旅が教えてくれる新しい自分【世界一周に踏み出した旅人・たけさん】
医薬品開発会社に8年間勤めリーダーとして激務をこなす傍ら、プライベートではインドひとり旅、スケボー浜名湖一周、自転車46都道府県制覇など、アグレッシブな旅に挑戦し続けるたけさん。
そんなたけさんが今まさに挑戦しているのは、世界一周の旅。32歳の今、キャリアを中断してまでも人生の大冒険に出る決断をした理由は何なのか。たけさんを突き動かす「旅」の魅力とは…?
「やらずに死ねぬ」、心に灯った小さな炎とそれを燃やし続けた論理思考
ーーまず、30代でキャリアを捨てて世界一周の旅に出るというのは、かなり勇気のいることだと思うのですが、なぜそのような決断に至ったのですか?
28歳の時に「世界を見てみたいな」という気持ちが芽生えたんです。でも、コロナもあって行けなくて。そんな中、スケボーで浜名湖一周をしたり自転車旅をするうちに、「自分は旅が好きなんだ」と強く思うようになりました。
もともと周りに合わせてしまうことが多くて、何かをやりたい、と自分から言うタイプではなかったんです。そんな自分に芽生えた「やりたい」という気持ちを大事にしたい、やっぱりこのまま死ぬのはいやだ、と思ったのが一番の理由です。
ーー旅のスタイルは色々ありますが、なぜ世界一周にこだわったのですか?
まずは、世界中の色々な人に会ってみたかった。
それだけなら、週末旅とか日本で観光ガイドのボランティアをするだけでも良いはずなんですよ。でも、どうしたら社会人として5年後の自分が1番カッコよくいられるだろう…と考えたんです。
自分理系なので、ものすごくロジカルな話になっちゃうんですけど…。自分が今持っているものと興味があることの掛け合わせで何ができるかを考えました。
ーー持っているもの、と言いますと?
①ありがたいことに、辞めてもいつでも戻ってきていいよと言ってくれる会社、②ある程度の貯金、③独身でカノジョもいない、です。恵まれてるようなちょっと悲しいような。でも、持てるコマをフルに使って、かつ自分が成長できることが世界一周だった、という感じです。
ーーなるほど、ものすごく腑に落ちました。
夢を語る口調じゃないんですけど(笑)。あと、南米とアフリカにどうしても行きたくて。それも退職という形をとった理由のひとつですね。
俺、けっこうカッコいいじゃん?
ーー世界一周で楽しみにしていることは何ですか?
ひとつはスペインのトマト祭りです。旅の間は、普段の生活では絶対やらないことをしよう、と決めていて。正直、お祭りとかワイワイするのはそんなに好きではないんですけど。
ーー旅だといつもと違う自分になれる、ということですか?
違う自分、新しい自分を発見できる、という感じですね。例えば、旅の中でものすごいピンチに遭遇してそれを切り抜けられた時とか。「あれ、俺ってけっこうカッコいいじゃん」みたいな(笑)。
ーーそのかっこいいエピソード、是非聞きたいです。
インドでスマホを失くしたんですよ。ガイドブックや航空券も全部スマホに入ってたので、完全に途方に暮れました。
でも、宿の人に助けてもらったり、道で出会った現地の中学生にローカルガイドをしてもらったりして。スマホが無くてもこんなに楽しめるんだ、という自分に驚きました。
意外となんとかなるというか、昔のバックパッカーみたいな旅でもある程度生きていけるんだな、という自信になりました。
ーー確かに、それは経験値上がりますね。それが最大のピンチですか?
最大のピンチは、空港に向かう途中で自転車がパンクした時ですね。直してたら完全に乗り遅れるっていう状況で。必死でヒッチハイクして、あと1,2分のところでギリギリ間に合いました。
あれはカッコよかったな。
旅がくれた「挑戦する楽しさ」と「達成感」
ーーたけさんの旅は「挑戦」もテーマのひとつですか?スケボー浜名湖一周や、自転車46都道府県制覇って、ちょっと普通じゃないというか。世界一周中に自転車ヨーロッパ横断もされる予定ですよね?
スケボーの旅は本当に軽い気持ちで初めたんです。コロナの閉塞感から何かしたい!と思っていた時にたまたま琵琶湖を一周している人の動画を見て。とりあえず琵琶湖より小さい浜名湖にトライしました。
実際にやってみたら想像以上にキツくて、スケボー琵琶湖一周の夢は潰えましたけど(笑)。でも、自分の足で進む楽しさと、アホな挑戦でも意外と応援してもらえるんだ、という嬉しさを知りました。そういう世界って素敵だな、と思ったんです。
ーー自転車旅の魅力もやはりそこに?
