『渡鬼』の名セリフから学べること
私の母は、橋田寿賀子ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』が大のお気に入りだった。言わずもがな、平成2年にスタートし、岡倉家の5人姉妹とそれぞれの家族のひきこもごもを描いた名物ドラマである。
義理の両親と同居して何かと悩んでいた母にとって、嫁姑問題をリアルに投影してきた『渡鬼』は、共感必至のドラマだったのだろう。毎週欠かさずドラマを見る母の隣で、私も自然と一緒に見るようになった。
ドラマの中で私がもっとも印象に残っているのは、5女の長子に向かって姑の常子が言ったセリフである。
常子は、夫と本間病院を設立し、夫が亡くなった後は院長として女手ひとつで子どもたちを育ててきたという強者の女性だ。我が強く、嫁の長子にもズケズケと物を言う。
当時は子どもながらに「長子さんって大変だなあ」と思っていた。しかし、あるとき、常子が長子に伝えた言葉がとてもいいなと感じた。
私の過去の記憶に基づいているので、多少違った部分はあるかもしれないが、常子のセリフは概ねこういう内容だった。
「これからは長子さんのことを嫁ではなく友達だと思うことにする。あなたのことを嫁だと思うと腹が立つけど、友達だと思えば腹は立たないからね」。
私は心の中で密かに思った。「母と祖母も、お互いに相手を『嫁』『姑』ではなく『友達』だと思って接することができれば、もう少しうまくいくのではないか……」と。
それから年月が経ち、私も『渡鬼』の娘たちのように結婚した。私は母と違い、夫の親と同居はしていない。大らかで明るい義母にはいつもとてもよくしてもらっている。
それでも時折、「嫁だからこうしなければ……」と勝手に妄想癖が働いてしまうことがある。そんなときは常子のセリフを思い出す。「嫁だから、と真面目に考え過ぎなくても、友達だと思えばいいんじゃないの?」と。
そして、遠い未来にも思いを馳せる。いつか息子が結婚することがあれば、息子のパートナーを自分の友達のように思えたら素敵だな、と。