インドア競技と大口径シャフト
以前、高ポンドのリムと低ポンドのリムでは、どちらが作りやすいかという話をしました。
そこで今回は、スパインが硬い矢と柔らかい矢では、どちらが作りやすいかです。
今のアーチャーは知らないかもしれませんが、昔、アルミシャフトの時代ではアルミ自体の比重は変わることがないので、サイズ上での逆転は起こらず、スパインを変える要素は「外径」と「肉厚」でした。太さと厚さ
を変える組み合わせによって、同じスパインでも「太く軽い矢」か「細く重い矢」が選べました。
例えば、机上の静的スパインではなく、動的スパインと経験則でいうと「2014」を使っているなら、「1916」あるいはインドア用として「2212」を使うことができます。1サイズ厚くして1サイズ細くするか、1サイズ薄くして1サイズ太くするというわけです。
ここで経験則を一つ付け加えると、「肉厚より外径」の方が硬さには効いてきます。軽くても太い方が、スパインが硬くなるというわけです。
ところがカーボンシャフトはそうはいきません。アルミのように比重が同じでなく、カーボンの量(層)やグレードが異なるからです。そのためスパインを変えるためには表面を研磨する必要があり、外径が違ってきます。
例えば、左はEASTONの樽型アルミコア「ACE」です。そして右は、EASTONのACEと同じ「4mm径」の「SUPERDRIVE」です。ただしこちらはアルミは入らずの、オールカーボンシャフトです。
SUPERDRIVEは内径が同じなので、硬くするには太くなり、重くなっていきます。ところが、ACEの樽型については、同じ個所を計っていますが、「外径も重さも」均一でないだけでなく、アルミをコアとしているため、部分的に「重さも太さも」逆転しているシャフトがあります。硬くなっているのに、細く、軽くなっているところがあるのです。
オールカーボンに限らずACEも、マンドレル(芯)によって内径は同じになる為、スパインを変えようとするとCFRPの厚さを変えることになり、硬さを揃えたり調整するために表面の研磨を行います。そのため、厳密には同じモデルでもスパインによって微妙に外径は異なってきます。
そこで、内径が同じで、柔らかいシャフトを作ろうとすれば、どうしても肉厚の薄いシャフトになります。すると強度的に、割れやすいシャフトになり、柔らかい矢は非常に作りにくいのです。
例えば、インドア競技で使用する「FatBoy」という、オールカーボンシャフトがありました。インドア競技専用のため、オンラインタッチを狙って、ルール許容、最も太い9.3mmの「大口径」シャフトです。
硬さには、肉厚以上に外径が効いてくるので、これだけでも、非常に硬いシャフトになってしまいます。そのため、X10やACEと同じCFRPの構成では、太く、硬い矢になり、リカーブではポンドが合いません。そこで肉厚を薄くするしかないのですが、外径が太いためよほど薄くしなければ、使える硬さの矢は作れません。しかし、薄ければ、強度や耐久性が保てません。簡単に割れてしまいます。
そのため、CFRPの積層数を少なくするのはもちろんですが、それでも柔らかくならないので、最後の手段として、FRPを混ぜたプリプレグを積層させているのです。これによって、ぎりぎり硬くなりすぎず、肉厚がある程度あるシャフトが作れます。
ということは、Fatboyは「オールカーボンシャフト」と銘打っても、グラスファイバーを混ぜたオールではないカーボンシャフトになります。この手法は、現在の9.3mm大口径シャフトにも当てはまりますが、スパインは柔らかくて「475」です。
それに最近は、アルミ、カーボンともに「9.3mm=23径」のシャフトを作って宣伝していますが、これらはすべて「9.3mm」ではありません。スパインを変えているため、9.3mmと銘打っても、9.3mmちょうどではなく、すべて太さが違います。
インドア競技において、「大口径」シャフトは絶対に有利です。特に上級者やパーフェクトを狙うアーチャーになればなるほど、不可欠な道具となります。260点のアーチャーには不要でも、280点のアーチャーには数点のアドバンテージとなります。
その中で、1980年代まで矢の太さに制限はなく、アーチャーはできる限り太いシャフトを使うようになります。その後、ルール上最大「11mm=28径」までとなるのですが、現在の「9.3mm」になるのは2001年からです。
1990年代まで、18mでも1スポット3アローの時代でした。当然アーチャーは大口径のアドバンテージと共に、矢がはじき出されるアンラッキーと、シャフトがへこむリスクを持っていました。ところが、1スポット1アローになっていたにもかかわらず、シャフトの太さは「9.3mm」に制限されます。この時、世の中はまだアルミシャフトの時代です。
なぜここで「23径=9.3mm」という、細いややこしい数値が出てきたのでしょうか。11mmでも無制限でもよかったはずです。現在もVegas Shootでは、NFAAルールに準拠し、80ポンド「27径=10.7mm」までが使用できます。
今も昔もそうですが、アルミシャフトの肉厚で一番薄いのが「12厚」です。ということは、最も柔らかいスパインでルール内のシャフトは「2312」ということになります。ただしそれを使うには、リカーブでは40数ポンドの表示の弓が必要です。コンパウンドでは60ポンドです。
「9.3mm=23/64インチ=外径23径=0.3661417インチ」のサイズは、アルミシャフトの最も薄く、太く作れる限界だったのではないでしょうか。EASTONがすべてのアルミシャフトを独占している時代です。ここでも、EASTONの金儲けが見え隠れします。