【読書日記】3/13 コロナ禍の物語。「パラダイス・ガーデンの喪失/若竹七海」
パラダイス・ガーデンの喪失
若竹七海 著 光文社
今日からマスクは個人の判断、となりました。
これについては色々思うところもありますが、それはさておき。
コロナ禍は、「神奈川の盲腸」とよばれるへんぴの地・葉崎市にも大きな影を落としていました。
これは、2020年秋の葉崎市、新型コロナウィルス感染症が蔓延し、緊急事態宣言の出ていた頃を描いた物語です。
葉崎市の山の中、見晴らしのよい崖の上にある観光庭園〈パラダイス・ガーデン〉。
オーナーの房子は、緊急事態宣言により営業自粛を余儀なくされ、そろそろ営業を再開しようという矢先、庭園のベンチで身元不明の老女の死体を発見してしまいます。
一体、この老女はだれなのか、病気でもう長くないと思われる様子だったのになぜ自殺などしたのか。
この謎を主軸に、葉崎の人々の思惑や疑心暗鬼が絡みだし、それぞれ人の物語が動き出します。
房子の母が友人たちと催したキルトの会で何があったのか、高名なキルト作家とその弟子の関係の謎、死んでいた女性の手作りマスクなど、「パッチワーク」が重要なモチーフとして使われていてそれぞれの章もパッチワークのパターンの名前が付けられています。
そして、介護施設、放置子、リモートワーク、DV、ママ友、シャッター通り、LGBT等等、コロナ禍と現代を浮き彫りにする世相が一つ一つ、それぞれの色と形を持ったピース(パッチワークを構成する小さな布。ピースをはぎ合わせて模様を作る)であって、複雑なピースが集まって無駄なく一つのキルトを作り上げていくような物語となっています。
若竹さんの創り出した土地、葉崎市の十年ぶりの新作なのですが、コロナのせいか時代のせいか、「温暖な気候がノー天気な人々を育む」といわれる葉崎市の人々の間にも重苦しい空気が立ち込めていて、やや苦い物語でした。
ほんの数年前のことなのに、なんだかあの戦々恐々とした日々を遠く感じてしまいます。アフターコロナを見据えるのも大事だけれど、パンデミック下で人々がどう動いたのか、次のときにどうあるべきか、このような物語のかたちででも語り継ぐのは大切なことだと思っています。