ハイブリッドエレクトリア第5話『男性型ハイブリッドエレクトリア』

「どこへ向かっているんだ!」
 リアはバイクで並走しながら声を荒げた。
「ついてきな!」
 男はそれしか言わなかった。
 街からバイクをとばして1時間。……やがて2人が到着したのは寂れた温泉街だった。かつては観光地として賑わっていたが、今では営業している店を探す方が難しいほどだった。店はことごとくシャッターを閉じ、そのシャッターは錆で赤茶けていて、通りのアーケードも屋根が剥がれ落ち、アスファルトは割れて、ほとんど砂利道のようだった。
「ここだ」と男は言った。「この温泉地の奥に、近衛理研が保養施設として使っていた『このえ温泉ホテル』がある。もう10年以上前に閉鎖している。そこに乾とプロトエレクトリアがいる可能性が高い」
「なるほど」とリアは言った。「そこだけ旧ROMの証言から漏れていたわけか」
 その時、リアは高速で飛行するブースターの音を聞いた。振り返って、空を見ると、大型オートエレクトリアが5体こちらに向かって来ていた。
 リアはロードエクステンションを分解し、自らの装備に換装した。リアの体を虹色の霧が包んだ。
 ヘッド:イビスオキュラス
 ボディ:コマンダーボディ
 リア:フォトンブースター
 レッグ:アーミーブーツ
 バックパック:ライトブースター
 右手:ブレイドガン
 左手:レドームシールド
 サブ:なし
 
 以上の装備で、リアは空中へ飛び上がり応戦した。
「おーい」と男が言った。「1体はダメージを与えず生け捕りにしろ!」
 リアは舌打ちをした。
『だったら自分でやればいいだろ!』

 ……リアは4体を行動不能状態にし、1対は言われた通り、武器を破壊し、羽交い絞めにして地上へ降りてきた。
「こいつをどうするんだ」
 と大型オートを男に引き渡して言った。
「こいつを使ってプロトエレクトリアをおびき出すのさ。今、お前が咄嗟に応戦したように、プロトエレクトリアを釣ることができるはずだ。ああ、使える武器が落ちているだろ。拾っといてくれ、アサルトライフルとレギュラーミサイルは最低限ほしい」
 男は大型オートをファイヤーマンズキャリーの形で担いで歩き出した。リアは武器を拾ってそれについて歩いた。
 温泉街のはずれ、雨が降ればすぐに氾濫しそうな川を挟んで、『このえ温泉ホテル』はあった。
 男は建物の入り口を見下ろせる位置である、橋の上で止まった。
「ここら辺りでいいか」――男はそう言って、大型オートを地面にうつ伏せにして置いた。「おい、こいつの足を押さえろ」
 リアは言う通りにした。男は大型オートの腕を足で押さえて、左手でその首を掴んだ。
「見たくないなら目を瞑っていてもいいぞ」と男は言った。「今からこいつのプログラムを書き換える」
「なに?」とリアは言った。「近衛の技術者でさえ解析ができなかったんだぞ」
「まあ人間には無理だろうな」と彼は言った。「俺たちハイブリッドエレクトリアにはできる」
 男はそう言って、右手を手刀のかたちにした。その右手が赤く輝き、それで大型オートのうなじから後頭部にかけて切り開いた。大型オートはもがくように手足を動かそうとした。が、押さえつけられて動けないので、胴をくねらせた。リアは目をつぶって、背中を押さえた。
「人間に解析できないのには理由がある。大型オートに与えられたプログラム、つまり命令自体はとてもシンプルだ。そのシンプルな命令をこれでもかというほど複雑に何重にも暗号化しているからだ」
 男はそう言って、右手の指先から糸のようなものを出した。その糸が大型オートの体の中に入った。
 彼はしばらく沈黙していた。その間、大型オートはもがき続けていたが、だんだんと動きが弱くなっていった。そして全く動かなくなった。
「よし」と男が言った。「もういいだろう。離してやっていいぞ」
 解放してやると、大型オートはリアが拾ってきたアサルトライフルとレギュラーミサイルを装備して、このえ温泉の方を見た。そして建物に向かって飛んで行った。
「何をした?」
 とリアが言った。
「元々の命令の中身は」と男がジーンズのポケットに手を入れて言った。「“ナノマシンとエレクトリア両方の性質を持つものを破壊しろ”だ。その対象から俺とお前を除外した。だからあいつはプロトエレクトリアだけを狙う。……建物に向かって行ったということは正解だったようだな」
「ま、まて。ハイブリッドエレクトリアを狙うようにプログラムされていたのか!」
「ああ、そうだ。だからこれまでの近衛に対する襲撃も本当はお前自身を狙ったものだ」
『それではプロトエレクトリアまで……。やはりあれを製造したのは乾じゃないのか?』とリアは思った。「……しかし、なぜそこまで解析できていて、大型オートを使って乾の場所を探らなかったんだ? そっちにも襲撃は来ていただろう」
「もちろんやろうとしたさ」――男は笑った。「力加減が難しくてね。全部壊しちまうんだよ。ほら、俺、強過ぎるから」
 リアは舌打ちをし、それ以上は語らず。2人は橋の上から大型オートを見守った。
 大型オートはホテルに向かってミサイルを撃った。中にプロトエレクトリアがいると認識したらしい。が、ミサイルは建物に当たらずに空中で爆発した。迎撃されたのである。ホテルの正面入口に一人の女が立っていた。プロトエレクトリアだった。リアはその姿を確認するとすぐに特別自警統括部に緊急連絡を入れた。プロトは一瞬で大型オートを撃破した。彼女の装備は以前とは違っていた。ナース服に刀を持っているのが見えた。
「ビンゴだ」と男は言った。「さて、中に乾も一緒にいることだろう。行くぞ」

