非主流派タッチタイピングの練習方法
別の練習方法を試してみる?
先日、「(五十音)順式日本語入力」(以下、「順式」と記す)なる子母音2打鍵式の日本語入力方式について記事を書いた。順式では、既存のタイピング練習ソフトがそのままでは使えないことから、昔やっていたことなどを思い出しつつ練習方法について考える。ついでにnoteにタイピングの練習方法について書こうと思い、参考にすべく現在のタイピング練習事情について調べてみました。
調べた結果はひどく画一化が進んだものでした。標準的なホームポジションと英語と共通のQWERTY配列の説明の後、タイピング練習ソフトを使った反復練習といった流れの物が多く、パソコン教室の宣伝的な物もかなり混じっていた。もちろん、それで成果があがっているのなら問題ないのですが、どうやらそうでもないようです。
文部科学省の情報活用能力調査(令和五年)調査結果によると、高校生の1分間あたりの入力文字数の中央値は26.3文字とあるので、すくなくとも高校生の半数はタッチタイピングを習得できていないか、速度向上の練習を行うには至っていないことが推測できます。
広く行われている方法でもそれで結果が出ていないのなら、別の方法を試してみても良いのではないかと思い、本稿では他ではあまり取り上げられていない方法を紹介してみることにします。
「タッチタイピングが出来る」の定義
念のため、ここでいうタッチタイピングとはなにか、定義を明確にしておきたいと思います。
タッチタイピングとは、手元を見ないでキーボードを操作して文字入力を行うことです。それが「できる」というのは、キートップに文字刻印が無くても、またキートップが入れ替えてあったり、逆さまになっていたりしても、迷わずにタイピングが出来るということと言えます。ただし、ここではそのスピードは問いません。
また、カナ漢字変換の操作も必須です。ひらがなベタ書きのままでは、実用になりません。ですから、ここでは変換操作も「手元を見ないで」に含めることにします。
ちなみに、文部科学省の情報活用能力調査の課題は漢字変換ありの課題の文章の書き写しで、1分あたり26.3文字は、手書きと同等かちょっと遅いぐらいの入力速度と言えます。 また、この記事が約6300文字ありますので、これを書くのには約四時間を要するぐらいの速さです。
参考までに、筆者の日本語入力速度は1分あたり60文字を少し超えるぐらいです。
練習時間
入力スピードを気にしなければ、タッチタイピングを習得するのに要する練習時間は、10〜20時間と言われることが多いようです。なので、10時間程度、練習を続けても「できる気がしない」ようであれば、練習方法を見直した方が良いのかもしれません。
参考になるかどうかは分かりませんが、日本語のカナ入力と英文でタッチタイピングができる筆者が、試しに「新JISかな配列 : JIS X 6004」での入力を練習してみたところ、たどたどしくもなんとか打てるようになるまでには、約3時間の練習が必要でした。筆者はタッチタイピング自体にはそれなりに慣れていますので、文字の並びを並びを覚える点に限るとだいたいこんな物なのではないかと思われます。
ちなみに、新JISカナ配列は既に廃止されている規格ですが、親指で操作しやすい位置に[Shift] キーを配置することができれば、かなり有望だと思います。
正しい姿勢
欧米のタッチタイピングの教材などを見ると、最初に正しい姿勢をとることが解説されていることが多いのに対して、日本の教材では姿勢についてふれられることは少ない気がします。しかし、長い時間タイピングを続けるのにも、体とキーボードの位置関係を適切な状態に保つのにも、正しい姿勢はキーボードを使いこなすのにはかなり重要です。正しい姿勢をとることは、良い結果に繋がるものと思います。
椅子に深く腰かけ、骨盤を垂直に立てて、背もたれには寄りかからずに背中を少し浮かすようにして背筋を延ばします。
肘は脇から離さず、肘から手首、手のひらにかけて水平にした時に天板から手のひらが少し浮く程度に机の高さをあわせます。この時肘の角度は90°かそれよりもやや開いた程度になります。
ひざも約90°の角度でまげて、踵が浮かずに足の裏全体が床に着くようにします。
手書き作業の場合と比べて机の高さはかなり低くなります。そして、このとおりに机と椅子の高さを合わせるのはなかなかに大変かもしれません。
参考までに、筆者の身長は日本の男性の平均に近い172cm程度ですが、一般的な高さ70cmの事務用机で合わせると、椅子の高さはかなり高くなり、履物無しでは踵が3〜4cm程浮いてしまいます。また、椅子によっては目一杯高くしても高さが足りません。机を低くできれば良いのですが調整出来タイプなので、踵を椅子の脚の上に載せていることが多いです。フットレストを置いたり、履物を履いたりして合わせても良いと思います。
