ウズベキスタン旅行記 #9:ブハラのスザニ刺繍
2019年に訪問したウズベキスタンの旅行記です。
ウズベキスタンには「スザニ」と呼ばれる刺繍がある。漫画「乙嫁語り」にも出てくるので、ご存じの方も多いのではないだろうか。
スザニのモチーフは同じウズベキスタン内でも地域ごとに特性があり、ブハラでは植物やザクロ、鳥がモチーフになっているものが多い。
モチーフの傾向があるために柄は似通えど、滞在中にたくさんの枚数を見るうちに、それぞれの個性や作家性が見えるになってきたのは面白い体験であった。
同じスザニでも作り手は当たり前のように千差万別であり、センスも技量も異なる。
細やかで熟練の技術を感じるものがあれば、大味なものもある。昨日できたばかりのように見えるものもあれば、年月を経てきたオーラを感じるものもある。
画一的でも均一なクオリティでもないところも、さまざまなスザニと出会う楽しみのひとつであった。
ブハラで出会ったスザニ
スザニは大抵観光スポットか土産屋で売られている。
前者はどういうルールなのか分からないが、とにかく人が集まるところにはスザニをはじめとした土産物が並べられていることが多い。
観光スポットであるアルク城の王座の間には、スペースが広いためか大判のスザニがたくさん並べられていた。本来はそういう場所ではないが、大判のスザニが並んでいるのは壮観である。
人通りと壁があるところにスザニあり。
白地の布がほとんどを占める中で、ここでは色ありの布地に刺繍されているタイプもあった。
スザニだけでなく、絨毯やエントランス用の飾りが売られていることもある。
しかし肝心の店番らしき人は全く見当たらない。売り物…なんだよね? 実は天日干ししているだけ?
アブドゥールアジズ・ハン・メドレセの中でもスザニは売られていた。
かなりたくさんのスザニがあるが、やはり目につくところに飾るのはその中でもクオリティが高いものなのだろうか。壁のスザニは特に見事だった。
作家性をあえて強く出しているような店もあった。
ここのスザニは淡い色合いのものが多く、布自体の形や端の処理にもこだわりを感じた。
やたら店内が暗いことだけが気になったが、もしかしたら停電のせいだったのかもしれない。
作家性を出せるくらいにベテランなのか力量がある人なのだろう。複雑で綿密な模様は、手縫いとは思えない迫力があった。
ハキカット通りには、日本語が話せる店員さんのいるスザニ屋もあった。2019年当時はガイドブックにも載っている程だったのだが、まだ彼女はあの場所にいるのだろうか。
その店員さんは日本人を多く接客しているためか、日本人好みのスザニに詳しかった。彼女いわく、日本人は派手な色合いのものよりも、渋めの色のものを好むそうだ。
鳥の模様が入っているものを見繕ってもらった時のもの。木の上のニワトリ?
リャビハウズの近くで一人のマダムが売っていたスザニ。スザニは布地全面に模様が施されていることが多かったが、ここは鳥モチーフをメインにポーチとしてデザインしている珍しいお店だった。
他のお店比較すると少しお高めだったが、納得のかわいさ。ポーチを購入したら、「髪がふさふさで素敵ね!」的なことを褒められた。毛量を褒められる日が来るとは。
ブハラで最も土産屋があるのはタキバザールであろう。スザニはバッグやクッションカバーに仕立て上げられているものも多い。
ハキカット通りにある謎のドーム・Tim Abdulla Khan Trading Domeの中には、絨毯が大量に積まれていた。売り物なのか分からない程にあちこちに散乱している。倉庫も兼ねているのだろうか。
このあたりは工房スペースだろうか?
これらはスザニでも絨毯でもなく、アトラスと呼ばれる絣染めの布。しかし人がいなさすぎて、この場所がなんなのかますます分からない。
恐らく別々の絨毯を切って一枚に加工したもの。
この時は古い絨毯への関心が薄かったが、今もう一度ブハラに行ったら絶対に絨毯を買うだろう。
並べられたスザニを見ると、明らかにここのものは他では見なかった模様や、良い意味での古さを感じた。アンティークも混ざっているのだろうか。
ブハラに多い鳥のモチーフはあちこちでよく見かけたが、亀と魚の柄を見たのはここだけだった。
このドームで見たスザニが気になりつつも、この時は写真を撮るだけで購入は見送った。
が、ホテルへ戻ってからも翌日の朝起きてからも、写真に撮ったスザニのことを思い出していた。これは間違いなくこのまま帰国したら後悔するやつだ。
思い立って再度ドームを訪問することにした。
再びのドーム。
気になっていたスザニの値段を聞いたところ、100ドルとのことだった。
ここまでに購入してきたものを振り返ると、似たサイズのスザニは大体30〜40ドル、クッションカバーは10ドル、ビール1缶に至っては1ドル以下だったことを考えても、明らかに値段設定が異なる。
これまでと比較してまける気配も皆無なところからも、やはり古いものなのかもしれない。
それでもここで諦めたら二度と出会えないだろう。旅先の出会いはまさに一期一会。
あまり迷うことなく、スイカをむしゃむしゃ食べている店主から言い値で購入した。
これがそのスザニ。
単色に見える部分も、よく見るとグラデーションのように違う色が入っており、絵画のような味わい深さがある。あれから数年経っても改めて惚れ惚れする美しさで、あの時買って良かったと思っている。
ドームの後に見たスザニ屋。
先程購入したスザニを片手に持っていたところ、突然そこの店主から「それはとても良いスザニだね。100ドルくらい?」とまさかの値段を言い当てられてびっくりした。
他のスザニ屋から言われるからには相応なものなのだろう。自分の審美眼を褒められたような、なんだか嬉しい気持ちになった。
この時は思いもよらないが、この後向かうサマルカンドでは再び大量のスザニに出会うことになる。この時はまだ始まりにすぎず、ウズベキスタン旅を通して購入したスザニはまた改めてまとめようと思う。
次回はブハラ最終回。
つづく
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