 男は橋の上から正面入口に向かって飛んだ。リアもこれに続いた。プロトは飛んでくる2人の姿を見て、ホテルの中に逃げこんだ。2人はホテルに突入した。突入した2人が見たのは、メインロビー奥の大きな階段の前で刀を構えるプロトの姿だった。
「ここは通さない」
 とプロトが言った。プロトの装備は以下のものだった。
 ヘッド:ナースハット
 ボディ:ナースボディ
 リア:ウサギの尻尾
 レッグ:ブライトシューズ
 バックパック:ライトブースター
 右手:キクイチモンジ
 左手:なし

「あいつ……」とリアは言った。「この前は、言葉もままならない幼児のような状態だったのに。いつの間に」
「近衛インダストリアルが舐められてるんだよ」と男が言った。「森での戦闘の後にハッキングして知性や装備に関するデータをすべてDLしたんだろう。しかしナース服とはどういう了見だ?」
 プロトは男をにらみつけた。
「ちっ」――男は舌打ちをしてプロトに向かって歩き出した。「感情も持っているようだ。大人しく案内なんてしてくれないよなあ。どーせ乾はここにいるんだ。さっさと“開き”にしちまうか」
 男は歩きながら、両の掌をゆっくりと閉じて拳を作った。その瞬間、リアとプロトは身震いした。部屋でくつろいでいる時に、テーブルの下から突然ライオンが飛び出してきたら感じるであろう危険信号と恐怖を感じた。
「まて!」とリアが言った。
 男は立ち止まって振り返った。
「まて」――リアはブレイドガンを構えた。「プロトの相手は私がやる。お前はその間に乾を探してこい」
 リアは許せなかった。ついさっき大型オートにやったことを。そして意思と感情を持つプロトに対しても同じことをしようとしていることを。
「ま、いいだろう」
 男はそう言うと、飛び上がり、プロトを飛び越えて階段の上へと向かった。
「行かせない!」
 と、プロトも飛び上がろうとしたが、リアがとびかかって来た。キクイチモンジとブレイドガンで鍔迫り合いをする恰好となった。
「邪魔をするな」とプロト。
「乾を逮捕しなければならない」とリア。
 プロトは左手を横に出した。その手を虹色の霧が包んだ。瞬間、キクイチモンジLが現れ、それでリアを突こうとした。が、リアはフォトンミサイルを発射してプロトを吹き飛ばした。
「すまない」――階段の上で倒れているプロトに対して、リアは言った。「あまり傷つけたくはないが、私も傷つくわけにはいかないんだ」
「あの時のこと……」――プロトは刀を杖にして立ち上がった。「だんだんと思い出してきたよ。バンガローでひと目見た時から、どうしてもあんたが気に入らない。あんたとはこれで3回目だよね」
「余計なことだ。思い出さなくてもいい」
「私は!」――プロトを虹色の霧が包んだ。「今度こそ、守りとおす!」
 プロトの背部から大量のデコイが飛び出した。それらは雪崩のように階段を流れ、リアの視界を奪った。
『これは。いくらイビスオキュラスの高性能レーダーでもっ……』
 リアはデコイの海からの奇襲を警戒し後ろに飛び退いた。彼女は射撃を警戒していた。しかし、プロトはデコイの海から飛び出してきて、刀で斬りかかった。リアはレドームシールドでこれを防ぎ、空中で宙返りをしてさらに飛び上がった。ハイパーカウンターである。リアはブレイドガンの一閃を与えようとした。が、プロトは虹の霧をまとっており、瞬間、ツインブレイカーを装備し、それで照射レーザーをまとい突進した。リアはその一撃をもろに受け、天井に叩きつけられ、そのまま床に落下した。床いっぱいに広がっていたデコイが、水しぶきのように立ち昇った。
 デコイに埋もれたままリアは思った。――なぜ撃ってこなかったのか? と。
『私が天井に叩きつけられているときに、グレネードか照射レーザーでも撃てば私は大きなダメージを受けていた。なぜ、プロトはそうしなかった? 今も、デコイで隠れているとは言え、私の落下点がわかっていながら、撃ってこない(この時リアは、立ち昇ったデコイが落下する音と、プロトが向かってくる足音を聞いた)。なぜ飛び道具を使わない? まさか、こいつ……』


