【インタビュー】上川町×教育ーアカデミックプロデューサーらが描く10年後の未来ー大人も子どもも"越境"できる町。
人口約3000人の町、上川町。
この町には小学校、中学校、高校が一つずつあり、雄大な自然と四季を身近に感じられる環境で子どもたちは育っていきます。(2023年12月時点)
町では教育にも力を入れていると聞き、実際に現在上川町で教育事業に取り組んでいる皆さんに話を伺いました。
「上川高校魅力化事業」と「ウェルビーイング事業」
ーー現在、上川町の教育事業に携わられてる皆さんが注力していることは何ですか?(以下、敬称略)
池端:私達が今取り組んでいるのは、「上川高校の魅力化事業」です。令和2年度末から始まり、令和3年度からは本格的に実践する形で行っています。そして令和4年度からは「ウェルビーイング事業」を立ち上げました。
「ウェルビーイング事業」は、いわゆる人材育成事業で、幼稚園から大人までを連続した学びをやっていきましょうと言う趣旨でやっております。
アカデミックプロデューサーの松井くん、大城さん2人が一緒にこの事業に取り組む仲間として加わり、まず3人でウェルビーイング事業に関わるいろんなことを企画して、学校や学校外で授業を実践してきました。
さらに今年度になって新たに、曙さんに教育の分野ではアカデミックプロデューサー、写真の分野ではクリエイティブプロデューサーとして半分ずつ担うような形で加わってもらい、今ではこの4人のチームで、ウェルビーイング事業と上川高校魅力化事業を並行して走らせるような感じになっています。
ーーウェルビーイングという言葉は今、関心の高い人も多いかと思いますが、上川町がウェルビーイングを取り入れようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
池端:元々、上川町では "北の山岳リゾートタウン" という町のビジョンがあります。さらにその上位概念として、町を出て行く人も含めてこの町に関わるみんなが豊かになればいいよねという思いから、我々が考える「豊か」とウェルビーイングの概念がすごくマッチするなと思い、令和4年度から幸せや豊かさを追求した学び、人の育成もしていきたく「ウェルビーイング」という言葉を取り入れています。
ーー上川高校の魅力化事業とウェルビーイング事業、この2つの事業の関連する部分や違いなどはありますか?
池端:上川高校の魅力化事業は、高校の学校内で行われている授業等が中心の事業になるのですが、ウェルビーイング事業は「幼稚園から大人まで連続した学び」を目指しているので、学校内に限らず、学校外にも出て様々な企画を行っていこうという所が違いかなと思っています。
ただ2つは表裏一体だと思っていて2つの軸が一緒に走ってるようなイメージですね。
ーー上川町の自然や人との交流を生かして混ぜ合わせながら、上川町をフィールドに一緒に学んでいくというイメージですね。
池端:まさしく、町全体がいろんなことを学べるキャンパスのようなイメージで捉えています。
ーー実際にウェルビーイング事業に現場で関わっていてどんな感想や印象がありましたか?
松井:私はまずその言葉を聞いて、自分がウェルビーイングな状態でないと教えられないというふうに思ってたんですよね。根本的に、私は幼稚園教諭時代から「教える」ってことが大嫌いで、一緒に楽しむっていうスタンスでずっとやってきた人間だったので、上川町をとにかく楽しむ、町民の中で一番楽しむ人間にまずならないと駄目だなと思い、上川で遊び尽くすために、マウンテンバイクや山のぼりやジャム作り、火起こし、マインクラフト、麻雀に、ロボットコンテスト、、などを自分でも楽しみながら企画してきました。
ここはまさに、表裏一体で、この上川町での遊びが結果的に高校の魅力化にも繋がると思いますし、ウェルビーイングな状態になっていくと思っています。
また、普通だったら「そんなの遊んでるだけだよ」って言われるかもしれないけど、役場の方がいい意味で好きなようにやらしてくれてるので、遊びから教育にも展開させてもらえることで、今に繋がってると思います。
高校生に限らず、中学生や小学生、幼稚園生、さらに、ヌクモ(町運営の廃校を活用した全天候型施設)には上川町外の子どもたちも来るので、フリースペースに遊びに来た子供たちとの交流やプログラミング体験をする等、上川を通じて巻き込みながら楽しむめる環境で素晴らしい体験をさせてもらっています。
今の状態はまさしく私自身がウェルビーイングなので、そこで周りを良い意味で巻き込むとか、ウェルビーイングな状態になってくれればいいかなと強く感じています。
