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パッケージデザインのメディア研究④ーピノは何から身を守るのか

 久しぶりにこちらの連載をします.と言ってワンシーンを見るためにヱヴァ破を全部観てしまった院生です,こんにちは.
この頃めっきり映画も近日公開ばかりで公開延期が決まりましたね.コナンも楽しみにしておりましたし,そして本日の議題となるヱヴァもそうですね.今回はヱヴァ好きの姉が買ってきてくれた,pinoとヱヴァンゲリオンのコラボレーションの限定パッケージとメディア論的考察をしたくなったのでします.今回のメインはパッケージのデザインとコラボレーションデザインの消費的な観点で観ていきたいので,ヱヴァンゲリオンのストーリー,あらすじなどは割愛します.ググってください,すみません.

1. パッケージデザインとエンターテインメント作品のコラボ
 1.1.はじめに
 1.2.コラボレーションする作品とされるモノ
2.pino×新世紀エヴァンゲリオンの箱について
 2.1.ピノの箱の造形と表象パターン1
 2.2.ピノの箱の造形と表象パターン2
3.コラボレーションと消費

 ざっくりとこんな感じで書いていこうかなという感じです.記号論はまだ勉強中です,お手柔らかにゆるっと楽しく書きたいのですみません.

1.パッケージデザインとエンターテインメント作品のコラボ
1.1.はじめに
 映画やアニメーション等エンターテインメント作品の宣伝方法の一種として,お菓子や食品とのコラボレーションがあると考えられる.スーパー等小売店店舗の規模の話だが,子供の頃から見ていたのはハム売り場の近くの戦隊モノのソーセージ,そしてお菓子売り場ではビックリマンチョコ,おまけ付きお菓子.商品というよりかは寧ろおまけのシールやカード,物によっては立体的な玩具的おまけを目的に,ねだったことがあるかもしれない.ポケモンパンも立派な"作戦通り"の商法に感じる.
 というのも,この消費社会においてパッケージ商戦は今に始まったことではない.遡ろうと思えばいくらでも遡れる.ただ,時代が進むにつれてインターネットの発達やSNS上での情報交換における写真,見た目による消費者の購買選択が迫られる社会になっていることも確かである.情報文化社会の中で購買時の情報として口コミに頼る機会も増えたことだろう.その口コミや情報過多となった口コミによって商品の取捨選択がより難しくなることを危惧している先行研究も存在する.そのような消費社会の中で,先ほどの「コラボレーション」デザインにおいては,まず何の作品とのコラボレーションなのかが強い力を持つ.商品の中身自体は第二となる.この状態がどういうことなのかを,今回「pino」と「新世紀ヱヴァンゲリオン」のコラボレーション商品で考察・分析を試みたい.
1.2.コラボレーションする作品とされるモノ
 エンターテインメント作品とのコラボレーションは現代では珍しい物ではなく,その購買対象は子供に留まらない.そして今回論じるアイスクリーム「pino(以降ピノと表記)」とアニメーション作品「新世紀エヴァンゲリオン(以降ヱヴァと表記)」において,関係を整理しておきたい.
 今回取り上げる商品の紙箱は森永乳業株式会社から1976年に発売された,赤い色が特徴のピノである.このピノは発売以来様々なフレーバーを発売しつつも赤い箱のピノと言えばあのチョコレートアイスね,と認識されるほどの「ロングセラー」(pinoパッケージより引用)商品である.つまり今回コラボレーションされる側のピノというアイスはロングセラー商品であり,「国民に愛される」(pinoパッケージより引用)商品である.公式の商品で「世代を超えて愛される」と豪語しているので,その認知度の高さと世代を超えて愛されるロングセラー商品であることを前提とし,私もそういう認識で書き進めることとする.
 一方,コラボレーションする側であるヱヴァであるが,今年6月27日に『シン・ヱヴァンゲリオン劇場版』が公開される予定であった.現在のところ,公開日を延期し,総監督である庵野監督が直筆メッセージを公式HPに公開している.GAINAX原作によるSFアニメ作品であり,経緯は話すと長くなるが宇宙戦艦ヤマトやガンダムなどに続く国民的アニメーション作品であり,その認知度も高く視聴年齢も世代を超えている.そして今なおこうして続いている.(舞台である2015年を過ぎてしまった絶望感…)
 今回のコラボレーションはまさにファンにとっては人気作品と人気商品という最高タッグであったように感じられる.こうした人気作品のファンは普段もしかしたらピノを食すことはなくとも,コラボレーションとなれば気になって手を伸ばすかもしれない.それも戦略の一部だろう.そして今回のコラボレーションではピノの特性を活かしていることも非常にファンの心を掴んだように思う.ピノというアイスはピックと呼ばれる,中に同封されている爪楊枝のような道具を使って食べる.そのピックを個数限定で,作中に出てくるキーアイテムであるロンギヌスの槍を封入した所謂「レア」なピノが存在するのだ.このピックを目当てにピノをいつもより多くピノを買う,ピノを○箱買ったが当たらない等のツイートを目にするほどであり,そうした企業の遊び心が上手く商業と組み合わさっているように思える.そうした作品と商品のコラボレーションが起こしている現象はなんだろうか.次章ではパッケージ・紙箱をメディア的観点で見ていきたい.

