【幸願うブックカース】
※もう表紙ではなく、前書きすることで落ち着いたらしい
【800字ショートショート】
・ほぼ800字。ちょっと今回はズル気味な気がする←
・シーンを切り取ったもの、一応終わっているもの、特に気にせず書いています。
・定期的に書けるといいなぁ。
・ブックカース、初めて聞いたときすごくわくわくしたことを今でも覚えています。
↓以下内容
「ブックカース、って知ってる?」
クラスメイトの木戸成美の得意げな顔に向かって、俺は「知らない」と返した。
「本に書く呪いの言葉なんだって。本を盗んだ相手を呪うためにね。昔は今みたいに大量印刷できなくて、本が貴重品だったから」
嬉しそうに語る木戸に「ふーん」と相槌を打つ。話はまだ続くらしい。
「けど、呪うってのはどうかと思うわけ。どうせならもっと前向きに盗みを減らすべきだと思うんだよ。だって本だよ。悲しいじゃん」
何が「だって本だよ」なんだか。俺も読書はするけど、ここまで妙な執着はない。
「たとえば、呪いじゃなくて祝福するとか」
「いや、さすがにそれは無理があるんじゃ」
「良心の呵責とかするかもしれないし」
めでたいヤツだ。そんなのがあるくらいなら、万引きのせいで本屋が潰れることもないっつーの。俺は、古本屋のが利用率高いけど。
それからしばらくは「幸願うブックカース」について木戸は語っていた。
放課後。俺は行きつけの古本屋にいった。個人経営の店で、大手より居心地が良い。
「なんだ、これ……」
本を探していると、ある本の妙な文字の塊が目に付いた。目次の次のページに、小さな文字がびっしりと書き込まれている。当然、俺は木戸の話を思い出しながら、俺は文字に目を落とす。
『この本を盗んだ人を、私は許します。こんな悲しいことをした貴方は、かわいそうな人です。だから私は、貴方への幸を祈ります』
なんだこれ。まさか、木戸みたいに能天気なやつがいるなんて。俺は更に先を読む。
『私は、あなたの幸を祈ります。あなたの家族が炎に焼かれようと、あなたの友が八つ裂きにされようと、あなたの恋人の身が貫かれようが、あなた自身が幸運で、どんな苦境に立たされても決してただ一人無事であり続けることをお祈り申し上げます』
そこからどう家に帰ったかは、もう覚えていない。
それから俺は、古本に触ろうとすると――悪寒が止まらなくなっていた。
(終)