大城:移住していま1年半が経ちますが、元々前職では東京の企業で働いていたので、人と人として関わるというよりは、立場(肩書き)で付き合うみたいな感覚に非常に慣れ親しんでいましたが、上川町の池端さんや役場の人はとても良く面倒を見てくれて、家の手配までしてくれようとしたり、本当に人として歓迎されているように感じられました。
教育事業では、当初来たときは自分のやりたいことを持ってぶつけていった感覚でした。学校側の事情や、町の事情、町民の方の事情もわからないままとりあえず自分軸で物事を作ってたんですが、そうするとやっぱりイベントを企画してみても意外と人が集まらないとか、肩すかし感があり、、
だんだんとやっていく中で関係性ができてきて、仕事として付き合うっていうよりも、人と人として関われる機会が増えてきました。
例えば「池端さんってこういうことを大事にしてるから、この事業が進んでるんだな」とか、「この先生は、こういうところにモヤモヤとかやりずらさを感じているんだな」とかが1年かけてちょっとずつ見えてきたので、最近は「目の前の人にとってこういう学びの場があったら、本人も気づいてないポテンシャルを引き出せるだろうな」ということをそのまま企画としても提案できている感覚です。
約3000人の町の規模なので、1回の企画で100人、200人の参加者にはならないけど、来てくれた10人、5人、3人でも来た意味があったと言ってくれることはすごい幸せです。
その人がその人らしく、ウェルビーイングな状態になっていく過程に手触り感を持って関われるので、すごいいい規模感で好きにやらせてもらってるなっていう感じがします。
ーー目の前のひとりひとりの課題や悩みと向き合っていきたいという想いが大城さんの原動力になっているんですね。教育事業を上川町で取り組む上で、上川ならではの特色は感じていますか?
大城:まずは、北海道の中でも特に、層雲峡エリアなど大自然を身近に感じられることは特徴に感じます。地域内外からよく言ってもらえることは、「上川はワンチーム感があるよね」ということ。みんなそれぞれやりたいことやってるんだけど、お互いに仕事を作り出しながら関わってる感覚です。
役場の人が町に来た人を繋いでくれたり、町内外の人と協力隊が接する機会をなるべくたくさん作ってくれたり。町の実際のプレーヤーとの距離感も近いので一体感や町の熱量を感じて帰ってもらえるので、繋がった人にまた会いに上川に帰ってきて「ただいま」「お帰り」みたいなやり取りがあったりもします。
ーーまた会いにいきたくなる人が1人ではなく、たくさんできる町はすごく魅力的に感じました。曙さんが上川町をフィールドに活動する中で感じていることはありますか?
曙:元々、前職が小学校教諭であることを生かしてアカデミックプロデューサーとしても活動しているのですが、上川町でも教育やろうって思った理由は、先生や親でもなく、何でもない大人として関われる居場所をつくり、どんな環境でも子供に寄り添って個性を大事にしたいという想いがあったからです。
小学校教諭の頃から大事にしていた、学校のテストの点数だけで判断しない立場で、今、上川町では子どもたちと接点があることは幸せだし、私にとってすごくいい環境です。もしかしたら、アカデミックプロデューサーになっていなくても、子どもたちとの接点が持てたんじゃないかなと思えるので、町の子どもたちとのいい距離感が上川町にはあると感じています。
規模の大きい市内になると、例えば、学校以外の居場所として、塾の習い事や塾があったとしても、そこでは結局子どもたちが頑張らなきゃいけないところだから、子どもって忙しいなと思ってたんですよね。
でもここ(上川)にいるとポルトというフリースペースあって、ゲームしに来る子がいるとか、スタッフさんと話しに来る高校生がいるとか、居場所がある、余白があるなと感じました。
上川町の10年後の未来予想図
ーーこれまで、どんな事業に取り組んでいるかを伺ってきましたが、10年後、ご自身の事業や上川町の教育に関連してどんなことをしていきたいか、ビジョン等があれば教えてください。
上川町役場 池端さんが描く上川町の未来予想図
池端さん:まさに、曙さんも言っていた居場所づくりは大事にしていきたいとずっと言い続けてきたことなので、人それぞれ居場所になる場所を増やしていきたいなと思うし、今はリアルな場所はもちろん、リアルが厳しかったらWeb上での居場所作りなど、オフラインとオンラインとそれぞれの居場所づくりがまずできたらいいなと思っています。
