近所のベルギービールの店にたまに一人で入るので、行ったことのないベルギーに想いを馳せる。「外国の味」を味わうと、なんかうれしい。

 森山直太朗さんがblue noteから無観客配信するオンラインライブを、開始5分前まで悩んで、やっぱり観たくてチケットを買って滑り込んだ。とてもよくて、込み上げるものがあった。ライブは演劇と少し違って、演者がたのしそうな様子を見られることがうれしいのだと感じた。大人が心からたのしむ姿は日常ではなかなか見ることができないから、わくわくする。きっと元々blue noteのチケットは争奪戦だっただろうし、5分前に滑り込むのも絶対無理だったはず。そもそもコロナ騒動以前に、育児中の私は夜に出掛けるパワーが衰えているので、ライブを家で味わえるということが計り知れないよろこびだった。

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