最後に、キーボードは自分の正面に真直ぐ、体の中心とキーボードの中心、[G]と[H]のキーの間を合わせて置くのが基本です。ただし、キーの配置は左右対称ではないので、その補正として若干左右にずらしても良いかもしれません。筆者は[J]のキーが正面中央に来るぐらいの位置に置くように意識してます。
余談ですが、冬に炬燵でキー入力作業をしていた時には、座布団を数枚重ねて高さを合わせていました。ただし、太ももがヒータに近くなるので、やけどには注意してください。
ホームポジション
左手は人差指から “FDSA” 、右手は “JKL ;” に指を置くホームポジション。ところで、指の感触でホームポジションの位置を教えてくれる”F” と “J” のキートップについた小さな突起ですが、筆者がタッチタイピングを覚えた時に使っていたキーボードでは中指がのる “D” と “K” についてました。
人差指は数字、記号を除いても左右それぞれ6つのキーを受け持ちますが、中指はこれが3つ。中指の方がキートップに指先が触れた状態を維持しやすく、ホームポジションの位置を確認しやすいのではないかと思います。
もし、キートップを入れ替えられるタイプのキーボードを使っているのでしたら、”F” と “D” 、 “J” と “K” を入れ替えて、目印の突起が中指に触れるようにしてみてはいかがでしょうか。ホームポジションを見失い難くなるかもしれません。
余談ですが、昔、勤めていた会社で、余っていたANSI配列のキーボードを貰ったので、先に述べたキートップ入替えを施し、カナ入力に設定して使っていたのですが、たまたま筆者のPCにさわることのあった上司殿にはすこぶる不評でした。自分以外の人がさわる可能性のあるPC等でキートップの入替えを実施する時はご注意を。
キー配列
現在、日本語入力はローマ字入力が圧倒的な多数派となっておりますが、他にも選択肢はあります。タッチタイピングをなかなか覚えられないのなら、他の配列を検討してみてはどうでしょう。
タッチタイピングではキートップの文字刻印は「見ない」前提なのですから、文字刻印と実際に入力される文字が異なっていても問題ありません。QWERTYにこだわらず、Dvorakでも独自配列でも、自分に向いていそうな物を選んで試してみると良いと思います。
もちろん、カナ入力だって選択肢の一つです。
手前みそですが、以前の記事で紹介している五十音図の並び順を元にキー配列を構築した「順式」は、キー配列と運指を覚える時間と手間を大幅削減できる可能性がありますので、よろしかったらお試しください。
タイピング練習・その壱
いまやタイピングの練習といえば練習ソフトを使うのが定番になっていますが、これだけでだれでもがタッチタイピングを習得できるかというと、そうでもないことは複数の調査、アンケート結果が示している通り。別の方法があっても良いはずです。そこでお勧めしたいのが、写書。
書を写すといっても、最初はなにか、暗記していて何も見ないでも書き綴れる物、例えば五十音図、いろは歌、お好きな歌詞や物語の一節、映画の台詞、そんな物を書き綴っていきます。元の文を見ないで良い為、画面に表示される入力文字と、キーを操作する指に集中できるし、とりあえずは時間も気にする必要はないので、練習ソフトを使うよりも気楽に取り組めます。スピードは一切求めず、手元を見ないで正確にタイプすることに集中します。
五十音図を縦横プラス促音発音長音拗音、いろは歌、平家物語の祇園精舎あたりを、遅くても間違えずに打てるようになればとりあえずクリアぐらいの感じで。
キー配列がなかなか覚えられないようでしたら、キー配列図を用意してそれを見て確認するようにしましょう。手元は見てはいけません。
この方法にも一つ難点があって、五十音図の「アイウエオ」が、ローマ字入力だと一番最初の課題としてはちょっと難しいかもしれません。その場合、横に読んで「あかさたな」から始めてみましょう。
暗記のネタがつきたら、本などを読んで書き写すいわゆる写本に進むと良いでしょう。
在る程度、思い浮かべた文字の通りに自然と指が動くようになってきたら、タイピング練習ソフトで反復練習を行って速度を上げていくのも良いかもしれません。
タイピング練習・その弐
本稿では、まずは速さを求めないことを繰り返し述べてきましたが、そうは言っても気は急くもの。しかし、習熟度に見合わない速さでタイビングをしようとすると、ミスタイプが多発します。
「順式日本語入力」を考案し、実際にそれでタイピングを行ってみた時、慣れない配列で遅くなるのは仕方なしと分かっていても、気持ちは走ってタイプミスを連発しました。
そこで、ペースを整える為にメトロノームに合わせてタイプするというのを試してみました。1拍1文字、テンポは30ぐらいからはじめて、60までやってみました。程良い緊張感も感じられ、走ってタイプミスもしにくくなるため割と良い練習方法なのではないかと思いました。
