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#2ウミノタイシよペンギンをいだけ

第二話「チーバくんのほっぺらへん」

ペンギン「ここがウミノタイシの家か」
大きな戸建ての家の前で並ぶ大志とペンギン。
大志「あの…家にお父さんいるにはいるけど…」
ペンギン「私は好奇心が強く人見知りではないので大丈夫だ。」
大志「いやあのペンギンさんの心配はしてない…」
大志「お父さんたぶん海に詳しくないと思うし…あとお父さんちょっと強烈だからなんというかペンギンが話せることに対してどんなリアクション取るかわからないんだよね…」
ペンギン「強烈とは?シャチか?」
二人の後ろに赤いアルファロメオが停まる。
ぎょっとして振り返る大志。
大志「おおおおおおおおお父さん!」
正彦「大志じゃーーーーーん、今日出かけるって言ってなかった!?」
背とテンションの高いスーツ姿の男性が笑顔で車の横に仁王立ちする。
ペンギン「はじめまして!南極から来たアデリーペンギンだ!海に詳しいというウミノタイシ君の御父上のお知恵を借りたく伺った!」
正彦、笑顔でペンギンを見下ろす。大志、真っ青になり二人を見比べる。
正彦「え、俺群馬出身だから海詳しくないよ!なになに遠くからいらっしゃーーーーい!!!!上がってってよー!ネクタイ似合う~」
ペンギン「グンマとは何か!?お邪魔します!」
大志「(ちょっと想像と違った初対面だ…!)」

シーン変更_海野家のリビング。
リビングのソファで濡れせんべいとコーヒーを囲む3人。
正彦「海野正彦と言います、まだ社員も少ないけどIT企業を経営しています。よろしくね。」
大志「あ、あのねお父さんこちらのペンギンさんはさっき犬吠埼で初めて会ったんだけど、言葉しゃべってるけど本物のペンギンらしくって…」
ペンギン「バズってコウテイペンギンが準絶滅危惧種から脱せる力を得たいのです!」
正彦「へー、良いじゃん良いじゃん!がんばりってよー!」
正彦、濡れせんべいを食べながらうなずく。
大志「お、お父さんあんまりびっくりしないんだね?」
正彦「何が?」
大志「だってペンギンが話してるしさ…何か壮大な目標を持って南極から泳いできたらしいよ。僕信じられないよ…」
正彦「え?でもお父さんも仕事で南極行ったことあるし、たまにはしゃべるペンギンもいるんじゃない?」
大志「(そうだ…お父さん他人とか動物に好きとか嫌いとか無いから偏見も先入観も無いんだった……)」
ペンギン「なんと、正彦さんは南極に来たことがあると?」
正彦「行ったよー、超大変だったんだけどさ!俺の会社さー「世界中のどこからでも仕事ができる!」ってのテーマにしてて~。その実証実験のために南極行ったんだよね。」
回想_正彦が防寒コートを着て南極大陸の上でノートパソコンをパチパチいじる姿。
正彦「めっちゃ寒くて!手がかじかんでパソコン落としてー」
回想_氷の上をすべっていくノートPC。追いかけて転ぶ正彦。
正彦「そのパソコンなくしちゃったけど、超大容量バッテリー積んでてさ、たまに位置情報とかログ確認するとまだ動いてるんだよね。」
正彦、自分のノートPCを取り出し、操作し、紛失したPCのログを確認する。
正彦「ん?無くしたパソコン…ここにある…?」
ペンギン「これか?」
ペンギン、背中(?)からすっと一台のノートPCを取り出す。
正彦、大志、驚く。
ペンギン「私がいつも通り氷上をお腹で滑っていると、私を追い越す黒い影があって追いかけたのだ。」
回想_滑るノートPCを追いかけるペンギン。
ペンギン「拾って開いてみると、たまに見かける人間の持ち物だろうなと言うのがわかり、操作しているうちにyoutubeにアクセスし…」
回想_南極でノートPCを操作するペンギン。
ペンギン「そこでおススメ動画を上から順に見て日本語を覚えたのだ。プレゼンやマネジメントに関するビジネス関連の動画だった。そうか正彦さんのモノだったか。」
正彦「そう…俺一対一は良いけど大人数向けのプレゼン苦手なのよ…」
大志「(それでペンギンさんそういう話し方だったんだ…)」
ペンギン「わからない言葉もすぐ検索している、キーボードがもう少し私のこの手だかヒレだか羽だかでも押しやすいと助かる。」
大志「(高校生って単語もこれで調べてたのか…)」
回想_大志が銚子駅で濡れ煎餅を買う後ろでPCを操作するペンギン。
正彦「いやいや何かの縁だね!それあげるあげる。俺ITの人間だからさ、ペンギンとか絶滅危惧種とかはわからないけど応援するよーーー。手伝えることあったら言って~。うちに住んで良いし。」
ペンギン「ありがとう、非常に助かる」
大志、ぎょっとして正彦とペンギンを交互に見つめる。
正彦「大志さ、一生懸命「自力でパソコン作ってみた」とか動画作ってたじゃん。あれでペンギンさんの動画とか投稿すればいーじゃん?最近更新してないみたいだったけどさー」
びくっと体を硬直させる大志。
大志「あ、うんうん、まぁそうだよね。やってみるよ。…ペンギンさん、僕の部屋案内するよ!二階に行こう!ありがとう、お父さん!!!」
慌ててペンギンの手を引いてリビングから出て行く大志。
正彦「………」
心配そうに大志の背中を見つめる正彦。

