スバル レヴォーグ GT AWD(CVT_1.8)
遅ればせながら乗ってまいりました
試乗の巡り合わせはいったん逃すと永遠にチャンスが回ってこない。
登場してからはや5年が経過しようとしているレヴォーグもそんな一台だ。
なんでもコロナ禍のせいにするのは気が引けるのだけれど、登場時期の2020年はだいたいそのくらい。
買いもしないのに、どこの馬の骨かわからない輩(おれのことですね)と密室で過ごさなければならないディーラーの営業さんの気持ちを想像したら申し訳なさでいっぱい、と逡巡しているうち時間があっという間に経過してしまったのである。
前にも書いたけれどここ数年、この気遣いパターンが定着しており、もうちょっと純粋に自動車味見族に優しいサービスはないものか、とジリジリした気持ちを抑えつつディーラーの前をうろうろすることが多くなったのが非常に歯がゆいのだ。
デパ地下のスイーツを試食するように、ただ自動車の味見をしたいだけなんです。
もちろん課金制で結構なんです! レポートも書きます! 悪口も言いません! と体を清めながら念書を提出する準備だけは万端なのに、それっぽいサービスはいつまで経っても出てこないのである。
自分で作るしかないのか。
走りにこだわるみなさまのための
それはそうとして、登場から5年あまり経過したスバル レヴォーグである。
レヴォーグを見かけるたび、90年代中盤からゼロ年代にかけ、極端なネガティブキャンバーの足回りを有した自慢のFRマシンで週末の夜に厚木や筑波、箱根や秩父の山奥を駆け抜けていた人々の姿が思い浮かぶ。
若かりし頃、深夜のコンビニでクルマ談義を繰り広げていた彼らにとって、レヴォーグはうってつけの選択肢になっているような気がするのだ。
かつてはスカイラインやレガシィ、マークII3兄弟など、突然ミニバンに魂を売らずとも、段階的に峠の毒を抜くための選択肢があったものだが、いまやそれに類する受け皿となる選択肢は非常に少ない。
バカっ速いSUVもアリといえばアリだけれど、適度なサイズと回答性の高さ(かつての愛車には劣ると思うけれど)、そしてパーツの豊富さは、ライフステージが変わった今でも過剰なお小遣いを投入せず、家族も犠牲にせず楽しめる格好の素材となっているのは、週末のオートバックスを見ればよくわかる。
もちろん、フォーマルからアウトドアまで幅広いユーザーをカバーしているとは思うけれど、こんな元・走り屋の方々の根強い票田があってこそ成り立っている側面もあるのがこのクルマの面白いところ。憶測だけれども。
いま見ればちょっと絶妙な田舎臭さを醸し出していた初代に比べるとはるかに垢抜けているし、パキッとしたフォルムもスバルらしさを存分に表現している。無彩色のボディカラーが似合うかもしれないけれど、ハッとするようなグリーンやオレンジも見てみたいものだ。
東京の都市計画のような
インテリアは往年のスバル感を基調としつつ、中央の超大型の液晶画面だけがやけに近代化を主張しており、昔ながらの下町に森ビルのタワーマンションが突然できたかのような東京の都市開発的なチグハグさを醸し出していたのが、唯一の違和感。
テスラやBYDがこのあたりの風景の調律をキチンとしているのを見ると、もうちょっとなんとかならんものかと思ってしまう。
マジメさは相変わらず
走り出すと、スバルらしいフラットな乗り心地は健在で、ボディはぎっしりとした筋肉質なタイプ。
ロードノイズは少ないし、段差の突き上げも滑らかにいなしてくれる。乗り心地はかなり良い部類に入るはず。18インチタイヤ装着車はもっとカドがある感じなのかもしれない。
最近の新車の傾向に比べて重めのステアリングも好きモノには好印象だろう。
伝統的に視界も良好なのが非常に好ましい。
一方で座り心地は良いものの、調整する箇所が異常に多く、短時間でベストなポジションを決めることができなかったシートは原点ポイント。座面の横にある数多あるスイッチを弄らなければならないのは、ちょっとかったるい。
開発時から「かくあるべし」なポジションをキチンと決めておけば、パワー機構に頼らずシンプルなレバー調整だけで済んだのかもしれないのに。膝ウラの角度とかそんなに変えないでしょう。
アクセルの反応は先代より改善されたものの、ボサっとしていると踏み始めでググッと過剰に前に進むように味付けされた演出は少しだけ残っていた。
ボンネットのエアスクープを見て構えるほどの加速は1.8リッターエンジンにはなく、比較的上品な仕立て。非常に扱いやすい。
エンジンの音(ちょっと安っぽいのが残念だ)が高まる割に車体がなかなか前に進まないシーンが散見されたのが惜しい。カタログ数値上のトルク(30.6kg・m(300N・m)/3,600rpm)ほどの力強さは感じられなかった。
かつてのアウトバックくらいのモリモリとした力感を求めるのは贅沢か?
スピードを乗せてしまえば気にならないのだけれど。
個人的にはここぞというときのパンチがあと1割くらいは欲しかった。
クルマのキャラクター的には”S”モードが本当のノーマルモードに相応しいかもしれない。それなりの速さを求めるならば2.4リッター版をどうぞ、ということか。
存続してほしいワゴンボディ
クルマ好きの異様なまでの期待感を一身に浴びた初代は、たしかに出色の出来で「スバル! でかした!」と歓喜したことを思い出す。
肥大化したレガシィの後任役を十分に果たし、ものすごいスピードで街中に増殖したのも人気の証左。友人や知人にオススメした数は片手では収まらない。
急速にSUVが主役になる現在でも背の低いワゴンボディは十分に魅力的だし、天候やシチュエーションを選ばず、どこにでも乗り付けられる気軽さは心強い。先代から引き続き、5年経過した今でも変わらずにオススメしたい。
惜しむらくはやはり燃費だろう。この一点だけで大手を振ってオススメする勢いが緩んでしまうのも事実だ。
チョイ乗り需要のカーシェア車両とはいえ、燃費系が表示する7.0km/Lの数値はいただけない。
先ごろ登場したクロストレックのストロングハイブリッドが導入されたらどんなに魅力が上がるのだろう、と期待せずにはいられない。
支持層が分厚く、理解できるひとにだけわかり、なおかつ趣味性が感じられるこのテのクルマがしぶとく存続するためには、上手に世の中と距離を保ちながらも、適度に時代と寝る上手な処世術こそが大切になってくるのだから、デンキやモーターのことなどを横目に見つつコツコツとアップデートしながら順調に育ち生き続けて欲しい。