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標的面に不当な損傷を与えています。

1989年、EASTON ACEを射ち負かした Beman「DIVA+」は、ACEのアルミ/コアシャフトに対し、世界初のオールカーボンシャフトでした。しかし当時の技術やノウハウでは、シャフト先端の割れなどの心配があり、ポイントを今のアウトノックのようなシャフトにかぶせるタイプを採用していました。この場合、必然的にポイントの外径は、シャフトの外径より太くなります。

DIVA+は屋根型形状のポイントを
シャフトの切り口にかぶせました。

それに対して、ACEはアルミコアシャフトのため、ポイントは今も昔もアルミアローと同じように、シャフトに差し込むタイプを使用しています。
ところが、1年前まで市販されていた、ACEの先代アルミコアシャフト「A/C」のポイントは違っていました。差し込むタイプの、△屋根型であるにもかかわらず、屋根の掛かりの部分が大きくなっているのです。ポイントの外径を意識的に、シャフトの外径より太く作ってありました。
このことは後継モデルACEで、形状が砲弾型になったポイントにおいても、引き継がれることになります。シャフトより外径が太いポイントが、この時登場しました。

A/Cは差し込み式であるにもかかわらず、
ポイントの外径がシャフトより太くなっています。

アルミシャフトは、今も昔も、どのサイズであっても、シャフトの外径とポイントの外径は同じです。ルールブックには、ポイントは「標的面に不当な損傷を与えてはならない」と明記され、長い間これがシャフトより太いポイントが使えない根拠となっていました。そんなルールの中で、カーボンアローは登場したのです。
 
EASTONの社長であるジム・イーストンがFITAの会長になったのは、同じ1989年でした。なぜEASTONはカーボンアローになって、突然ルール破りをして、シャフトより太いポイントを商品化し、FITAは黙認したのか。
それを推察できることがあります。A/Cの後継モデルの、ACEの初期型シャフトは、今と同じような樽型シャフトですが、一目見て違う部分がありました。ポイント側の先端表面に、10数センチの長さで、「カーボンクロス」を1枚余分に積層させているのです。
理由は明らかです。CFRPは、カーボン繊維をプラスチックで固めたものですが、実際にはエポキシ樹脂が使われます。これはヤスリやサンドペーパーを使わなくても、的面での抜き差しを繰り返すだけで摩耗し、すり減る素材です。それに高速で刺さる瞬間には、温度も上がります。EASTON起死回生のカーボンシャフトが、摩擦熱によって起こるかもしれないクレームを警戒し、二重の安全策を施こしたのです。

ポイントの畳に刺さる部分に
余分にカーボンクロスが巻かれています。

しかし商品が普及するにつれて、取り越し苦労であったことが分かります。そこで、この後に発売するACEの改良型において、コストのかかるカーボンクロスはセンターマークと共に廃止されます。しかし、太くなった砲弾型のポイントは、なぜかそのまま残ることになるのです。

DIVA+のようなかぶせるタイプのポイントは、シャフトよりポイントの外径が大きくなることに必然性があり、仕方がないのかもしれません。しかし差し込むタイプのポイントは、シャフトとポイントの径を同じにできることは、アルミアローで実証済みです。ただし、メーカーが恐れるのは、摩擦熱ではなく、今となってはポイント部分からのササクレです。特にEASTONのアルミコアシャフトは、カーボン繊維が一方向のみのロービングだけで作られています。いくらアルミコアに接着されているといっても、段差ができる場合などを含めて、心配に変わりはありません。

ところが2006年のルールブックから、9.4mmルールが不自然に追加されます。

 「7. 矢はターゲットアーチェリーで使用される矢という一般通念および語義に適合している限り、どのような形式のものも使用することができる。
 ただし、標的面またはバットレスに不当な損傷を与えるものであってはならない。シャフトの最大直径は9.3mmを超えてはならない。シャフトの直径が9.3mmの場合、そのポイントの最大直径は9.4mmあってもよい。」

2006年競技規則

なんとも釈然としないルールだと思いませんか。9.3mmより細いシャフトのポイント径がシャフトより太くてよいとは、記載されていません。なぜ、「シャフトとポイントの外径は、同じでなければならない。そして、シャフトの最大直径は9.3mmを超えてはならない。」と書かないのでしょうか。

ところで、シャフトより太いポイントが長い間認められなかった理由は、的面の損傷とは別に、もう一つあります。これこそが選手にとって重要な問題です。損傷というより、シャフトより大きい穴が的面に開くことを避けたかったのです。「オンラインタッチ」の問題です。厳密にはジャッジを呼べばいいのですが、的面のすべての矢において、シャフトより大きな穴が開いていることを想像してみてください。的面への不当な損傷とはそのことです。

そこでもう一つ、大事なことがあります。「樽型シャフト」は、明らかに的中孔を大きく広げて的に刺さっていくのです。穴だけが大きいのは、ライン想像線の延長で対処できます。しかし樽型は明らかに、的中時の的面の穴を拡大しながら広げて的面に残ります。それがコンマ1ミリであっても、1点を競う競技です。
シャフトの外径は均一でなくてはならない。」「シャフトとポイントの外径は、同じでなければならない。」という当たり前のルールが追加されるのは、今となっては幻でしょうか。

2024~2025年競技規則から、「シャフトの最大直径は9.3mmを越えてはならない。(中略)矢のポイントの直径は、9.4mmを越えてはならない。」と文言が変更されました。

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