【ミえる幸せ】
【800字ショートショート】
・今回も「ほぼ」800字。ズルしてます。文字カウントでは800字だけど400字換算だと3枚。
・新人賞投稿するとかだったら読まれる前に落とされる感じ。
・でも妥協も大事。と自分に言い聞かせている。
・そしてここにあげる際にミスが見つかって直すと800字縛りが崩れている気がしている今日この頃。
・紙吹は考えるのをやめた。
・シーンを切り取ったもの、一応終わっているもの、特に気にせず書いています。
・今回は切り取り型、に近いかも?
・ただの余談ですが、創作物で「人には見えないものが見える」といえばどんなものだろ? とネタ出ししてみると、要素的には被っているものが多かった印象がありました。
↓以下本文。
「ったく、やんなっちゃう! あの子に会わなきゃ、遅刻しなかったのに!」
居酒屋の喧騒の中、美奈はジョッキをテーブルに叩き付けるように置くと、そう喚き散らした。
「まぁいいだろ。そんな悪いもんじゃなかったんだし」
美奈の向かいに座るのは和哉だ。豪快な彼女を、目を細めて呆れるように眺めている。
「まだ何も話してないのに、勝手にミないでよ!」
「お前が説明すると長いんだよ。だったら俺がミてさっさとまとめたほうが早い」
「私にだって愚痴る権利はあるでしょ!?」
「愚痴るようなこともねぇだろ。ただのかわいそうな子どもの霊だったんだし」
「あるわよ! なんであの子があんなところで寂しい想いしなきゃいけないのよ――」
和哉の隣、美奈の斜め前に座っている青年――浩樹は、二人のそんなやり取りを前に、心があたたまるのを感じていた。
二人には、普通の人間には見えないものがミえる。
美奈には、幽霊の姿が。
和哉には、過去の出来事が。
そして浩樹にも――普通の人間には見えないものがミえた。
「ちょっと、浩樹くん聞いてんの!?」
「黙って幸せそうな顔するのどうにかなんねーのか。気持ち悪いぞ」
二人とも、呆れ顔で浩樹を見る。
浩樹が二人のことを知っているように、二人も浩樹にミえるモノを知っていた。
それでも彼らは、普通に話してくれる。
「だって、二人ともほんと仲がいいからさ」
「誰が! こんな女子力マイナス女!」
「甲斐性が絶対零度な男に言われたくないわよ!」
お約束な流れに、つい浩樹の顔がさらに緩む。
『なんでこう、こいつ口が悪いの!?』
『こっちがつい言ったことにイチイチ乗るなよ! 少しはお淑やかになれ!』
浩樹の脳内に閃く――耳で聞くのとも、目で見るのとも違うモノ。
かつて浩樹を苦しめた――ミたくなかったモノ。
『でもまぁいっか。浩樹くん楽しそうだし』
『浩樹が笑ってるし、いいか』
重なってミえる、二人の言葉。
ありがとう――小さな浩樹の声は、居酒屋の喧騒に消えた。
(終)