 男は乾を探していた。しかし、大きな施設内のどこにいるかは知らなかった。男は館内マップを脳内のインターネットで見ながら乾の居場所を推測していた。
『高級スイートルームを満喫……って柄じゃねえよな。アイツは』――彼は館内マップにクリニックの文字を見つけた。『……なるほど。だからプロトはあんなコスプレをしていたのか』
 男は4階の宴会場横にあるクリニックへと向かった。
『乾は森の襲撃で負傷した。ここにいる可能性が高い!』
 男はクリニックの入り口ドアを開いた。
 彼の読み通り、乾はいた。乾はベッドの上で半身を起こした。
「意外だな」と男を見た乾は言った。「下で戦っているのはおそらくリアだろう。ここにはその主が来ると思っていたが。お前も統括部の者か?」
「俺がそんな無能集団の一人に見えるかい?」
「ふむ、警察かね。エレクトリアに頼りきりでない分、近衛の連中よりはマシだろうが」――乾は布団の中でハンドガンを握った。
「警察でもないさ」と男は言った。「久しぶりだね、“乾おじさん”。俺だよ、健心(ケンシン)。……伊勢健心(イセ ケンシン)だよ」
「……なんだと?」
「信じてないね」
「当たり前だ。ケンシン君は10年以上前に事故で……。まさか、伊勢のやつ……」
「多分、想像の通りだよ。さあ、俺と来てもらおうか。そのハンドガンも捨てた方がいい。俺には効かない」
「そうだな」――乾はハンドガンを床に投げ、立ち上がった。片足を庇うような立ち方である。「ただの人間と、ナノマシンサイボーグが戦っても結果は見えている」
 そして、よろめきながら男に向かって歩いた。
「大人しくしてくれると助かる。ナマモノ相手の力加減はかなり難しいからな」
 と言って、ケンシンは背中を向けた。
 その時、乾は懐から注射器を取り出して、ケンシンに向かって突進した。が、彼は後ろ手に乾の手首をつかんで攻撃を阻止した。そして手首をつかんだまま、乱暴に乾の体を壁に向かって放り投げた。乾はうめき声を上げたまま床にうずくまった。右腕が折れていた。ケンシンが注射器を拾った。
「これはプロトが生成したハイパーインジェクションだな」――ケンシンは針先から毒を出した。「かなりの濃度だ。これなら俺の動きをほんの少しだけ鈍らせることができたかもな。……だが、逃げるには不十分だぞ」
 彼はうずくまっている乾の右膝を踏みつけた。乾は叫び声を上げた。
「結果は見えている。……そう言ったのはアンタだよなあ。そして、俺は言った。ナマモノ相手の手加減は苦手だってなあ!」


 リアは立ち上がった。プロトの斬撃をかわした。そして距離をとった。
「さっきから射撃攻撃をしないのは」とリアが言った。「ここが大切な場所だからか?」
 プロトの足が止まった。
「お前に何がわかる!」とプロトは言った。
「想像はつく。バンガローで会ったときは幼児のようだった。しかし、ここで近衛からデータをDLして物心ついたのだろう。プロト。お前にとって、ここは大事な我が家なんだな?」
 プロトは答えなかった。彼女にとって、その通り、ここは父である乾との我が家であった。しかし、感情的な弱点たりえる情報を肯定する気はなかった。
「私は」――リアの体を虹色の霧がつつんだ。「無粋な戦いをする気はない。そして……」――彼女は装備を大きく換装した。
 ヘッド:鎖の首輪
 ボディ:デュエルコート
 リア:ガードブースター
 レッグ:デュエルブーツ
 バックパック:ライトブースター
 右手:なし
 左手:ディフレクトリング
 サブ:フォトンブレイド

