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【読書日記】9/23 自分の「小説×○○」を見つけること。「刺繍小説/神尾茉莉」

刺繍小説
神尾茉莉 著 扶桑社

雑誌MOE10月号の特集は「糸で描く、とっておきの物語 絵本のような刺繍」でした。

JUNOさんの「やぎさんのさんぽ」など可愛い刺繍がたくさんの10月号。

刺繍絵本の紹介、基本的な刺繍の刺し方、人気の刺繍作家10人へのインタビュー、等々、刺繍好きには嬉しい特集でした。

そして、その特集の中で紹介されていた「刺繍小説」が本書です。

刺繍小説とは、刺繍描写のある小説のこと。

美術家の神尾さんは、「トリツカレ男(いしいしんじ 著)」の刺繍の場面を読んで「言葉でできた刺繍」がこの世には存在する、そう気が付きます。神尾さんはそれらを「刺繍小説」と名づけ、刺繍小説との出会いに目を光らせるようになりました。

そして、「刺繍小説」の中の刺繍を再現した作品や、小説のなかの人物が来ていそうな刺繍の服や持っていそうな刺繍の小物を想像して刺した作品など「小説」と「刺繍」をテーマに展開する本です(図案付き!)

「トリツカレ男」の主人公は、ハツカネズミをモデルに刺繍をする
京極堂「陰摩羅鬼の瑕」の奥貫薫子は婚礼前夜白いブラウスを着ている。

本書の中のいしいしんじ氏との対談の中のことばが印象に残りました。

刺繍と織物、どっちが小説に似てるだろうって考えたら、間違いなく織物だと思う

織物は一反二反って伸びていくもので、小説にも長さがある。でも、刺繍には長さってないじゃないですか。それで、刺繍ってなんだろうって考えてたんだけど…僕ね、詩やと思ったんです。すごい大きなものでも詩になるし、たった一言でも詩になる。決して何かに張り付いていないし、横たわってもいない。刺繍も詩も浮かんでるでしょう

刺繍と織物、詩と小説。わかるような、わからないような。

本書の美しい刺繍、「刺繍」という切り口で集められているので一見ばらばらに感じられる様々な小説。
その取り合わせの妙味を楽しみました。

「○○と小説」。
本書のように、自分なりの○○を自覚して意識的に探してみると、今以上に自分らしい本棚が育っていくのでしょう。
自分の軸とは何か、この機会にしっかりと考えてみたくなりました。

さて、私は刺繍が好きです。
不器用なので自分で刺すことのできるものはごく限られているのですが、図案集などを飽かず眺めております。
特に日本や世界の伝統刺繍などに惹かれます。
人が布に糸で模様を施す。
世界中にその土地土地の伝統的な刺繍があります。
鮮やかな色、すっきりとした色、色とりどりのもの、単色のもの。
素朴な模様、精緻な模様、直線的な模様、曲線的な模様。
人がこれだけ美しい刺繍を生み出してきたのはなぜでしょう。

刺し子のように、薄く目の粗い布に糸を刺すことで強度を増し、保温力を高めるなど実用的な意味合いのある刺繍もあります。
でも、それならばただの並縫いで埋めつくせばよいだけです。
縫い目を工夫して模様になるように、そして、それぞれに吉祥・魔除けの意味を持たせる。
限られた条件の中でも、美しくありたいと願い、さらに大切な人が幸せであるように祈りを込める。

尊い人の営みの証。
一針一針誰かのために施された刺繍を見ると、人は善きものだと信じられる気がするのです。

久しぶりに針と糸を手に取りたくなりました。