千歳市に集う、世界有数の半導体製造装置メーカーたち
2025年、日本の半導体業界の地図に変化が起こっています。
北海道は千歳市が、新たな半導体の製造拠点となろうとしています。そう、日本の新たな最先端半導体メーカーであるRapidus株式会社の工場"IIM"がまもなく立ち上がろうとしています。
半導体メーカーが進出するということは、つまり、半導体製造装置メーカーがそこに集結するということ。今回は、千歳市に集まり始めている半導体製造装置メーカーの様子についてお伝えします。
千歳市以外の都市については、以前に投稿したこちらの記事をご覧ください。今回はこの記事の続編になります。
千歳市のRapidus新工場"IIM"
2022年に国内の企業が共同で出資し立ち上がった、Rapidus株式会社(ラピダス)は、世界最先端のロジック半導体のメーカーとしてその名を轟かせようと、着々と準備を進めています。
最先端のロジック半導体?と言われてもピンと来ない方も多いと思いますが、簡単に言うとスマートフォン・パソコンなどのコンピュータの頭脳を担う部分に使われる部品を指すと思っていただければOKです。その中でも最先端ということで、超高性能AIなどへの活用が期待されるものになります。
そして、Rapidusが半導体を製造するために立ち上げている工場がIIM (イーム)です。Innovative Integration for Manufacturingの略らしいです。
IIMでは最小2nmの線幅を実現することを目標としており、現在IBMやimecなどと共同で研究開発が進んでいます。2nmってとんでもなく小さいので、実現すればえらいことです。このへんのすごさについて説明すると長くなるので割愛しますが、米粒写経の究極オブ究極と思ってもらえれば幸いです。実現すればコンピュータの性能が何倍にも向上します。
そんなIIMの場所として、北海道千歳市の美々が選ばれました。千歳市は北海道の中央、札幌市から少し南に下った場所にあり、新千歳空港がある街として多くの方もご存じかと思います。
IIMは新千歳空港からすぐ近くの場所に建設中です。かつてJR千歳線の美々駅があった場所あたりです。あの時廃止していなければ……。
選定理由は下記の通りです。
要約すると広い土地と水と電力があり、また魅力的であるということが決め手とのことです。以上は北海道のほとんどの土地に当てはまる気はしますが、何より空港に近くて便利なのがよさそうですね。
IIMは2025年4月にパイロットライン(試作製造)が稼働、2027年に量産開始予定で、着々と準備が千歳で進められています。先日は、ASMLの最先端のEUV露光装置がIIMに設置されたことがニュースになりました。なぜ話題になるかといえば、これら装置が1台あたり数百億円以上(数千億かも)するからです。
このように、半導体製造に必要なのが、半導体製造装置です。半導体製造装置は非常に高度な技術が必要であることから、そのメーカーはかなり絞られています。日本のメーカーが強いのも特徴です。
そんな半導体製造装置を提供するメーカーの多くが、半導体製造工場の付近に営業所を出店するという傾向があります。詳しくは前回の記事をご覧ください。
千歳市への半導体製造装置メーカー進出状況
さて、千歳市にはどれほど半導体製造装置メーカーが集まっているのでしょうか。調査いたしました。
前回と同様、半導体製造装置メーカーの売上トップ10の企業を対象としました。調べた中で最新のデータはTech Insights社が発表する2023年の売上ラングだったので、こちらを参照します。なお、Tech Inights社の元記事が見つからなかったので、代わりにマイナビニュースの記事を引用元とします。
ランキングは下記の通りです。カッコ内は略称で、以下の記事中では略称で表記します。
2021年のランキングからの変化としては、9位だったKokusai Electricが14位に下がり、代わりに中国のNAURA(北方華創科技集団)がランクインしました。これは中国の台頭というより、アメリカ主導による輸出規制に伴い、中国国内での需要が高まっているからだと考えられます。
では、これら10社は千歳にどれだけ進出しているのでしょうか?対象メーカー、またはその現地サポートを担う子会社の営業拠点を調査しました。
こちらがその結果です。
結果、2025年1月時点で、千歳市の工場周辺に6社が進出していました。上図内にある5社のほか、KLAが隣の恵庭市に居を構えており、さほど遠くないのでカウントに含めました。
6社というのは、ともにソニーのイメージセンサー工場がある長崎県諫早市や山形県鶴岡市に並ぶ数字となりました。一方で、同じくソニーのほかTSMC(建設中)が構える熊本県北部や、キオクシアの工場がある三重県四日市市の9社にはまだ及びません。(前回記事参照)