そして、地域内だけじゃなくて地域外にどんどん飛び出していけるような事業も取り組んでいます。例えば「幼稚園の修学旅行」というものがあっても面白いと思うし、今計画を練ってるのが上川町にキャンパスがある**インフィニティ国際学院のデュアルスクールという形で、キャンパスのある奄美大島と上川町を行き来し合えるようなプロジェクトを小学生や中学生にも展開できたらいいなと考えています。
池端:自分の地域だけじゃなくいろんな世界を見た方がいいと思うんですよね。最近、上川の高校生が研修で東京から帰ってきて報告会を聞いているだけでもなんだか目の色が変わってきたんじゃないかなとか、言動や表現の仕方がちょっと変わってきたなとか、ちょっとした変化が見られるようになってきたのは、やっぱり他の地域に行って違う世界を見てきた効果なんだなというふうにも思うので、できればもっと小さい頃からそういう体験をできればと思っています。
ーー教育事業に取り組む皆さんが、上川町だけに範囲を絞らずに広い視野を大事にされているのが感じられますね。
池端:まさに今、松井くんとはデジタルやMeta上でも、近隣の町やもっと言ったら北海道全域、全国の子供たちとも一緒にふれあえる空間ができるといいよねと話しています。
松井:不登校支援にもなるかなと思っていて、最終的には高校魅力化にも繋がったり何か巻き込めると面白くなるなと思います。
池端:まさにそれは表裏一体の部分で、ウェルビーイング事業でできなかったプロジェクトでも高校魅力化事業では取り組めたり、うまく連携してやっています。
ーー学校と連携したプロジェクトとなると様々なルールもあり、やりたくても実装できない困難も多いかと思います。そういった壁はどう乗り越えていますか?
池端:前は確かにそういった困難もありましたね。ただ最近は3人(アカデミックプロデューサーの松井さん、大城さん、曙さん)がその壁を取っ払ってくれて。
他の地域の高校では難しいようなことでも、やっぱり人と人との信頼関係や関係性があるからこそやらせていただけることが多いですね。
ーー信頼関係とても大事ですよね。学校の先生達と現在の関係性に至るまでにどんな出来事があったのでしょうか?
松井:私達が着任する前から、地域おこし協力隊の方が前の校長先生と話をしていたり、役場の池端さんが繋がっていたりと礎があった上で事業がスタートしていることは言えますね。
大城:私たちが事業がしやすいように、3年間ぐらい地域おこし協力隊の方等が地道に関係性を築いてくれていましたね。
松井:今年度は、(高校の先生達が)自分達専用の下駄箱を作ってくれたのはめちゃくちゃ嬉しかったです。
アカデミックプロデューサー松井さんが描く上川町の未来予想図
松井:私が教育の根幹としているのが「共創ーともに創る」というものなんですよね。
もちろん1人で自己完結することは大事なことなんですが、やっぱり「1人の力はたかが知れている」という経験を私はしてほしいと思っていて。不得意な部分を得意な人と共創することで成り立っていく、相乗効果で良くしていくっていうのが人間と人間との繋がりの本当に素晴らしさというのを私は教育で伝えたいなと思っています。
上川町の強みは、ワクワクしていてアイディアを出して形にする大人がめちゃめちゃ多いことなんですよね。
そういった大人が1人でも増えることを目標として、自分でゼロから夢を作っていける人材を作りたい(育成したい)というのが10年後の目指す姿であります。
上川ではそれが実現可能ではないかという可能性を感じ3年前にアカデミックプロデューサーになりましたが、今、ますます上川にいてよかったなと思っています。そのこと自体まずすごいことなんでしょうね。
越境していく中で自信をつけてもらい自己効力感を高め、お互いに認め合いワクワクしながらゼロから作っていく人材が上川町でたくさん育っていき、上川町外、 さらに言うと北海道全域、全国にも広まっていけばいいかなと思ってます。
あと、上川町の印象といえば「ラーメン」か「自然」なんですよね。それを私は4人に1人が「教育」と答えるようにしていきたいというのが野望としてあります。
クリエイティブ&アカデミックプロデューサー曙さんが描く上川町の未来予想図
ーー上川で出会う大人ひとりひとりがワクワクしているなと本当に感じています。その一人でもある、曙さんが今後やっていきたいことを教えてください。
曙:私はカメラマンがベースなので、写真を軸に関わることが多いですが、写真を通して自分のことを価値があると少しでも思って欲しいです。
アカデミックプロデューサーとしては、自分の人生を選択して歩いていく過程の子どもたちと関わっていきたいですね。
ーーこれから上川町に移住をして事業をする人も増えていくと思いますが、上川に移住する前に不安だったこと、移住した後のギャップ等はありましたか?