2.pino×新世紀ヱヴァンゲリオンの箱について
2.1.ピノの箱の造形と表象パターン1

 ピノの箱は一枚の展開図を貼り合わせて組み立てられた箱である.そこにキリトリ線を入れ,開けた時に箱の内部の全貌が明らかになる.(1個食べちゃっててごめんなさい…)

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非常に開けやすく,中身が一望できるし取り出しやすい構造である.そして今回のヱヴァコラボの箱であるが,外装のデザインは3種類存在している.これは内装に印刷を施し,ヱヴァ特有のフォントの組み方した,庵野監督らしいものである.これを一旦「庵野仕様」と呼ぶことにする.この庵野仕様で記載された情報はなんとピノの発売以降の歴史や商品コンセプト,そしてそれはこのピノの台座の下まで続き,箱の内装が庵野仕様である.それほどまでに情報を組み込んだ内装には驚いた.
 紙箱は中身が見えないため,パッケージデザインは開けたときの驚きまでもデザインすべきだとするデザイナーもいる.まさにこれは開けた瞬間に,いつのもピノと変わらない内装を想定していた我々を裏切るヱヴァ尽くしのピノなのである.このコラボしたピノはもう面倒なので「ヱヴァピノ」と呼ぶことにするが,外装パッケージと限定ピックで消費者を煽っておいて,まさか開けた瞬間にヱヴァだ!と言わざるを得ない庵野仕様が目に飛び込んでくるのだ.これは内容を見なくてもヱヴァファンであれば,ここまでしたか…と思う.(印刷コストというか金かけてるな…という印象でもある.もちろん嬉しい)
 そして記載情報に目をやれば,庵野仕様でヱヴァらしいのに内容は一転,ピノに焦点を当てた商品情報もとい商品についての解説がなされているのだ.ちょっとした豆知識的な小ネタまで盛り込まれ,ぴっちりとしたグリッドの庵野仕様に森永製菓のピノ情報が盛り込まれている.正直,松ぼっくりが由来とかそんな情報もピノをただ食べる行為においては重要性の低い情報なのだが,思わずへえ,と思ってしまったり,ピノ約11億粒で地球一周分とか雑学にもほどがあると思ってしまったりするのだが,これを見せつけられて楽しくないわけがない.
 ピノを単に食す行為において,この情報は必然的に二次的な存在となっている.このパッケージにおける一次的な情報は,この内装に組まれた庵野仕様である.わざわざヱヴァピノを消費することで,外装のコラボデザインと個数限定特製ピックというヱヴァの要素を消費し,中を開けた瞬間に飛び込んでくる庵野仕様のグラフィックとも情報ともつかない,内装のデザインにしてやられるのである.そして二次的な意味としてピノを消費する.
2.2.ピノの箱の造形と表象パターン2
 前節での箱のデザインは非常に私は驚いたが,こちらのパターン2で取り上げる箱のデザインについて考えた.

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 3パターン存在するデザインのうち,異彩を放っていたのはこの表が庵野仕様のヱヴァピノであった.一目見ただけで「ピノ…庵野仕様だ…」と思ってしまったほどに存在感がすごい.もはや文字だらけである.ピノの写真は申し訳程度に載せられいるだけなのではないかと考察してしまう程である.そして,ピノの商品名の下にはもれなくヱヴァンゲリオンとちゃっかり一緒に表記されている.(それでもグリッドが一定なのは非常に美しい…)
 ちなみに裏面はヱヴァ初号機で,表面とは一転して黒である.非常にシンプルなデザインで,この表と裏の差は一体なんなんだと思う程である.しかし,ここで一つ疑問が浮かんだ.表面が庵野仕様になっているのだ.ならば,内装はどうなのか?正直,表面をこんなに庵野仕様にしたのだから内装は何もないだろうと思っていた.そして限定ピックへの期待を込めてキリトリ線を開けて,笑ってしまった.

