実録・鉄道トラブル(その20)試9270M車両故障(2008年4月12日の日記)

指令の同僚6名で昼飯を食っていたら、小松-粟津間で試9270Mが車両故障のメールが来た。
幸い皆食べ終わっていたので、すぐに指令に帰還。
駅間に停車していて、自力走行ができない上、後続は貨物列車でこれまたすでに同駅間に進入していると言う状況。
試9270Mは第1閉そくと第2閉そくの間、貨物は第2閉そくと小松出発の間に停車。

貨物で683系を救済するしかないのだが、EF81と68系の連結は前例が無い。
当然訓練でもやったこともないし、必要性も感じていなかった。
ちょっと幸いしたのが、試運転列車だったので検査係が乗車している。
中間連結器の取り付けや救援の準備は任せられるので助かる。
さらに貨物列車にも貨物会社の指導が乗っていた。

しかし、運転士にも冷静な判断力が求められると思ったので、とりあえず列車区に電話して運転士の名前を確認。
N!(女性運転士)
まぁ、大丈夫か・・・。
などと思うわけが無い。

運用指令は以前ヤンチャレで来たときに一緒に飲んだので全員知っている。
俺に連絡係りの役割をやれとの視線を感じたのでとりあえず携帯の番号を聞いて連絡。

その後色々やり取りがあったがざっくり省略。

運転再開準備が整ったとの情報を受け最終確認。
当然だが万が一と言うことも考えてATSの「入」をたずねると入っていない・・・。
検査の指示でマイ方を”後”ナホ方を”前”にしたと。
当然ブレーキ試験もこの状態で行った。
エンド交換して再度ブレーキ試験を行うように指示したが、検査係は良く分かっていない様で説得に時間がかかった。

まぁ、なんだかんだと2時間以上かかって運転再開

その後金沢から681系で救援列車(運転士はS係長)を出して連結して車両所に取り込んだ。

と言っても自分は五箇山に遊びに行く予定だったので、金沢に戻るのを見届けずに五箇山に向かったんだけどね。

何はともあれ、前頭でブレーキが取れない状態で列車を運転せずに済んだ事がとても良かった。


解説
貨物列車と連結した後の事が書かれていませんが、貨物列車の前に681系3両を連結して粟津の上1番線に入線させ、そこで681系を開放。
貨物列車は後退させて上本線に入れてそこから運転再開と言う手順です。
ここまでに故障発生から4時間以上かかってしまいました。

検査係はとりあえず連結してブレーキさえ緩めば良いと思っていたらしく、最初の併結がNGと言う事を携帯電話で話してもこれで良いの一点張りで説得時ちょっとイラっと来ました。

何とか説得して運転台整備がやり直せてよかったのですが、そのまま運転していたら保安装置(ATS)不使用でさらに大事になっていたと思うので、自分ながらよくあそこでATSの状態を確認したと褒めてやりたい気分でした。

この故障は運転再開まで4時間以上かかり大規模な輸送障害となったことから本社案件となり後から様々な観点から検証する事となりました。

運転士目線では、故障発生時は100km/hくらいで走行していて、故障内容は力行系の故障だったので、その場で止まらず粟津まで運転した後で止めれば、後続列車は副本線を使って運転できたにもかかわらず、駅間で止めてしまった事が非常に悔やまれました。

検査係が停車の指示を出したので止めたとの事でしたが、運転士もすぐに止まらなければならない故障では無い事は判断できたはずです。
にも拘らず安易に検査係の指示に従ってしまった事は大きな反省点でした。

検査係にしても、運転取扱の事を全く知らないとは言え、停車すると運転再開できない事が分かっている故障にもかかわらず、駅間で安易に停車を指示した事は反省すべき点です。

しかし、運転士と監査係がお互い責任のなすり合いをしていても何の解決にもなりませんから、後日双方で意見交換会を開きました。

私も運転士側の立場で参加しました。
運用指令は日常的に車両担当と交流があるし、彼らの苦労や努力をある程度は理解していたので、運転士と車両側の仲介役を担うことができ、我ながら充実した意見交換ができたと思っています。

車両担当の社員に運転取り扱いを理解してもらうのは非常にハードルが高く、それが活かせれる機会もほぼ無い一方、運転士が車両知識を強化する事は、車両故障の対応能力にもつながり、今回の様な結果的に無用に大きな輸送障害を招くことも無くなりますから、運転士側の努力が効果的です。

さらに、車両担当の社員も車両故障が発生した場合の処置について、自分たちだけで判断せず、運転士にも以後の処置の判断についてアドバイスを求める様にすべきだと言った意見も出ました。

幸か不幸かこれまでにこの意見交換会の意見が生かされた事象は発生していません。
幸の部分は、検査係乗車中の重大な車両故障が発生していない事。
不幸な部分は、おそらくすでにこの時の論議が忘れ去られている事。
です。

ただし、2023年1月下旬に発生した京都地区での雪害もこの事象に共通する部分が大きいと思いますし、縦割り組織の意識はそう簡単に払拭できるものでは無いでしょう。
むしろ縦割りを続けたいと思っている人がまだまだ多数派を占めていると見えますので、この問題の解決の見通しは今の所立っていないと思っています。

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