シーン変更_大志の部屋で大志とペンギンの二人。向かい合って座る。
ペンギン「ありがとう大志。おそらくウミノというのはこの家の名前だな。おそらく父上は海野の家の正彦、おそらく君が海野の家の大志。海野と海はおそらく関係が無い。そしてここはグンマ!」
大志「何で群馬だけ断定的なの。千葉だよ…。」
ペンギン「チバとグンマとは何かについてはまた今度詳しく会議しよう。」
ペンギン「さて、なぜ私が日本語を話せるのかは先ほど正彦のパソコンと私の運命的な出会いからわかったと思うが他に質問はあるか?」
大志「…質問…というより…」
床に体育座り、うつむく大志。正面から見つめるペンギン。
ペンギン「どうした、吹雪に耐えるペンギンのようだな。ここは寒くないぞ。」
大志「…僕は、ペンギンさんの役に立たないよ。」
ペンギン、首をかしげる。
大志「……僕、パソコンもスマホも使えないんだ。」
ペンギン、大志を見つめる。
大志「好きなのに、使ってるうちに、頭が痛くなったり具合悪くなるようになっちゃったんだ。」
大志「バズるのって絶対にパソコンかスマホが必要だよ。お父さんもyoutubeで…って言ってたけど動画編集なんか今はムリ。」
大志「将来はパソコンを使う仕事がしたかったのに、お父さんの会社で働きたかったのにそれもだめになっちゃったんだ。」
大志「僕だめなんだよ。」
大志「ごめんなんだけど、他の誰かに頼んでよ…。」
沈黙する二人。
ペンギン「…私は難解な日本語を操っているが、人間のことも人間社会のことも何もわからない。」
ペンギン「南極から一羽で旅立ち、ここまで来るには不安と恐怖ももちろんあったよ。」
ペンギン「…でも銚子沖を泳いでいたら、そうやって海に向かって悲しそうにしている君が見えたんだ。」
ペンギン「そんな君の姿を見たら私の不安は消えたよ。一人で砂浜でうつむいている君の悲しみに比べたら私の不安や恐怖なんて、小さいものだと思ったんだ。」
ペンギン「ネクタイを巻いてくれて、濡れ煎餅を買ってくれて、家に私を招待してくれてありがとう。お礼が遅くなってごめんね、大志。」
顔をあげてぼろぼろと泣き出すペンギン。
ペンギンがペタペタと歩き大志に近づき、手を方に置く。
ペンギン「大志も私を助けてくれた時、自分の悩みが後回しになっていたのではないか?」
はっ、とする大志。ペンギンと初対面の時の慌てた自分を回想する。
ペンギン、両手を腰に当て仁王立ちをする。
ペンギン「お互い助け合っていこうではないか!」
ペンギン「バズれば何でもいい!パソコンを使うのが目的なのではない!人間は困ったら何かを考えだすだろう?」
大志、銚子電鉄を思い出し、涙を袖でふく。
大志「…ペンギンさん、僕こそ、ありがとう。」
ペンギン、大志の体育座りの間に座る。
大志、後ろからペンギンを抱きしめる。
ペンギン「ハハハハハ!まだまだ考えてもらうぞ!」
ペンギン、回転しながら高くジャンプし大志と向き合って着地する。
ペンギン「まず私の名前だ!!!!私は名前が欲しいぞ大志!!!」
ペンギン「とびっきりカワイイやつを頼む!!!!」
大志、目を見開きながらプログラミングの教本、作りかけ自作パソコン、基盤、キーボードだけが散らばる部屋を見回す。
大志「……い、いちばん苦手なやつ……!!」
ペンギン「ハハハハハ!私もカワイイが何なのか全くわからん!しかしカワイイ名前は何個あっても良いからな!」
大志「なんかもうちょい違うミッションが良い…!あと名前は一人一個…!」
一階から二階の楽しそうな二人の声をに気付き微笑んでコーヒーを飲みパソコンに向かう正彦。


#3へ続く


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