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一瞬固まった程だ.作中に出てくるemergency柄が一面に敷かれてあった.残念ながらこのバージョンはピノの台座の下まで印刷はされておらず,この開けた正面一面のみの印刷ではあった.しかし,これほどまでにピノの形状とヱヴァの要素を上手く取り入れたグラフィックがあっただろうか.一面に敷かれたemergency柄は,ピノに緊急事態を迫っていることを知らせているようでもあり,この6粒のピノたちは何に警戒しろというのか.
 「消費」である.この庵野仕様の箱をNervと喩えるとこのピノたちはNerv内の職員でもあるように見えてくる.そして壁一面に貼られたemergencyの警告,迫るピックを持った人間という使徒.ヱヴァ初号機覚醒前にNervが攻撃されたのと同じ状況が出来上がってしまう.(私たちって第14の使徒ゼルエル?)そして裏面に印字されたヱヴァ初号機を見てしまうと,もしかして覚醒状態?と思ってしまう.
 これは個人的な考察と分析に過ぎない.ただ,この思考回路に至るまで,何度この箱を眺めたのかはわからないがここまで考えさせる箱も箱である.箱の側面にはきちんと原材料や弁別用の箱の素材の表記,アレルギー物質の表記など必要な情報は詰まっているのだ.その上で,アイス特有の上に重ねていく陳列方法に合わせて重視される表面一面でこんなに遊んでいる紙箱パッケージは,消費者の目を引くと共に話題性が非常に高い.

3.コラボレーションと消費
 おわりに,という扱いになるが少し長くなりそうである.個人的な観察と考察に基づいて,このコラボレーション商品におけるデザインの消費について考えたい.私はピノが普通に好きである.コラボをしていなくてもたまにピノを買ってはピックの番号占いを楽しんだり,極々普通にピノを食すという消費の仕方をしている.この場合,「消費=ピノを食す」ことである.もちろん赤い箱を眺めて考察をしようと思えばできるのだが,造形や解体作業をして考察するほどではない.
 しかし,今回ヱヴァピノというコラボレーションを行ったピノを食す際にまず,外装デザインが3種類あるということで3種類手に入れた.(ここで既にいつもの3倍ピノを購入している)そして限定ピックの存在,箱の内装デザインに一々楽しみを覚えながらピノにピックを刺す.この時点で私は何を消費しているのか,考えてみれば先ほどのピノの消費とは違うことがわかる.この時私が行っている消費は2段階に分けられる.第一段階である「第一の消費=ヱヴァピノのデザインの消費」によって,ヱヴァピノをゲットした,内装のデザインが庵野仕様だ…というヱヴァピノを手にした満足感や,限定ピノを手に入れたという優越感である.同時に社会において,私はヱヴァが好きであると公言しているようなものである.そして,「第二の消費=ピノを食す」という構造になっており,本来のピノを食す消費行為は後回しにされている.こうした段階的消費が,消費社会におけるデザインの消費ってなんだろう?ということ今回,勉強中のボードリヤールの記号論的解釈を用いて考察をしていた.コノテーション,デノテーションという専門用語で語れたらもっと楽しいんだろうなとは思いながらも,まだ勉強不足なので詳しくはまだ言及しないでおく.
 コラボ商品を通して,商品の保護をする紙箱印刷されたグラフィックが紙箱だけでなく外装デザインによっても消費者心理にどれだけ寄り添っているのかを考えさせられた.コラボをした時の商品のグラフィックと通常時の商品のグラフィックとではどのような消費者心理や「消費」するものに違いが生じるのか.
 ただピノを食べたいだけならわざわざこのヱヴァピノを買わなければいいだけの話である.それでも買ってしまうのは,消費社会の中で巧妙に計算された美しいデザインと練り上げられたデザイン商戦に知らぬ間に嵌っているからなのではないか.このパッケージの紙箱自体にもメディアとしての要素があると考えているが,こうしたパッケージの外装が消費者とメーカーを媒介していることは紛れもない事実であり,コラボレーションという小技によって商品のバックとして存在するメーカーにより一層消費者が近づかざるを得ない.パッケージデザイン商戦は様々な感性工学的視点からのアプローチが存在するが,パッケージは単体でメディアとして消費社会の中で消費者とメーカーをつないでいると考えている.メディアとしてのパッケージデザインを研究する余地はまだまだあるのではないか.そんなことを思いながら今日も私はエヴァピノを食す.

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