曙:来る前は、自分という人間をジャッジされると思っていたので怖かったです。住民としてもそうだし、教育分野に携わる地域おこし協力隊としてもジャッジされると思っていましたが、全然自分のままでよかった。
ジャッジすると言うよりかは、皆さん喜んでくれました。この間も町内シニアの方が料理を作ったり、麻雀をしたりと集まる会に参加してみると、孫が来たみたいな感じで受け入れてくれました。
写真の事業に関連すると、この町の中で写真の需要があまりないと思ってたし、外から来た人が写真を売る、撮るいうのは町の人も嫌かな思ってました。ここで写真家としてやっていくのであれば、外からお客さんを引っ張ってくるぐらいの存在じゃないと無理だなと思い外にばっかり目を向けていましたが意外と町の人も写真撮ってほしいなとか、子供やおばあちゃんと撮ってほしいとか、親戚のカメラマンぐらいの感じの距離感で付き合ってくれるようになって。
外に外に、と思っていたのが中の人たちにも写真を通して力になりたいという気持ちに変わったのが、プラスのギャップでしたね。思ってたよりも町の人たちが自分を受け入れてくれた感覚です。
アカデミックプロデューサー大城さんが描く上川町の未来予想図
大城:子供の数は減ると思いますが、少ないからこそ個別最適なアプローチがしやすいとか、その子に合った学び、学ぶ喜びみたいなものを作りやすいなと思っています。
テストや成績だけじゃなく自分を見てもらえる居場所が土台としてあって、自分が自分として受容される感覚も、越境して自分が知らないものを経験していくことも、違う価値観の人とぶつかることも、そういったものは町という境、自分の価値観を超えて "揺れる経験"をどんどんしていって欲しいです。
小さいコミュニティにいると、その揺れる経験がどんどん怖くなってくるんですよね。同じ会社にずっといる人はやめられない感覚と一緒で、やっぱり新しい価値観と出会うと今までの自分を否定される感覚を、不安ではなくワクワクに変えていけたらなと思っています。
境を越えるって簡単に聞こえるんですけど、意外と今までの自分を超えないといけなくて難しいんですよね。アンラーニングしていかないといけない恐れを「怖いし、よく知らないからやめよう」じゃなくて「やってみたら面白かった」っていう小さな成功体験を1回でも町でつくれたら、その次やるときもきっと大丈夫だなみたいな、ウェルビーイングに関連すると「何とかなる」のマインドセットの機会を町でも作っていきたいなと思います。
小さい町だからこそ、個別最適な居場所があるとか、好きを大事にできる環境がある一方で、社会に対して自分がやりたいことをアクションしていくときの次のステップの機会が減ってしまわないような環境を作りたいです。
上川町の安心安全な居場所の土台があるからこそ、身軽にチャレンジして境を超えて飛んでいって欲しいし、大人もそうでありたいと思います。
上川は皆さん(かみかわKICHATTAメンバー)が来てくださってるみたいに、ここにいるだけでもいろんな面白いお仕事の人と出会えて、そんな仕事もあるんだとか、そんな生き方もあるんだっていうのをすごく吸収できるので、外に出るだけじゃなく外から来てもらうことも同時にさらにしていきたいです。
ーー外からもさらに人に来てもらいたいと言う話がありましたが、これから上川町にはどんな大人達に来てもらいたいでしょうか?
池端:自分のやりたいことや挑戦したいことを、失敗してもいいのでやっていってくれるような人が来てくれたら嬉しいです。そういう意味では大人に限らず子供も来てくれたら嬉しいなと思います。
「この町に来ると、大人でも友達が作れる」と、ある企業の方が言ってくれました。名前を覚えてもらえて、一人の登場人物になれることがこの町の強みなのかなとも思います。
私たち行政的には地方創生といいますが、その根幹にあるのは結局人口の奪い合いなんですよね。そうではなくて、まずは自分たちがワクワクすることをやっていき、挑戦する人やワクワク人材を上川町から増やしていきたいですね。
(インタビューを終えて)
上川高校魅力化事業、ウェルビーイング事業等、教育事業に取り組む大人たがワクワクしていることをインタビューからも感じていただけたでしょうか?
そんな大人達が描く上川町の未来予想図や、上川町内外をフィールドに新たにチャレンジしていきたいことを教えてもらいました。
大人も子どもも "越境できる町" を目指し、ウェルビーイングを追求しながら成長できる上川町の10年後、20年後の未来もとても楽しみです。
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