深夜の16号線でわたしのバイクは動かなくなった。
教習所のCB400から卒業して、はじめて手に入れたバイクはkawasakiのエストレヤでした。250ccの中型。
いやーー、超かっこいいんですよ!
かっこいいだけじゃなく、そーきゅーーーーーと!!!
見てっ、見てこれ!
(って思ったら、なぜか写真がありませんでした。かっこよかったんですよ)
ちなみに中古販売サイトのやつですが、
うちは母がバイク乗りで、わたしがバイクの免許を取ることも肯定的だったのですが、父は渋っておりました。
そうだよね。心配だよね。でもごめん、相談する前にこの中古のエストレヤに出会っちゃってさ、
ある夜「バイク買っちゃいました」と報告したときの父のなんとも言えない顔を見たときは、さすがにわたしの心も痛みました。ごめん。
でももう買っちゃったから!
この中古エストレヤ、走行距離100キロ程度だったかな。なんかもう乗り始めて速攻で倒したかなんかで手放したんじゃないの?って感じですよね。
大丈夫、安心して前オーナー! わたしが大事に乗ってあげるからね。
その当時わたしは山奥の大学に通っていました。
国道16号線をまっすぐ、ひたすらまっすぐ走って通っていました。
そう、その日も真夜中、車もまばらになった16号線を走っていた。
しかしね、いまいちエンジンの調子がよくない。赤信号で止まると、再発進がすんなりいかない。
あのときほど赤信号が怖いことはなかった!
止まったが最後、もう走れなくなるんじゃないかって! 道路の真ん中で!
ブレーキレバー握りたくなかったなあ。
で、いよいよ危ないというところで、通りかかったガソリンスタンドに入ったのです。
ガス欠だと思っていました。
以前一度、ガソリンすっからかんになったことがあったので。
わかるひとにはわかると思うんですけど、そしてわかるひとには馬鹿だと思われるんでしょうが、うっかり予備タンクで走っていたんですよ。コックの位置を勘違いしていたんですよね。
(※エストレヤにはタコメータついてなかった)
で、ガソリン入れてさあこれでおうちに帰るぞ!
って、思って、キーを回したら、返ってきたのは「きゅるきゅる」という音。
エンジンかからず。
エストレヤ沈黙。
途方に暮れましたね。
深夜の国道16号。最寄りの駅まで歩けたとしても終電ももうないし。
きゅるきゅるきゅるきゅるいうばっかりで一向に発進しないバイクと、顔色のよくないバイク乗りがワンセットになっていたら、もう考えられる状況はは限られてくる。
うわぁ…………と頭抱えていたら、親切なスタンドの人が声をかけてくれました。
事情を説明すると、
「じゃあ、押しがけしてみようか」と。
押しがけっていうのは、要はバイクを手動で押して走らせながらエンジンをかけることです。おもにバッテリー上がっちゃったときの緊急発進手段ですね。
スタンドの敷地の、ちょっと傾斜がついているところで、150キロほどのバイクを手動で走らせてはエンジンをかけ、戻してはまた走らせ…………
これね、大変なんですよ。夏の押しがけ。すっごい大変なんですよ。
まだ中型だったからよかったけど、いやでも150キロの物体ですからね。
(わたし以前にもちょっとミスって、友人に押しがけ手伝わせました。深夜のモールの駐車場のスロープをてっぺんまでバイク押して上った)※危険なのでよい子も悪い子も真似しないでください。
深夜とはいえガソスタに車はやってきます。従業員さん全員、わたしのうんともすんとも言わないバイクにかかずらっているわけにはいかないはず……でも本当、彼らはすごい親切で……しまいには、
バイト休みの夜にコンビニにアイス買いに来ただけの高校生にまで手伝わせました。
ほんとごめんなさい。
彼は、半袖半ズボン、アイスを食べながら不運にもそこを通りかかり…………そしてわたしの沈黙したバイクの押しがけを手伝わされたのでした。
ほんとごめんなさい。
彼はアイスをくわえて、サンダルだと足が滑ると言って裸足で押しがけを(略)
ほんとごめんなさい。
アイスはだいぶ溶けてたよね。
こういうとき、働いていないけど迷惑をかけている張本人の佇まいとして正しいものって、なんなんでしょうね。
まわりの人が自分のために動いてくれていて、当の自分は感謝するしかないときってあるじゃないですか。せいぜい真面目で申し訳なさそうな顔をするしかないとき。
その状況で人間はどうしてるべきなんでしょう。
手を合わせて見ているだけっていうのも、なんだか居心地が悪い。
いっそ、ありったけの感謝とエールを込めて応援合戦の三三七拍子とかやっていたいって思う。そうすれば自分としても力の限り働いている感じがするし。
でもこのときは深夜だったのでしませんでした。
で、結局、
不運な通りがかりの高校生をまきこんでも、エストレヤは復活せず。
もうこれ以上手伝わせるわけにもいかないし、最寄りの駅まで行って始発で帰ることに。
(翌日、わたしは早朝からクレー射撃に連れて行ってくれるという町工場のおじいさんと約束をしていたのだった)
不運な通りがかりの高校生が自転車で駅まで送ってくれると言ってくれたとき、
今後の人生、ガソリンスタンドでバイトしているすべての高校生に優しくしようと思った。
めでたしめでたし。
と、ここで終わっても十分ありがとうな話なんですが、このあと従業員のおひとりが、なんとご自分のバイクで家まで送ってくださり…………わたしはその夜、自分のベッドで眠ることができたのでした。
ほんと、みなさん、ありがとう。
翌日、レッカーのお世話になったわたしのバイクですが、スパークプラグが焼き切れていたのが判明しました。
つまり、どんなに押しがけしてもエンジンは絶対にかからないわけです。
……………………
後日菓子折を持ってそのガソスタにはお礼に行きました。
そして今はもう、そのガソリンスタンドはなくなっており、通りがかりの男子高生を巻き込んでバイクを押したあの敷地もない。
ありとあらゆる人たちに助けられて、わたしは今日も生きています。
あ、いまのバイク見ます?
kawasakiのW650っていうんですよ。めちゃくちゃかっこよくない???
毎度見るたび思う。(タンクはW400のやつに付け替えました)
「世界一かっこいいバイクだな~。誰のバイク? え、わたしの!? センスいい~!!」