「……お前たちの絆を壊すつもりもない!」
「ふざけるな!」――プロトはバックパックをツインブレイカーからライトブースターに換装し、2本のキクイチモンジでリアに斬りかかった。「お前たちがここに来なければっ……。私たちは平穏に暮らせたんだ!」
 リアはプロトの攻撃をかわし、プロトのすぐ横でフォトンブレイドを振りかぶった。
 プロトは『やられる!』と思った。が、リアはプロトの刀を叩き落とすだけだった。プロトはすぐに跳び退いた。
「義理立てしたつもりか」とプロト。
「武器は両手で持った方がいい」とリア。
 プロトは舌打ちをして、2本のキクイチモンジを1本のフツノミタマへと換装した。巨大な刀である。
 2人は激しく剣を打ち合った。リアはブーストを全開にして、プロトの周りを拘束旋回する。プロトも攻撃を避け、カウンターを入れるためにリアの背後を取ろうとブーストを全開にした。2人は蜂のように旋回し、散らばったままのデコイが竜巻のように巻き上がった。
 ……やがて、竜巻の中からプロトが弾き出された。彼女は床を転がったが、すぐに両足と左手で体を支え、相手を威嚇するライオンのような姿勢をとった。右手の刀を振り上げる。……軽い。刀身が折れてなくなっていた。別の武器に換装する間もなく、リアが竜巻の中から飛び掛かった。今度こそ斬るかと思われたが、リアはプロトの刀を弾き飛ばしただけだった。
『この女ぁ……!』――プロトは凶暴な顔をした。「なめやがって!」
 彼女は右手にシャープネイルを生成し、リアに斬りかかった。が、リアは左手にクロ―ビットをいつの間にか生成しており、プロトの爪を受け止める。そして腕をひねり、爪を絡ませて、クロ―ビットを発射した。プロトはクロ―ビットと共に飛ばされ、壁に叩きつけられた。リアはさらに踏み込み、壁際で倒れているプロトに向かって真っすぐ飛んだ。フォトンブレイドの切っ先を、プロトの胸の前で寸止めした。
「これが経験の差だ」――リアは左手で、戻ってきたクロ―ビットを受け止めた。そして不要とばかりに分解した。左手のクロ―ビットが虹の霧となって消えた。「私がお前を攻撃しないのは舐めているからではない」
「……」――プロトはうつむいたまま何も答えない。
「私たちはわかりあえる」とリアは言った。「私と同じ、意思のある、そしてマスターを愛するハイブリッドエレクトリアだ。そうだろう」
「だから、なんだ」とプロトが顔を上げて言った。「お前たちは父さんを捕まえるのだろう。父さんは逮捕され、私とは引き離される。私はどうなる? そもそも近衛の連中が、いや、人間どもがお前や私のような存在を放っておくわけがない。私はとっくに共犯者だ」
「エレくんとミカなら!」――リアはフォトンブレイドを下ろした。「味方になってくれる。プロトなら私と同じように特殊隊員として働ける。そうすれば乾の罪も軽くなるはずだ」
 床を覆っていたデコイが消えた。辺りは虹色の霧が立ち込めた。
「このまま……」とプロトは言った。「逃げ続けるよりは、ましか」
「そうだ」とリアは言った。「私も協力する」
 リアはプロトに向かって、かがんで手を伸ばした。プロトはそれを握って立ち上がった。
「もし、引き離されるようなことがあれば」とプロトは微笑みながら言った。「そのときは第4ラウンドだ」
「ああ、そうだな」
 リアも微笑んでこれに答えた。