そうですね。それに加えて、苦労して絶景に辿り着いたときの感慨はひとしおです。正直、ツラすぎて泣きながら漕いでた時もありますけど…。でも、そういう達成感が好きなんです。
一期一会の出会いで知る新たな自分
ーー自転車旅では色々な方に出会われたそうですね。どんな話が印象に残っていますか?
長崎で出会ったおじさんは印象的でしたね。「俺、勤めてた造船所が閉鎖になって、来月から片道切符の単身赴任なんだ…」、と話してくれました。
ゲストハウスで出会う人って、一晩だけの出会いじゃないですか。でも、だからこそ話せることって絶対あると思うんです。おじさんの話もそうですけど、もっと小さい仕事の悩みとか…。
ーー普段はあまりそういった心の内を話さないタイプですか?
そうだと思います。友達や家族には逆に言えないことってありますよね。夢の話もそう。旅をしながら、夢の話は沢山しました。デザイナーになりたいとか、自分の個展を開きたいとか、そういう色々な人の夢を聞くのも楽しかったな。
ーーたけさん自身も夢の話を?
しましたね。一期一会の出会いだからこそ、ちょっと照れくさいことも話せたんだと思います。考えてみると、夢の話をする機会って今まであまり無かったなって思って。だからこそ、言語化することで自分でも意外な気持ちに気づくことができました。
本当の自分はひとつじゃない
ーー旅中のハプニング、挑戦、出会いを通して新しい自分に出会えたんですね。それによって、仕事でのご自身にも変化はありましたか?
うーん、それはまたちょっと別の話で。
ーーえ、そうなんですか?
職場ではいつも余裕が無くて、死にそうになりながら働いてましたね。後輩からは、「会社に住んでますよね」とか、「仕事の話以外したらダメな人だと思ってました」とかよく言われてました。
20代後半で旅に目覚めてから、旅では自分の別人格を出せるようになった、って感じかな。旅の写真を見返すと、「自分ってこんなふうに笑えるんだ」、と思うことがあります。
ーー真面目になり過ぎてしまう職場の自分と、旅の自分。全くの別人格を切り替えるのは大変じゃないですか?
そうは思わないですね。違う一面を持つことで逆に上手くいくことってあると思うんです。それに関しては、平野啓一郎さんの『私とは何か』という本にとても共感しました。
旅とその本を通して、ひとつの自分に囚われなくてもいい、色々な自分を出せる場所があるから心が安定するんだ、と考えられるようになりました。職場での真面目な自分も、旅での緩んだ自分もどっちも大事にしたいです。
ただ、もう少し日常でも笑顔になれたら、とは思います(笑)。ハッピーオーラをまといたいというか。旅は、そんな自分自身の探検でもあると思うんです。
旅は自分を楽しませる最強のツール
ーー逆に旅をしていなかったら、どうなっていたと思いますか?
すごく怖いですね。旅をしたからこそ興味の幅も視野も広がったと思うので。旅の自分がいるから、仕事で大変な局面も乗り越えられたと思います。
それに、楽しいと思うことが180度変わっちゃったんです。
ーーどんなふうに?
今までは与えられる楽しみで生きてきたなって思うんです。漫画とか映画とか、誰かが作ってくれたものを受け取る楽しみ方。でも、旅って受け身だと絶対楽しくないんですよね。
お酒が必要なくなったのも大きいですね。昔は週3で友人や先輩後輩と飲みに行っていて、それが楽しかった。今も楽しくないわけではないけれど、相手があっての楽しみなんですよね。
今は、ひとりでも能動的に自分を楽しませることができる。だから、旅をしていない自分はもう想像できないですね。
新たな旅をスタートして…
ーー今はフィリピンで語学留学中とのことですが、何か変化は感じますか?
フィリピンの先生から、「前より笑うようになったね」と言われました。それがすごく嬉しかったですね。最初の頃は、ものすごく深刻な顔で勉強していたみたいで…。まだまだハッピーオーラにはほど遠いけど、ちょっとずつ笑顔になれてきてるのかな。
ーーたけさんにとって世界一周は、ハッピーオーラをまとうための休息期間、という感じですか?
そうですね…休息期間であり、勉強期間であり、思いっきり遊ぶ期間でもある。全部大事にしたいです。
人生で迷うことは沢山あるけれど、しっかり迷って悩んだ経験はきっと自分を強くしてくれる。そう信じています。
これからどんな自分に出会えるのか、自分でも楽しみです。
編集後記
あくまでも真面目に、でも柔らかな笑顔でそう語るたけさん。何事にも100%全力で向き合ってきたからこそ、今のたけさんがあるのだと感じました。「社会人の旅は単なる遊び」という風潮がまだまだある世の中で、旅を通して学び成長しようとするたけさんの姿は、私たちに新しい生き方の選択肢を与えてくれるような気がしています。
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