猫の多頭飼い崩壊を作った飼い主の人柄
昨年の夏、同じ地域のあるお年寄りの方から、飼い猫についての相談を受けた。
「自分は肺と心臓が悪いので、猫の今後の事が心配なので、相談に乗って欲しい。」
と言われた。
翌日、お宅にお邪魔した。
広い敷地の中には、立派な広い家が建っていた。
しかし、一歩足を踏み入れてみると…、
酷い悪臭と、籠った空気。足の踏み場のない程に積み上げられたゴミ。埃とゴミで、目が痛い程であった。
真夏でも出されっ放しのコタツの上には、自作の酸素カプセルに入った茶トラの猫がいた。
そして、2階の10畳足らずの部屋には、これまた自作の100円ショップで購入した網みたいな物を、結束バンドで繋げたゲージの中に、12匹の猫がいた。
全て自作の猫グッズを見ると、いかに飼い主が始末をして生活をしているかが、一目瞭然であった。
猫達は、座位を保てず、とてもとても寂しそうな顔をしていた。
そして、この上なく可愛らしい丸い目をした子達であった。
明らかに猫の飼い方を知っていない、猫の上下運動の必要性を分かっていない飼い主であった。
あれやこれやと手作り自慢をする飼い主に対し、
「あなたがこの子達ならば、幸せだと胸を張って言えますか?」
とだけ聞いた。
私の声は怒りに震えた。
聞いてみると、始まりは一匹の雌猫から始まった。
外猫を可哀想に思い、飼いだしたと言う…。
その猫は、妊娠していた。
飼い主は、よく太った猫だと思った。
そして雌猫は、三匹の子猫を産んだ。
飼い主は、猫が増えるという事を知らなかった。
避妊や去勢の費用が勿体ないと思った。
次々産まれる猫達に焦り、慌てて避難と去勢を施した。
猫はあっという間に13匹となっていた。
外から見えると変わり者だと思われるから、部屋のカーテンと障子は、きつく閉ざされていた。
暗い部屋の中、この子達の多くは、外の空気さえ吸った事もなく、お日様の光を知らないのである。
「なんとかしてやりたい…。」
しかし、猫達は、人を全く信じておらず、餌やりやトイレの掃除は、飼い主でさえ頑丈な手袋をしなければ、噛み付かれ、流血が絶えないという…。
「あんた、全部飼ってくれん?私は年金暮らしで、お金がないけぇ…。何も出来んけど、私は肺と心臓が悪くて、はぁ、面倒みれんけぇ…。作った猫のグッズは差し上げるし、作って差し上げるけぇ…。」
私は「いらんわい…。」
と一言だけ心の中で呟き、言い方は悪いが、タダで、何をどうやって助け出させば良いかに思案に暮れた。
家の中で、増やすだけ増やしておいて、結局はお人好しな人間に責任を押し付ける。
こんな人間だから、これ程の状況を作る事ができたのだから、猫への責任など説いてみても、意味などない。
飼い主の生い立ちなど、同情するべき事柄は多くあったが、だからと言って、この様な命への冒涜とも思える行為をして良い事にはならない。
私は懇意にしている、生涯預かりの施設への移動を紹介する事を提案した。
雨風しのげる家があり、生涯食べる事に困らない。
必要な医療は施してもらえる。室内ではあるが、山の中にあるその施設は、猫達が各々に大きな窓から、川を見たり、鳥を見たりしながら季節を楽しんでいた。
であるから、最初に決まった寄付金が必要である事は、当然である。
しかし、飼い主は、
「同じ様な環境で見て下さる所で、タダがよい…。私ゃタダが好きなんよ…。」
と、タダ好きである事を自慢気に、大きなお屋敷ともいえる自宅の側で言った。
私は、「そんなもん、誰でも好きじゃ…。」
とムカつき、取り合わなかった。
さて、どうやって…どうやって、この子達の未来を作ればよいのか…。
見過ごせない。何の為に生まれ、何の為に生きるのか…。
生きるという事の歓びを経験させてやりたい。
私は、お金は持ってあの世に行けないという事と、猫達がどの様な末路を辿るかを説得する為に通い続けた。
続く