神奈川県大磯町の【住民主体の里山整備】と【殺さない獣害対策】
日本全国、あちこちで、人間と野生動物のあいだにコンフリクトが起きています。
ここ数年は本当にたくさんのクマたちが捕殺され、そのニュースが流れるたびに心を搔きむしられています。
丘陵に囲まれている大磯町でも、クマこそ出ないけれど、イノシシやシカが人里におりてきて、農作物に被害が出ています。農家さんの苦しさもわかるだけに、より辛い。
去る1月24日、神奈川県大磯町×大磯高校×麻布大学の三者による、人と動物と環境の共生に向けた連携と協力に関する協定が締結されました。
今回、その協定のもととなった、大磯町での獣害対策の取組みを紹介させてください。
住民主体の里山整備
大磯駅から徒歩20分ほどの、湘南平へのハイキングコースの入り口にある善兵衛池(ぜんべえいけ)。
このあたりはかつて美しい田園風景が広がる里山で、地域住民の憩いの場だったそうですが、高齢化などによって手入れがされなくなって荒廃し、イノシシなど野生動物の潜み場(ひそみば)や、えさ場となってしまい、住宅街への出没頭数が増え、箱わなによる駆除が行われてきました。
これに困った地域住民の有志が主体となって町内会(台町地区)で声かけし、薮の刈り払いなどの作業を定期的に行い、さらに町内会の青年部(Dainowa)のメンバーが中心となって耕作放棄地を花畑にする活動も進めてきました。
高校生グループの参加
ここに、大磯町で唯一の県立高校・大磯高校(以下、「磯高」といいます)が、「大磯町をフィールドにした教育と実践」として地域住民に協力するかたちで2024年から活動をスタート。
磯高の「家庭クラブ委員会」は里山保全のための自伐型林業の活動や、耕作放棄地の薮を刈り払い花畑にする活動(=潜み場をなくす)に参加。
「生物同好会」は、里山にセンサーカメラ(暗視カメラ)を設置して、そこにやってくる野生動物の調査を実施。カメラには、イノシシやアライグマ、ハクビシンだけでなく、アナグマや野ウサギの姿もあったそう。
「teacook同好会」は、里山に放置されたミカンや栗、梅といった果実を、野生動物が惹きつけられる前に収穫してお菓子などに活用する活動(=えさ場をなくす)などなど。
これらの活動を、台町地区の住民と一体になって取り組んできました。
アカデミアとの協働
この活動を始めた磯高は、大磯町を通じて、獣医学部をはじめとした「人、動物、環境」という分野を通じた「One Health」の専門性を持つ麻布大学とつながりました。
今回「人と動物と環境の共生に向けた連携協定」をこの三者で結ぶことを機に、麻布大学いのちの博物館で骨格標本を用いた磯高生向けの学習が行われるなど、大学による専門的な助言指導へとつながっています。
高校、大学、自治体の三者連携は、おそらく史上初ではないか?という見立てだそうですが、わたしとしては、その点よりも注目したいのが、「今回の協定は、大磯町産業観光課と環境課の職員の、丁寧で粘り強い仕事なくしてあり得なかったのではないか?」という点です。
駆除に依存した鳥獣害対策から脱却し、野生鳥獣を寄せ付けない・増やさない地域づくりを進める
大磯町における最近の獣害対策は、さかのぼること2015年。
イノシシの獣害に悩む地域で講習会が開かれているという情報を、大磯町に移住してきたばかりのわたしは町内会の回覧版で目にすることになります。
学生時代から動物保護活動に長らく携わってきたなかで、殺すばかりの「有害鳥獣駆除」をたくさん見てきたこともあり「駆除してジビエにするというやつかな」と勝手に思い込んでいたのですが、そうではなかった。
大磯町は「駆除に依存した鳥獣害対策から脱却し、野生鳥獣を寄せ付けない・増やさない地域づくりを進める」として、「雅ねえ」(まさねえ)こと井上雅央(まさてる)さんに白羽の矢を立てたのです。
「雅ねえ」ってだれよ?
