ハッちゃんとピーター
「ハッちゃん。ハッちゃん。」
隠れながら、ゴールドトレジャーを呼ぶある日の愛息子。
「はっ…!?来よった…。どこじゃ?どこにおるんじゃ?」
この世の中で、ただ一つだけの、思う様にいかない存在…。
私の息子がそれになった、今日のゴールドトレジャー。
キョロキョロとする、トレジャー。
長い時間その前置きがあり、おそらく馬とはこれ以上には絞れない程に、耳を絞るゴールドトレジャーである。
息子には、ペースを乱され続けている。
ウザいが、気になる存在である様だ。
そして、チラッと姿を見せては隠れる。
必死で目線で追いかけるゴールドトレジャー…。
隠れたら、しばらく出てこない。
「どこじゃ!?どこ行ったんじゃ!!すばしっこいガキじゃ…。」
かと思えば、顔をひょっこり出す。
「ジャジャーン!!!! 僕、ピーターといいます。」
「…………。」
息子は必ずトレジャーの前に行くと、この挨拶から始まる。
純日本人な顔立ちをしたピーターと名乗る青年に、毎度戸惑いを隠せない、まだまだ世間知らずなゴールドトレジャーである。
予測不能ではあるが、とてつもなく自分を熱愛している事だけは、理解している様だ…。
「お前はカッコいい馬だなぁ。」
の言葉に、ゴールドトレジャーは凍りつく…。
「馬…?なんて事を言うじゃ…。」
今日もゴールドトレジャーは、自分を人間と信じて疑わない。
口を開けばいらぬ事しか言わない、ピーターの気配を感じると、耳が辺りの環境に集中している。
「来よった…。ヤツが来よった…。今日は長い一日になる…。」
ピーターが現れると、しきりに隣のゴールドミルクをゴリ押しする、ゴールドトレジャー…。
「あれ、見てみんさい。ちんまい、可愛いお馬さんが隣におるじゃろ? 大人しゅうて、優しいけぇ、隣に行きんさい!!ワシぁ、妬けるが、問題じゃないわい!!ワハハ!!」
普段は絶対に口にしない、また思ってもいない、ゴールドミルクの褒め言葉を並べる…。
絶対にこちらに目を合わせない、ゴールドミルクと藍姫…。
あんな風にピーターに捕まったら、エラい事だ…。
三頭が出会ってから、初めて意見が一致した。
「ワシャ…ウチゃ…のんびり過ごしたい…。」
「いや、いい。ハッちゃんがいい。遊ぼうや。このタオルで遊ぼう、ハッちゃん。」
お決まりのカバンから、家から勝手に持ち出したバスタオルを手に、しきりに遊びに誘う。
「そがな遊びは、はぁ、ええですよ…。ほれ、ワタシ、大人しくて、純粋でね…。隣に行きんさい!!まだ子供じゃけぇ。小さかろう??そりぁ、喜ぶでー!!」
窓に張り付いて離れないゴールドミルク。
振り向いてはいけない…。振り向いてはダメなんだ…。
その気配を感じて、ミルクを真似る藍姫。
隣のミルクがダメで、こっちに来たらエライこっちゃ…。
「遊ぼうや。」
そう決めたピーターは、もはやそれしか言わない…。
威嚇すると、どうして??と100回以上聞かれ続けるので、ピーターには絶対に威嚇してはいけない、と学んだ今日であるゴールドトレジャー。
「とっ…隣に行きんさい…。なんや…噂ではよう走るらしいですわい。」
妹も鉄を外しているが、関係ない。
興味がない。
彼の興味は、自分の鉄が外れた事だけである。
藍姫以外は、トレジャーもミルクも意外と薄情である。
「ダメ!!ハッちゃん、ダメ!!小さい子をイジメたら、ダメ!!」
「なんでワシが怒られるんじゃ…。」
「遊ぼー!!ハッちゃーん!!」
とにかく、厩舎の中ではずっと喋っている、ピーターの相手をするゴールドトレジャー。
白いという理由だけで、ゴールドシップを知るピーターに熱愛された、ゴールドトレジャー…。
そんなトレジャーも、ピーターの側にずっといるので、苦手ではあるが、嫌いではないのであろう。
オシャレセンスは抜群で、服が大好きなピーターである。
「この服はどこどこの、誰が着ていた服で…この指輪は、どこどこに載っていて…。」
と、ハッちゃんに得意そうに説明する、ピーター…。
「なんじゃ??なんの話をしょうるんじゃ……。」
ちょっとお母ちゃんに顔が似とるのぉ…。
じっとピーターの顔を視つめるハッちゃん。
「ねぇ、オグリキャップは親戚??」
「だっ…誰じゃい…そりゃあ……。」
明るく素直な、笑顔が弾けるピーター。
良かったね。トレジャーに出会えて良かったね。
ハッちゃんとピーターは、ずっと、ずっと一緒。
トレジャー、いつかピーターがお前を守ってくれる。
だって、こんなにもお前を愛しているじゃないか。
いつしか、ゴールドトレジャーは立派な介護職員へと成長していた。
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