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本当に「砲弾型」は当たるの?

「砲弾型」、そして「シャフトより太いポイント」が生まれた理由は分かったと思います。

話は少し変わりますが、ゴルフボールの表面に「ディンプル(dimple)」(えくぼ)と呼ばれる、小さなくぼみが多く開いているのは知っているはずです。卓球の球のように表面に抵抗がないゴルフボールだと、いくら上手く打っても真っ直ぐには飛びません。ところがこのように表面に抵抗があると、ボールの周りの空気を整え安定が生み出され、真っ直ぐに飛ぶのに加え、揚力が生まれ飛距離が伸びる効果があります。ちなみにゴルフボールの飛び出すスピードは、「秒速70m」程度です。

もうひとつ、最近注目のやり投げです。現在の男子世界記録は98m48cm(2024/07/24)です。ところが、1984年にベルリンで行われた競技会で、人類史上初の100m越えである「104m80cm」という大記録が出ているのです。その記録は、現在よりも重心位置が後方にあるやりを使用したことによって樹立されました。その後、重心位置だけでなく、表面をザラザラに加工したやりなども考案され、やりがフィールドからトラックにまで飛び出すという危険な状態が生まれます。
そこで1986年に、やりの重心位置が4cm前方にずらされ、直径や表面のルールが変更されることで、飛距離は100m以内におさまるようになり、世界記録もこの年以降のものを公認することとなったのです。ちなみに、やり投げの発射時の初速は「秒速30m」程度です。

そこで話を戻して、なぜライフルの弾丸は「砲弾型」をしているのでしょうか?

「空気抵抗」を理由に挙げるでしょう。そのとおりです。流線型は先端の空気抵抗を軽減し、失速することを最小限に抑え飛翔します。しかし、非常に大事なことを忘れています。ピストルでもライフルでも、その弾丸は音速を超えて飛んでいます。一般的なライフルの弾速は、約1,970~3,280フィート/秒「秒速600〜1000m」程度です。これはマッハ 2を越える速度で、音速は、「秒速343m」、時速で1225kmです。

このスピードで真っ直ぐ飛翔する物体においては、流線型こそがもっとも適した形状といえるでしょう。秒速343mを越えて飛ぶ弾丸では、先端で空気の濃密部ができ、そこから四方に広がる空気の分子は逆に弾丸の背後に準真空地帯を生み出し、弾丸を飛翔方向とは逆に吸引し制動力となり弾丸のスピードを鈍らせます。そのため、「葉巻型」や「流線型」に代表される空気抵抗の小さい、準真空地帯を作り難い形状は高速で飛ぶ物体には有効です。しかし、これは音速の世界を「一直線」で飛翔する物体の話です。

ではあなたの矢はどれだけの速さで飛びますか。60ポンドの速いコンパウンドボウで「356FPS」、時速にすると390 キロ、「秒速108m」です。それにリカーブボウでは、一直線では飛びません。アーチャーズパラドックスという非常に複雑な蛇行運動を繰り返しながら、空気の中を泳いで飛翔します。
ゴルフの球もやり投げのやりも、アーチェリーの矢も音速では飛びません。そして真っ直ぐには飛ばないアーチェリーの矢では、逆に抵抗がある方が、飛翔の安定が得られるのです。少なくとも、樽型シャフトや砲弾型ポイントの形状は、ライフルの弾丸形状とは無関係です。

経験則です。子供の頃、平らな石を水面でバウンドさせて遊んだことを覚えていますか。何回水面を跳ねるかを競った「水切り」という遊びです。ポイントは流線型に尖っているより、先端に空気抵抗がある形状の方が的中精度は上がります。音速を超えない時、水は空気と同じです。尖っている流線型のポイントは、空気の中を滑る時があるのです。スッと外れるのです。それに比べて、先端に空気抵抗があるポイントは、空気を切り裂いて弾道を確保してゴールドに向かってくれます。
フィッシングアーチェリーはどうでしょう。普通はブロードヘッドや銛のような形状の矢で水中の魚を狙います。それを我々のターゲット競技の矢で、射つとどうなるでしょうか。ライギョ射ちをしていたリカーブアーチャーを知っていますが、決して行わないでください。想像すれば分かるはずです。水面に平行近く斜めに矢が入る場合、矢は水中に突き刺さらず、水面で弾かれます。もし突き刺さっても、再び水面へと跳ね返されて飛び出すことがあります。アーチェリーの水切りです。

昔、こんなポイントも使っていました。屋根型後期にEASTONが作ったポイントです。ところが、EASTONは跳ね返り対策優先で、すべてを砲弾型に変えてしまいました。
屋根型ポイントが入手できなくなったころ、NIBB9%の砲弾型ポイントの先端を、シャフトカッターで数ミリ切り落として使っていました。的中だけでなく、クリッカーの確認もしやすかったことを、覚えています。

Darrell Pace も使っていましたが、
高得点は出るのですが、
試合で跳ね返りが多かったのです。

今アーチャーの常識である「砲弾型」のポイントを使うことの、アドバンテージやメリットを個人的には見つけることができません。あなたの矢が音速を超えるなら別ですが、もし興味があるコンパウンドアーチャーがいれば、一度先端を切り落としてみてください。貫通矢も減ります。

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