獣害対策のエキスパートとして、全国の自治体を回って助言指導を続けている雅ねえは、2015年度~2019年度まで、その年によっては年に6回も大磯町に来てくださって、座学、参加者との話し合い、実践活動などを通じて獣害対策の方向性をディレクションしてくださったそう。
その後、コロナ禍で中断されますが、直近では2024年3月に町が主催した「獣害対策シンポジウム」に登壇され「 #女性がやればずんずん進む獣害対策 」と題してお話しくださって、わたしもその会に参加したのだけど、その語り口が、なんていうのかな、ひょうひょうとしていて、それでいてすっと心に入ってくる、終わってみたらみんな雅ねえファンになっている、みたいな、とってもチャーミングな方でした。
雅ねえ語録
この記事を書くのにいろいろ調べたら、なんていいこと言ってくれてるのー!って感動したので共有します◎
わたしはもうこの一言だけで完全KO
こういうのって、頭ではわかっているようで、そうでもない。わたしも含めて、大方の人はどうしても人間目線になってしまうけど、雅ねえは動物目線で事象を見る。
このページの記事はわかりやすくて読みやすいので、興味のある方はぜひ一度読んでみてください。
動画の方がいいという方はこちらをどうぞ。15分くらいでサクッと見れます◎
島根県美郷町と神奈川県大磯町
その雅ねえが住んでいるのが、島根県美郷町。
↑↑↑のNスぺの舞台もそこです。
大磯町は2021年11月、一連の獣害対策をきっかけとして、美郷町と「地域活性化に向けた包括的連携協定」を結びました。
そして、その美郷町と縁があったのが、麻布大学です(つながった……!!)
2021年、美郷町に麻布大学フィールドワークセンターが作られ、学生たちが美郷町をフィールドにして獣害対策を学んでいます。
大磯町ー雅ねえー美郷町ー麻布大学ー大磯高校ー大磯町
このつながり、めぐるご縁、というものは、一朝一夕にできるものではなく、担当の職員さんが、丁寧に、丁寧に、ひとつひとつの関係を紡いできてくださった結果だと思っています。
こんな職員さんが大磯町にいてくださることを、一議員として本当に誇らしく思います。
里山整備に参加した!
三者による協定締結式翌日の1月25日、善兵衛池付近で里山整備作業があり、わたしも参加してきました(わたしもこの町内会の住民なのです)。
大磯高校の生徒と先生、麻布大学の教授、かながわ鳥獣被害対策支援センターの専門員の皆さん、町役場の職員さん、地域住民の皆さん……おそらく総勢50名ほどが参加。
鎌やのこぎりを片手に笹と格闘し、見ず知らずの人や、顔は知っているけど名前は知らない人たちとの連携プレーで、動物たちの潜み場解消に励みました。
いい汗かいたー!
楽しかったー!!
雅ねえが言っていた「住民が主役」という言葉。
自治体の職員が何でもやってくれるわけじゃないし、行政が何でもお金を出してくれるわけでもない。
基本、自分たちがやるしかないんですよね。防災なんかもそうです。
自分たちがやるしかないんだけど、これを持続可能にするには「楽しい♪」って大事です。
そして、「ほどほどに」。
無理して燃え尽きたらもったいないから、やりすぎない。
さらに、きちんとディレクションしてくれる人がいることが、そもそも大事。大磯町の場合は雅ねえです。
まとめ
「動物保護」「動物愛護」という言葉をもちだすまでもなく、有害獣と呼ばれる動物たちは、加害者ではなく、人間活動による被害者です。その視点が失われることのないようにしたい。
潜み場とえさ場をなくすだけでは解決できないケースはたくさんあると思います。でも、まずそこを徹底することで、殺さなければならない動物の数は圧倒的に減るはずです。
雅ねえのポリシーと大磯町の取組みが全国に広がって、野生動物と人間とのコンフリクトが減っていくことを祈ります。
もとい、祈るだけでなく、それに向けて尽力していきます。
おまけ
この協定をもとにして、さっそく動きが◎
毎月第一土曜日に大磯漁港で開催される「さかなの朝市」に、磯高の「生物同好会」の生徒たちがお手伝いに来るそう。
2月1日、その様子を見がてら、新鮮なお魚をゲットしに大磯港にいらしてください。
以上!
長文を読んでくださってありがとうございました◡̈♥︎