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歌姫2024 ⑥ 文坂なの
夏に神戸のグッゲンハイム邸で「盆ボヤージュ」という素敵な音楽イベントがあって、私は2年続けてDJとして参加させていただいた。
一昨年は持ち時間の前半を1984年のイギリスのヒット曲で縛り、後半では「フリッパーズ・ギターのグルーヴ・チューブに乗せてブルーハーツのリンダリンダを歌う」というスカム芸を披露。昨年は松田聖子や真鍋ちえみ、矢野有美からCoCo、Qlairといった80-90年代初頭のアイドル・ポップスを中心に選曲、リンダ3世やEspeciaなど2010年代の佳曲を交えたゴキゲンなセレクトで攻めた。
私の知識がNegiccoで止まっているだけの話なのだが、どうも最近のアイドルに強く惹かれる楽曲が少ない。あまりネガティブなことは書きたくないけど日向坂46のシングルがどれもほんとつまんなくてメンバーみんな可愛いのにもったいないなぁと思う。おじさんたちの時代はおニャン子クラブだってかっこいい曲がいっぱいあったんだぜなどとネチネチ書いてしまいそうなのでやめておこう。坂道グループ推しの若者たちは楽曲も楽しめているのだろうか。「あんなどれも同じようなふにゃふにゃした一筆書きみたいな曲で?」などと書いてしまいそうだ。改行しよう。
文坂なのの待望のアルバムがリリースされた。
80'sこそ至高と考える旧態依然ノスタル爺の石頭にもフィットする最新のアイドル・ポップスだ。
キャッチーかつ憂いを湛えたメロディ。「さよならクリエーター」のサビメロなどは83年に高橋美枝が生演奏で歌ってたらキョンキョンが「死ぬほど好き」と言いそうだ。キラキラしたあの時代のシンセ。「愛わずらい」のヴェイパーなグルーヴ。「好印象な恋しよう」はユーロビートというよりデッド・オア・アライブに近い。80'sテイストが満載だ。
もちろん単なる懐古趣味に堕していない。「妄想ワンルームワンダーランド」の疾走感はPerfume以降を感じさせ、当然うしろ髪ひかれ隊にも生稲晃子にもなかったファンクネス。ラップ風に歌詞が詰め込まれるヴァースは私のようなおじいさんにポップスの現在を敷衍してくれる。ありがてえ。
レトロな意匠のジャケットには先鋭的な楽曲とのギャップを覚えるが、あくまでもアイドルのアップデートにこだわるという強い意志を感じて頼もしい。個人的には文坂なのに携わっているチームに日向坂46の楽曲もプロデュースしてほしいと思う。
昨年の「盆ボヤージュ」。豪華なDJ陣の中ひとりだけノートPC持ち込みの邪道DJたる私の付け焼刃なプレイは恰好の休憩時間となり、多くのお客さんがバーカウンターやトイレへ流れていった。潮が引くように聴衆が退室していくフロアで、私のかけた一曲目に反応した美しい女性が二人、踵を返しブースに向き直って踊ってくれた。その曲はWink「淋しい熱帯魚」だった。
今年もDJができるなら、文坂なのの曲を爆音でプレイしたい。