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短編小説「白翼のドラゴンライダー」

 山間の静かな村に住む少女ーールゥは、ある日川辺で不思議な卵を拾う。
 その卵は彼女の両手にすっぽり収まるほどの大きさで、陽の光を浴びると薄い虹色の輝きを放っていた。
 村の誰もが「それはただの鳥の卵だろう」と興味を示さなかったが、ルゥはどうしてもその卵を放っておくことができなかった。

「きっとこの子は特別なんだ。ううん、たとえ特別じゃなくても元気に生まれてほしい」

 ルゥは卵を大切に抱え帰宅し、自分の小さな部屋で温め始めた。


 それから幾ばくかの月日が経過した。

 ある満月の夜、卵がピシリと音を立てて割れた。
 ルゥは驚きと期待で胸を膨らませながら見守る。
 ひび割れた殻の隙間から現れたのは、白くてふわふわの毛並みを持つ小さな生き物だった。
 それはどこから見ても鳥ではなく、伝承にあるドラゴンの姿だった。

「まさか、拾った卵がドラゴンだったなんて……」

 ルゥはその存在に圧倒されながらも、愛おしさを感じずにはいられなかった。
 生まれたばかりのドラゴンは、ルゥの指先を甘噛みしながら優しい声で鳴いた。
 それは、どこか約束された絆を思わせる瞬間だった。



 生まれたドラゴンに「シル」と名付けたルゥは、毎日一緒に過ごしながら成長を見守った。
 シルは最初こそ低くよろけながら飛ぶだけだったが、次第にその翼は強靭なものとなり、空高く舞い上がれるようになった。
 そしていつの日か、シルはルゥを背に乗せ、空を自由に駆け回るまでに成長した。

 ルゥとシルは広い世界を見たいという夢を抱き、村を飛び立つ。
 緑豊かな森や青く澄んだ湖、山々を越えて様々な地に訪れた。
 その旅の中で、彼女たちの姿を目撃した人々は、ルゥのことを「ドラゴンライダー」と呼ぶようになった。



 ある日、旅の途中で出会った街で、ルゥは人々から頼み事をされる。
 村に薬を届けてほしい、重い荷物を遠くの港へ運んでほしい――など。
 シルの背中であれば、それは容易なことだった。

 最初は少しの手助けだったが、次第にその評判は広がり、ルゥとシルは「空の運び手」として多くの人々に必要とされる存在になった。



 やがて彼女たちは正式に運び屋となり、世界を繋ぐ架け橋として、広い空を飛び続けることを選ぶ。

 ルゥはふと思う。
 「あの卵を拾ったのは運命だったのかもしれない」と。

 白い翼を広げたシルが夕陽に染まる空を駆け抜ける姿は、これからも多くの人々に希望と勇気を届けることだろう。

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