【鎖の意味は】
「……なんだよ、これ」
少年の腕には、冷たい鎖が巻きついていた。少し動かすとジャラ、と重苦しい音がする。
「鎖よ。鎖を見たのは生まれて初めて?」
少年の向かいに立つ少女が、かわいそうなものでも見るような、呆れた声を出していた。
「そうじゃねぇよ! 何で、俺の、腕に、鎖なんか巻きついてんだって言ってんだよ!」
「私が巻きつけたからよ」
「んなことはわかってんだよ!」
「――逃げられないように」
瞬間、少年の背筋に冷たいものが流れる。
冷え切った視線が、絡んだ視線から少年の身体も凍らせたのだ。
「この鎖がある限り、あなたは私から逃げられない。何があっても、私があなたを捕まえる。絶対に」
得体の知れない恐怖で、身体が固まる。
しかし、いつの間にかに鎖の重みは消えていた。これはただの鎖ではないらしい。
――そんなことがあったのが、数ヶ月前。
少年の足から下は、闇が広がっていた。底が見えず、落ちたら二度と光を見ることは叶わない、そんな常闇の世界。
だが少年は、闇に落ちることなくぶら下がっていた。
――数ヶ月前に繋がられた、不思議な鎖によって。
縛り付けるだけのはずの鎖が、少年の帰るべき場所へ繋ぎとめていた。 少年の遥か頭上にまで、鎖は伸びている。その先端は見えない。
「……まさか、コイツに助けられるなんて」
少しずつその鎖が引っ張られ、常闇から遠ざかる。
この鎖は、縛るためのものではないのか。 何でその鎖で、自分を助けるのか。
宙ぶらりんの状態で引き上げられながら、少年は鎖をそっと撫でた。
(終)