どんなグリップが良いグリップ?!
高価な弓、安い弓、良い弓、悪い弓と、世の中にはいろいろな弓があるのですが、どんな弓を使うとしても、弓とアーチャーが直接「接する」のは2ケ所だけです。グリップとタブです。押し手と引き手というわけですが、今回は引き手は置いておいて、押し手の「グリップ」の話です。
今のハンドルにはいろいろなグリップが付いていて、それらは簡単に交換することもできます。そんなグリップに手を置いて、弓を押します。そこでまず覚えておいて欲しいのは、「手はグリップに合わせる」という大原則です。手にグリップを合わせるというなら、グリップを削って加工するしかありません。しかし多くのアーチャーは市販のグリップをそのまま使うのが普通であり、そのグリップに手を合わせるしかありません。
ということは、それが良いグリップであればいいのですが、悪いグリップであれば、悪い、間違った押し方になってしまう、ということです。まずは「良いグリップを選ぶ」こと、そしてそれに手を合わせることが重要です。
では、どんなグリップが「良い」グリップなのでしょうか。初心者指導で、グリップは握らないように、手のひらは開いて、ボウスリングをしてと教えられます。このことは非常に重要です。ピストルやバットのグリップは握るもので、持つものです。しかしアーチェリーのグリップは持ったり、握ったりするのではありません。手を開いて、弓を「支えて」いるのです。
「押し手を押す」という言葉から、グリップも押すと思っているアーチャーも多いでしょうが、フルドローを想像してください。エイミングしている時、弓は30ポンド40ポンドという20㎏近い力で、弓がアーチャーを押しています。手のひらはそれを受けて、支えているのです。その結果、手のひらはグリップに「滑り込んでいく」のです。
近年、グリップテープを巻くアーチャーが増えています。グリップが滑らないように、と思って巻いているのでしょうが、初心者からこんなことをやっていると、良いグリップ、正しい押し方を知ることはできません。良いグリップは「ピボットポイントに滑り込んでいく」グリップです。グリップテープで無理やり滑りを止めるのではなく、滑っても真っ直ぐに、グリップの一番深い中心に自然に滑り込み、支える形状をしたグリップが良いグリップです。グリップテープがないと使えないようなグリップや押し方は論外です。テープなしでもズレないグリップを探しましょう。
十人十色。10人のアーチャーがいれば、10の手の大きさ、手の形、押し方があります。そんなすべてのアーチャーをカバーする良いグリップはあるでしょうか?
1977年にヤマハに転職し、最初に作ったのがグリップでした。入社するまで使っていたハンドルは「Citation」でしたが、原型は当時の「Ytsl」で、グリップは研究課の河合壮八さんが削ってくれた、一体成型のグリップでした。
実はそれまでのヤマハのスナップオングリップは、最初の「Ytsl」に装備したグリップは1種類しかなく、ゴム製で不安定でした。その後の「Ytsl Ⅱ」用に作られたグリップは、「Low/Medium/High」の3種類のリストの高さがあったのですが、この頃から輸出が増え、海外選対からアイデアをもらったもので、どれも大作りで日本人や女子アーチャー、高校生アーチャーには合わない感があるグリップでした。
そこで上司の末田 実さんが「カメ、自分に合った、自分が使えるグリップを作ってみろ。お前が使えるものが、みんなが使えるものだから。」と言われて、作ったのが次期モデル「EX」用に作った「MXグリップ」です。
1982年にEXに標準装備されたこのグリップは、それまでは自作していたグリップを、モデルチェンジに合わせてYtslⅡの金型を修正して作ったものです。この時、2つのアイデアを出しました。1つはグリップに「デザイン」を取り入れること。そしてもう一つは「カラーグリップ」でした。どちらも世界で初めてのアイデアでした。
それまでのグリップはハンドルの厚さに合わせて、単に差し込むだけの形状でしたが、そこには手のひらが当たらない部分があり、そこにハンドルと一体となるデザインを取り入れたいと提案したのです。そこで意匠課にデザインを依頼して、下部にデザインを加え、不要なサイド面を逆アールで肉をそぎ落としたグリップが完成しました。
このグリップはその後、Eolla、Forged のハンドルにモデルチェンジする時、下部のデザインはなくなりますが、手の当たる部分の形状は同じで、ヤマハ最後まで引き継がれます。
この形状がどれほど良いグリップかは、多くの日本のアーチャーのみならず、世界でこれをコピーしたグリップが今も残っていることからも分かるはずです。