 プロトは乾の所に案内すると言って、階段を上がった。リアもこれに続いた。
「リア、お前と一緒にいたあの男は何者だ。人間ではないようだが」
「それが私もわからないんだ。私たちと同じハイブリッドエレクトリアだと言っていた。ただ、乾を探している、協力する、と言っていた」
「なに?」――プロトは振り返った。その顔には明らかに焦燥と不安が浮かんでいる。「近衛の者ではなかったのか?」
 そう言うと、プロトは走った。リアは追いかけた。
「森に現れた大型エレクトリアは父さんを狙っていた!」――プロトは走りながら言った。「近衛の者じゃない、人間大のエレクトリアで、父さんを探している……」
『そうだ。どうして……』とリアは思った。『どうして思い至らなかった。あの男もあの時現場にいた! この1週間、私は何を考えていたんだ!』
 階段を上がり、4階廊下についた2人が見たのは、男が右手で乾の片足を持って、彼を引きずっているところだった。乾の四肢はありえない方向に折れ、曲がるはずのないところが曲がっていた。男は2人の方を見た。
「なんだお前ら。仲良しになったのか」
「きさまぁ!」
 プロトは叫び、刀を生成し、男に飛びかかった。
 ……硬い金属と金属がぶつかるような音が聞こえた気がした。目の前をジェット機が通り過ぎたような轟音と衝撃が走った。
 一瞬のことだった。プロトが男に飛びかかった。轟音と衝撃が走った。リアの視界からプロトの姿が消えた。
 壊れた壁の破片が飛び散る中、リアはライトマシンガンを生成し、男の足元を撃った。
「必要以上の」――彼女の声は震えていた。「実力行使は、認めない!」
 そう言いながら彼女はさっきの出来事を脳内で振り返った。
 ――プロトが刀振り上げて男に飛びかかった。男は左手を胸まで上げた。プロトの刀が男の首に当たったように見える。と、同時に男は左手の裏拳をプロトの左肩辺りに当てた。プロトの肩が潰れ左腕がほとんどちぎれた。彼女の体は三日月のようにくねり、ジェット機のような速度でふっとんだ。ぶち破られた壁の破片が舞う。
 ……リアは冷や汗を流した。息が荒い。こわい。しかし逃げるわけにはいかなかった。
「乾を離せ。私が近衛まで、連れていく」
「ダメだ」――とケンシンは言った。「今、エレクトリア技術の研究者を集めていてな。ナノマシン研究者も必要なんだ」
「近衛の研究者を……、あの3人の大型エレクトリアを使って誘拐していたのもお前か」
「やっと気が付いたか」――彼は乾の足を離した。「まあ、仕方ないか。恋に生きる女は盲目だもんなあ。そうだ。次は工励(タクミ レイ)博士を……」
 彼が言い終わらぬ内にリアが仕掛けた。リアはヘビィブースターを装備し、天井スレスレの高さを全開のスピードで飛び、右手と左手それぞれにフォトンブレイドを生成し、2本の剣を同時に上から振り下ろした。ケンシンは左手で1本を受け止め、もう片方は右肩に受けた。が、彼は動じなかった。
『スーパーアーマーか!』とリアは思った。
 彼女はブースターをさらに噴射し、押すように無理やり振り抜いた。その重さで床が抜けた。彼は下に落ちたが、その顔は微笑んでいた。リアは両手の武器をフォトンブレイドから連装グレネードに換装し、落ちていく男に向かって連射した。
『全て命中した。手ごたえはあった』
 リアは追撃を与えるため、下に降りた。1階のメインロビーだった。グレネードで空いた爆発跡に男の姿がなかった。見回すと、男は階段に座っていた。
「なかなかの威力だ」――彼は自身のライダージャケットをはたいて埃を落とした。「やはりハイブリッドは……」
 また、言い終わらぬ内にリアは男に向かってグレネードを連射した。全て命中した。爆煙の中から彼は現れ、何事もなかったかのように、ゆっくり彼女に向かって歩きだした。
 リアは後ろに大きく飛び退いて装備を換装した。
 ヘッド:鎖の首輪&十字の首飾り
 ボディ:デュエルコート
 リア:フォトンブースター
 レッグ:メタルヒール
 バックパック:ライトブースター
 右手:フレイムリング&フォースリング
 左手:ディフレクトリング&フォトンブレイド
 サブ:フォトンブレイド

 男はリアの装備を見て、片眉を吊り上げた。
「ほう……。それだけの装備を扱えるのか」
 そう言って、彼は両手をジーンズのポケットに入れた。
 彼女は右手のフォトンブレイドの切っ先を男に向けた。
「私はエレくんを守るために、ここでお前を討つ!」――リアの体を光が包んだ。覚醒、オーバードライブ、加速システム、その他諸々のスキルが一斉に発動した。
「……お前は、敵だ!」


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