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【読書日記】6/29 初夏を喜ぶ。「野ばらの村のおひっこし/バークレム」
野ばらの村のおひっこし (野ばらの村の物語)
ジル・バークレム (作・絵),こみや ゆう (訳) 出版ワークス
三匹の赤ちゃんが生まれたポピー。赤ちゃんたちは可愛いけれど、お世話にてんてこ舞いでくたくた。
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一家が住んでいる粉ひき小屋は「うるさいし、粉っぽいし、じめじめしているし、それに階段が、やたらとおおい」ので赤ちゃんを育てるには向いていません。
一家を心配して、アップルおじさんたちは空き家の「サンザシの花荘」をきれいに修繕することにしました。村のみんなが協力してポピーに内緒で準備が進められます。
待ちに待った赤ちゃんの命名式の日に、新しいお家へ引っ越しました。
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初夏の季節にぴったりのこの絵本。
細かく描き込まれたイラスト、木の幹の中の家、その調度品、ねずみたちの衣装とかいくら見ていても見飽きない、見るたびに視点を変えるたびに新たな発見があるのです。
バークレムさんがこう語っています。
ねずみたちの衣服、食料、住居、道具などはまわりにある素材から作ることが可能であること、チーズ小屋、粉ひき小屋、織り機なども、水力や手動でちゃんと機能することにもこだわりました。
そのため、長さは、人間の単位ではなく、ねずみのしっぽや足で単位を作り、重さは、ドングリや小麦の粒で、時間は、日時計やロウソク時計ではかるようにしました。
だからこそ、ありえない世界なのに、どこかにこんな「思いやりのある愛情に満ちた」ねずみたちの村がある、そう素直に信じることが出来るように思います。
三匹の命名式、野ばらの村の一同が集まるシリーズの中でも屈指の素晴らしい場面で、なぜだか涙が浮かんできます。
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野ねずみじいさんは、あさつゆを、赤ちゃんの頭にふりかけていいました。
枝の つぼみは ふくらんで 花 ひらき
クロウタドリは 緑陰の東屋で 歌を うたう
丘の上から 陽がのぼり
草原と 小さき 君を 照らすだろう
「なんじを、ローズと名づける。」野ねずみじいさんは、やさしくいいました。
そして、この絵本の最後は「ローズと、バターカップと、ピプキンの、あかるい未来をいのって かんぱい」という言葉で締めくくられます。
何かと暗い話題の多いこの頃です。あかるい未来をともに祈りたいと思います。
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