それぞれの立地をみていくと、多くが駅前のアクセスしやすいところに進出しています。特にASML/TEL/SCREENの3社はなんと同じ建物(千歳ステーションプラザ)にテナントを構えています。
これは前回の調査でも見られた傾向であり、営業拠点は工場近くよりも、付近の市街地の中心駅周辺に拠点を構える傾向にあります。ちなみにAMATの営業所は住所はホテルの中になっているので、まだ仮の拠点なのかもしれません。
新千歳空港や工場からのアクセスを考えると、南千歳駅のほうが便利に見えますが、実際には千歳駅に集中する結果になりました。これは、上の航空写真からもわかる通り、南千歳駅が市街地の外にあり、周りにあまり商業施設等がないためと思われます。逆に南千歳にあるLamの拠点はビル内のテナントではなく、自社の建物を構えているようです(↓の埋め込み画像参照)。
このように、千歳市は多くの大手半導体製造装置メーカーが着目する都市であり、日本各地の半導体製造拠点と肩を並べる存在になろうとしています。2025年春にIIM-1のパイロットラインの稼働が始まりますが、本格的な量産開始に向けて、さらに進出する製造装置メーカーが増えるかもしれません。今後の動向がまだまだ気になります。
千歳市のいま
さてここまで地図から読み取れることをまとめてきましたが、以上のことはおうちでこたつに座ったままでも知ることのできる範囲です。
では、実際の千歳市の様子はどのようになっているのでしょうか?
というわけで……
実 際 に 行 っ て き ま し た 。
訪問したのは2025年1月。まずは空港から建設中の工場、IIMを眺めます。国内線ターミナルの上の階にある、フードコート併設のデッキから滑走路越しに見ることができます。
肉眼だとよく見えるのですが、写真だと非常にわかりにくいですね……。ともあれデカいです。北海道の広大な大地の中に佇んでいるので、むしろ小さく見えてしまいそうですが、それでも大きさを感じます。
空港から工場の建設の様子を見た後は、電車で千歳駅へ移動しました。すると途中の南千歳駅にて、夕方で薄暗い中に煌々と輝くLamの営業所の看板が電車内からも見ることができました。こうして目立つためにあえて南千歳に来たのでしょうか?
千歳駅で降り、改札を出ると、通路を通って雪の降る屋外に出ることなく千歳ステーションプラザに行くことができます。そう、ここにはASMLとTELとSCREENの3社が営業所を置いています。
平日の夕方に訪問しましたが、ASMLとTELのいるフロアは閉まっていて様子は見えませんでした。ただ、SCREENの営業所は、レストランや地銀やカーブスと同じフロアにあります。
とりわけ印象的だった光景がこちら。
建物の外から、キャン☆ドゥとともにASMLやTELが看板を並べるという光景が見られます。まったく企業規模の異なる会社が並んでいる様子を見てとてもテンションが上がりました。これが見たかった!!!もちろんASMLの製品は100円では買えません(1台数十億~数百億円以上)。近鉄四日市駅の近くの駐車場に、手書きで「ラムリサーチ」と書かれた車止めを見たとき以来の感動を覚えました。
また、この後は札幌まで移動したのですが、札幌駅にはLamの求人広告がでかでかと掲出されていました。北海道という新天地への初出店ということもあり、人材確保が各メーカーで急務であるということが伺えます。
以上、千歳の現地レポートでした。
食品工業が盛んな北海道ですが、新たに半導体製造の拠点として輝く日も遠くないかもしれません。ぜひ観光だけでなく、半導体の製造拠点としての北海道を見に来てみてはいかがでしょうか。
おまけ
千歳市といえば。
そう、太陽の恵みです。千歳を訪問するたびに私は毎回訪れています。
地元の方々から親しまれているこの飲食店ですが、訪問した日は2025年初めての営業日だったらしく、夕方に訪れたころには多くのメニューが売り切れていました。
ですがありがたいことにお目当てのオムライスにありつくことができました。とてもとても美味しかったです。
念のため補足しますが、上の写真に私の私物は映っていません。お店の内装です。
そういえば千歳市といえば声優の鈴木愛奈さんや花井美春さんの出身地でもあります。この店に邪神ちゃんドロップキックの邪神ちゃんとリエール、ラブライブ!サンシャイン!!の小原鞠莉、アイドルマスターの村上巴などのグッズが非常に多数飾られているのはそういった縁からです。いやーそれにしてもなんでこんなに多いんですかねー(すっとぼけ)。
ということで以上、千歳市レポートでした。みなさんもぜひ、千歳市の街を訪れてみてはいかがでしょうか。
それではまた。