映画『上飯田の話』 監督インタビュー① −作品の着想について−
4月15日に公開される横浜市泉区の小さな町を舞台にした全く新しいタウンムービー『上飯田の話』。本記事シリーズはその魅力をより深く知ってもらうために監督にインタビューを行いました。
聞き手:本田ガブリシャス克敏
―――本作は上飯田町に存在する「上飯田ショッピングセンター」から強い着想を得た、とお話されていましたが、具体的にどのあたりに何を感じたのでしょうか?またそれはノスタルジーとは別のものですか?
大学院を休学中、何か映画を撮りたいという気持ちがありつつも何を撮ろうかわからなかったときのことです。祖父母が住んでいた町を散歩していたときに、上飯田ショッピングセンターを見つけました。その光景を見たときに直感的に「ここで映画を撮りたい」と思いました。個人商店が並んでいて、地元の人が通っていて、のんびりした時間が流れている。ノスタルジックな魅力、とはまた違うこの感じはなんだろうか…。その日から数ヶ月かけて何度も足を運び、どんな場所なのかを観察し、お店の人にインタビューをし、併設する居酒屋で近くに住む人たちと話し、この場所がどのような場所なのかを探りました。
話を聞く中で、この町にある団地やショッピングセンターは高度経済成長期に作られ、その時期には大変栄えていたが今は高齢化が進み、今は人もまばらだということを知りました。そのことがこの町に独特な時間の流れを作っていました。しかしということは同時に、この場所は刻一刻と変わっていく運命にあることもわかりました。今撮らないともう別のものになってしまうかもしれない。
僕が上飯田ショッピングセンターで感じたものは、そうしたゆったりした時間であるにもかかわらず、危機的な運命にあるこの場所が持っていたオーラのようなものだと思います。
※実際、この映画を撮った2年後に『移動する記憶装置展』でまた上飯田を訪れたときには、ショッピングセンターは更に店舗が減り、回廊は半分で閉鎖されてしまいました。
ーー② 町民の方々との撮影について に続く
横浜市泉区上飯田町を舞台にした
全く新しいタウンムービー
04月15日 ポレポレ東中野にてロードショー
本作は単なるショートストーリーが連なったオムニバス映画ではないかもしれない。いうなればショートストーリーによって連結された町の物語であり、主役は町そのものと言ってよいだろう。その不思議な感覚は特殊な撮影手法によってもたらされている。
今回が初の劇場公開作となる本監督は、劇中にも登場する「上飯田ショッピングセンター」の建物の佇まいから強い映画創作の着想を得た。現地に何度も足を運び、町民の人々と交流するなかで、物語を制作していった。
主要キャストはエビス大黒舎に所属する若手俳優たち。こちらも演技のレッスンに足を運び、それぞれの人物像と登場人物を丁寧にすり合わせていった。上飯田町に実際に生活する人々も出演してもらっており、俳優たちの演技のなかに、いきいきとした町民の会話が溶け込み、フィクションにいろどりが与えられた。
フレームの外の町の風景、生活、人々が、巧みにフレーム内に融合した、この時代にしか撮れないエスノグラフィックムービーが誕生した。
コメント
上飯田という場所は実在するが、『上飯田の話』はどこにも存在しない。それは誰かの私的な記憶の場所でありながら、誰もが知っているはずの風景である。映画と現実。ドキュメンタリーとフィクション。歴史と現在。あなたとわたし。バナナの木とソフトボール。あらゆるものを結びつけながら分割する「と」という接続詞をヒョイと飛び越え無効にしてしまうたかはしそうたの大胆不敵さを御覧あれ。これもまた映画にしかできない離れ技である。
諏訪敦彦(映画監督)
その辺の普通の人たちのいつもの生活が、気味悪いほど確信に満ちた映像で撮られることによって何やら神聖なものに見えてくるから不思議。たかはしそうたは若くして映画の本質をつかんでしまったようだ。カメラがゆっくりパンを開始する度に、僕は自然と襟を正した
黒沢清(映画監督)
生きることを物語に要約しないことで、毎日の暮らしのどうでもいい細部にひそむ不安が見えてくる、隠された日常の発見。
谷川俊太郎(詩人)
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横浜の小さな町「上飯田」を舞台にした『上飯田の話』4月15日(土)ポレポレ東中野にて公開。