3打鍵で1文字まであるローマ字入力でしたら、テンポを2倍でとって、1泊1打鍵とした方が良いかもしれません。
手拍子メトロ
メトロノームを持っていない人向けに、というのは建前で、ほぼ筆者の趣味で、適当に描いたイラストとJavascript等を使って即席の手拍子メトロノームを作ってみました。即席ゆえ、長時間再生を続けると絵と音がずれてくる等の欠陥はあるのですが、数分でしたらまぁまぁ使えます。よろしかったらご利用ください。
キートップに貼るシール
どうしても手元を見てしまうのがやめられない、と言うのであれば、シールを貼ってキートップの文字刻印を隠してしまいましょう。無刻印キーボードを購入するのも良いですが、この種のキーボードはそれなりに高価です。ちなみに、今から100年ほど前のタイプライターの時代から、この手の目隠しシールはあったようです。
文字刻印が隠せれば良いので、別に専用の物でなくても問題ありません。写真にある、コクヨの “タックタイトル” φ8、10色詰合、1620片入り、文具店等で300円前後 (貼る時は先の細いピンセットなどがあると作業性良好)でも十分です。
逆に全く無意味どころか有害なのが、大きくアルファベット、ローマ字変換のカンペ等が印刷してあるシール、キーボードは「見ない」としているのに、なぜそこに印刷する?
1枚1000円(以上)とか、1枚100円だけど販売は100枚以上からとか、詐欺的ぼったくり商品です。とあるPRページでは、「ホームポジションを意識しながら正しい指使いに導く……」とか「みるみるうちに文字入力ができるようになっていました」とか、もっともらしい言葉が並びますが、巧妙にも「タッチタイピングができるようになる」といった意味合いの言葉は一言も書かれていません。ほぼ確認犯でしょう。この種のシールには手を出さないことをおすすめします。
変換操作
文字を入力したら次に必要になるのが、カナ漢字変換。
MS-IMEを例にしますが、ホームポジションに指を置いたまま、文節移動、縮小延長などが操作しやすいショートカットがしっかり用意されています。ただ、図解で説明されているところが見当たらず、しかし言葉だけで説明されてもピンと来ない。ここでは、1部抜粋にはなりますが図示で説明します。
言葉で[ctrl]+[S]、[ctrl]+[D]で文節移動、と説明されても何だかよく分かりませんが、図で見ると一目瞭然。なかなか機能的なショートカットの配置になっているのではないかと思います。日本語JISキーボードでは少々遠い為、勢い余って強くたたいてしまいがちな変換確定の[enter]キーも、[ctrl]+[M]等で代用できるので覚えておくと良いかもしれません。
一つ問題は、Windowsマシンで使われるキーボードは、ほとんどの場合[A]の左隣は[caps]になっていて、[ctrl]は一番手前の列の両端に配置されているため、このショートカットは少々使いにくいことです。
“PowerToys” 等のカスタマイズユーティリティーを使えば、キーの入替えも可能ですが……。 Macだと、システム環境設定で簡単に修飾キーを入れ替える設定が可能です。Android系はよく分かりません。
テンキーを使う
キーボードの4列目には数字と記号類が並んでいる。カナ入力が4列目を使うことについては、使いにくいだの難しいだの、そう述べられているのを割と頻繁に目にするが、それに比べると割り切って「数字はテンキー」を奨める記事はあまり目にしたことが無い。それどころか、日本語変換操作ではさらにその上、カタカナ変換等でファンクションキーを使った操作を説明しているところすらある。ホームポジションから手を放さずにタイピングをするということはあまり考慮されないらしい。
しかし、キーボード4列目を使った数字入力を習得するのと、数字は割り切ってテンキーを使って入力するのと、どちらが良いかについては簡単に答えを出せそうもない。ただ、現実的には4列目の使用をあきらめると、タイピングの練習はかなり楽になるはずなので、数字はテンキーで入力するでも良いのではないかと思う。
ちなみに筆者はテンキーレスキーボードを愛用しているが、CADを使う時にはテンキーパッドをキーボードの左側に置き、右手でマウス、左手でテンキーを操作しています。
あとがき
検索キーワード「タッチタイピング」「練習方法」だけでは、見つけにくい注意点や、少し違ったやり方をまとめてみました。基本的には自分の経験を元に書いているので、万人向けの方法かどうかは不明です。
ダウンロード
「手拍子メトロノーム」のデータ、変換操作のショートカットの図、「正しい姿勢」のイラストのセットがダウンロードできます。
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