馬生最大の一大事の起こった日のゴールドトレジャー
私には、知的の障害を抱える息子がいる。
時折この息子は、トレジャー達に会いにくるのだが、初対面の日、ゴールドトレジャーは、馬生最大のピンチに陥るのである。
トレジャーは、いつもの様に、人参おねだりの可愛らしい姿を装っていたが、息子のある一言で全身に衝撃が走った。
「お母さん」
と、息子が私を呼んだ…。
トレジャーは、マジマジと息子の姿を見た。
そこには、私の遺伝子を持つ青年が立っていた。
コイツはきっとただ者ではない…。
「なにっ…!?!?!!!!!!」
「おまえは……おまえいったい誰なんじゃ…??そして、お母ちゃんのなんなんじゃ?…。このガキは一体何者なんじゃーー!!」
当時5歳のゴールドトレジャーであったが、歳をとる感覚だけは、どうやら馬の様子で、大人の息子であったが、この様な表現となった…。
息子をガン見し、耳を絞るのを忘れる程に動揺していた…。
「この子が一番白くて綺麗じゃね…。」
と、大人しくは手を動かさない息子は、いきなり前からトレジャーを触ったが、置物の様に動かないゴールドトレジャー…。
頭の中は忙しく息子の正体を推理している。
ゴールドトレジャーは、自分を人間だと思って生きており、私を母親だと思って疑わない。
もしかすると、自分の知らない所で、実は弟がいた…と告白されたらどうしよう…
みたいな事を、必死に心配しているのかもしれない…。
すでに妹二頭と生活している事には、気が付いていない様子だ…。
そんな事はどうだって良い。
お母ちゃんがお腹を痛めて産んだんのは、自分だけなのだから…。
しかし、その想像がいきなり中断した。
我が息子は、禁断の言葉をはしゃいだ様子で口にした。
「僕、この子に乗りたい!!今から乗りたい!!」
そして、ゴールドトレジャーのスイッチは全開となった。息子がどこの誰かなど、もはやどーでも良くなり、世界一とんでもない言葉を口にされ、激怒した。
「なにぃーーーー!!ワシぁ、絶対に何人たりとも乗せんのを知らんかい!!
ワシを一体誰じゃあ思うとるない!!
はぁ、ワシゃ鉄を外したんじゃい!!
そがな事も知らんのかい、このクソガキめーー!!」
超絶不機嫌に息子を威嚇していたが、息子は我関せずで、お気に入りのカバンの中から、大量の人参を取り出した。
大好物な人参を大量に持つ、得体の知れない青年…。
「お前は、ゴールドシップによく似ているから、
今日から、お前をハッちゃんと呼ぶ!!!!」
と、ゴールドシップとは縁もゆかりもない名付けをいきなり予想外にされ、ビビりまくっていた。
とてつもなく偉そうに、いきなり変な名前をつけられたゴールドトレジャー。
「ちょっとアンタ……。」
ゴールドトレジャーの頭の中は、ウィーーン!!!!と
最大級の警報が鳴り響いていた。
人参はもちろん食べようとしていたが、息子が一言…
「待て!!」
初めてかけかられる言葉に、プライドの高すぎるゴールドトレジャーは非常にムカついた。
生憎ゴールドトレジャーは、我慢という感情を持ち合わせていない。
クルリと後ろを向き、
「いっ…いらんわい…。」
と二度と振り向かなかった。
プライドが人参の誘惑に勝った…。
こんな対面であったが、時間をかけ、一歩ずつ距離を縮めて行った。
現在は…。よく分からないが、息子は、とにかくゴールドトレジャーに夢中なのはよく分かる。
好きで好きでたまらず、チョッカイばかりかけている。
「ハッちゃーん!!ハッちゃんやーい!!」
自分の事は棚に上げ、チョッカイをかけられるのが、心底嫌そうに、
「おかしな名前で呼ぶな!!あっち行けや!!」
と言っている。その顔は、若干苦笑いにも見えるが、
どうにかこうにか我慢している。
そう…。息子が我慢を教えてくれているのかもしれない。
だって、コイツは、お母ちゃんの大切そうな人間だもの…。
ワシだって大事にしちゃらにゃあ……。
息子のハッちゃんの呼び名に、反応する今日である。
少し成長した今日のゴールドトレジャーであった。
兄弟だもんね。末永く、仲良く、一緒に幸せにね。
どちらもお母ちゃんが見守っているから。
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