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アームチェア・エディターに優しい「散歩動画」

推理小説に出てくる探偵の一類型に「アームチェア・ディテクティブ」というのがあります。現場の捜査をしないで、書斎の肘掛け椅子(アームチェア)に座ったまま情報を収集・分析して、家から一歩も出ずに難事件を解決してしまう探偵のことです。

有名なのはアガサ・クリスティが生み出したミス・マープル、と書こうとして、念のためネットで調べたら、<代表作「火曜クラブ」ではまさに安楽椅子に座るわけですが、実のところ他の作品では現場に赴くことも多いので、彼女自身がアームチェア・ディテクティブと言えるかは全くの別問題でしょう>という記述を見つけてしまいました・・・

それはともかく、最近はコロナの影響で在宅で仕事をすることがほとんどという生活になっています。朝から晩まで一歩も外に出ないなんて日も少なくありません。僕は「編集者」としての仕事が多いので、さながら「アームチェア・エディター」です。実際に僕が座っているのは優雅なアームチェアではなく、くたびれたソファだったりするのですが、ここではアームチェア・エディターとしておきます。

そんなアームチェア・エディターにとって、YouTubeは大変重宝するツールです。

僕の家では、テレビがネットにつながっているため、その大きなモニターでYouTubeを見ることも多いんです。編集作業をしているときもYouTubeを流しっぱなしにして、作業用BGMにしています。「CAFE JAZZ」とかで検索すると、心地よいBGMを聴かせてくれるチャンネルがいくらでも見つかります。

ときには、音楽よりも街のざわざわした音が聴きたくなることもあります。

そんなときは世界各地の街の様子をノーナレ、ノーBGMで淡々と流す「散歩動画」がちょうどいい。いくつか紹介しましょう。

「Tokyo Explorer」というチャンネルの「新宿」の散歩動画。新宿駅の南口からスタートして、東口の前をぐるっと回って歌舞伎町へ向かいます。何度も歩いてよく知っているエリアなので、親近感があります。まるで自分があの雑踏の中を歩いているような気分になるんですね。

こちらは「NIPPON WANDERING TV」が撮影した「雨の渋谷」。傘をさした人が歩いている暗い街の様子を見て何が楽しいのかとも思いますが、この動画が17万回以上も再生されています。少し疲れているときには雨の音を聴きたくなる。そんな人が多いのかもしれません。

散歩動画はもちろん東京だけではありません。全国各地のいろんな街の動画があります。たとえば、奈良。これは登録者数30万人を誇るチャンネル「Rambalac」が撮影したもの。僕にとって奈良は、3年ほど暮らした街なので、懐かしさも感じさせてくれます。自分が訪れたことがある街の名前をYouTubeで検索して、散歩動画を見てみれば、かつての記憶が甦るのではないでしょうか。

自分が知らない街をバーチャル散歩するのも楽しいものです。これは「4K Urban Life」が提供するウクライナのハルキウの様子。実をいうと、僕はこの「ハルキウ」に行ったことがないどころか、その名前すら動画を見るまで知りませんでした。そんな見知らぬ街の人々の穏やかな日常に触れると、不思議と心が少し安らぐんですね。

こんなYouTubeの散歩動画をテレビで流しながら、原稿を書いたり、編集したりする。それはあたかも、カフェの窓際に座って街ゆく人々の気配を感じながら、ぼちぼち仕事をするのと似ているのではないか。そんな気がしています。




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