ノックは無用? でいいですか??
矢とストリングをつなげる部分が「ノック」です。この小さなパーツにはたくさんの種類があるのですが、シャフトへの取り付け方は2種類です。「昔」の取り付け方と、「今」の取り付け方です。
昔、アルミシャフトは「引き抜き製法」と呼ばれる、押出機で作られたアルミ材を、先細りの穴を通して引抜く方法で作られました。その時、パイプの片側の端は「テーパー状」に尖った状態で閉じられていました。
その理由は昔も今も同じで、的面の矢に後から来た矢が当たった時、シャフトの中に入ってシャフトを壊すことのないようにとの理由からです。テーパーならポイントはノックを壊しても、シャフトの外側にすべり、シャフトは壊れず、大きく逸れることもありません。そのためこの時代のノックの取り付け方は、接着剤を付けてノックをテーパーに差し込み、右回転で押し当てて固定するものです。テーパーには、サンダーを掛けて研磨した右回転の細かい傷が表面に残っていました。
ただし、あえてシャフトを壊すことを選んだ場面がありました。このシャフトを使った当時、インドア競技はまだ「1スポット3アロー」の時代でした。後から来た矢がノックを壊し、テーパーで滑って9点に行くことがあるのです。それはパーフェクトを狙い、1点を競うアーチャーにとってはアンラッキーな致命傷です。そこでパーフェクトを狙うアーチャーは、テーパーの先端を切り落として、その上からノックを取り付けました。矢を壊してでも、10点の継ぎ矢を狙ったのです。
そんな先端を切り落としたテーパーでなくとも、テーパーの角度はシャフトのサイズによってすべて異なります。しかし、ノックの差し込み形状は決まっています。単純にねじ込んだのでは真っ直ぐに付かないことがよくありました。
それにテーパーを切るまではいかなくとも、トップ選手は矢が弾かれるのを避けるために、あえて使っているシャフト用のノックより、小さいノックや素材の柔らかいノック使いました。そのため、アーチャーにはノックを真っ直ぐにつけるための技術と、曲がってきたノックを見つける努力が必要でした。インドアに限らず、矢取りごとに矢を手の上で回して、先端に触れがないことと、割れたりしていないかを確認します。
1984年、初めてのカーボンアロー「A/C」が登場します。現在のACEの原型で、アルミコアにカーボンを巻き付けたシャフトですが、コアのアルミシャフトにテーパーが付けられていました。そのため、取り付けるノックは、カーボンになっても接着剤をつけて回して押し当てる、昔の取り付け方法でした。
1988年、ノックの取り付け方は、「今」の「差し込み形式」になりました。
A/Cの後継モデルとして登場した「ACE」のシャフトは、テーパーはなく両端は切り落とされていました。そのためノックをシャフトに差し込む「インノック」が初めて登場します。アルミチューブをコアとするACEの場合、内径のサイズは均一ですが、外径はカーボンを研磨するため一定ではありません。そこで、差し込み部分のサイズが一定なインノックは、アルミコアシャフトには最適でした。
それに対して、1989年にシャフトにかぶせる「アウトノック」が登場します。初めてのオールカーボンアロー「Beman」には、オリジナルのアウトノックが付いていました。オールカーボンシャフトの場合、切り口からの割れやササクレが発生する可能性があり、それを防ぐためにポイント同様にインではなくアウトが使われたのです。
しかし、インノックもアウトノックも、アーチャーの要望から生まれたものではなく、メーカーの都合から生まれた形状でした。昔のシャフトのように、ノックはシャフトを守ってはくれませんでした。
そこで登場したのが、インでもアウトでもない、「ピンノック」です。ピンノックが最初にできたのはBemanの時です。Beman終焉の頃にはEASTONより早くノックピンが作られ、使われていました。
インもアウトも、そのままシャフトに差し込むか、被せるかですが、唯一ピンノックだけがシャフトとノックの間に「ノックピン」というアルミのパーツを挟みます。これによって、後から来た矢はノックだけを壊して小さく逸れてくれます。形状からも分かるように、ノックピンはアルミシャフトのテーパー形状の延長として考え出され、シャフトと点数を守ってくれるというわけです。
そして今、ノックが多種多様に発展した背景には、ドイツの「Werner Beiter」社の存在があります。今でこそ、クッションプランジャーやスタビライザーなどを製作するアーチェリーメーカーですが、この企業の母体となるのは、樹脂で作る医療機器や歯車の専門メーカーです。精密金型やポリカーボネートを得意とするトップブランドで、アーチェリーメーカーとしてのスタートは1985年の「バイターノック」が最初でした。
ノックは自然に変形するものも含め、製造段階からの精度や品質管理が求められます。例えば、バイターだけが作る「ピンアウトノック」や「インアウトノック」を見れば、その製法や精度の高さが分かります。これらのノックは、シャフトの内と外からシャフトをカバーすることで、真っ直ぐに支える精度と併せて、シャフトも守るという利点を持ち、メーカーの都合ではない、アーチャーの要望から生まれたノックを作り出しました。
お陰で、アーチャーはシャフトのモデルに関わらず、イン、アウト、ピン、その他のノックをいろいろな色から選ぶことができます。
ところで最近、アウトノックを使うアーチャーをよく見かけます。ところがこのアウトノックだけが、シャフトより大きい外径を持ち、重く、後から来る矢からシャフトは守っても、大きくそらす可能性があります。にもかかわらず、なぜ使うのか。それは多分「視認性」です。大きいがゆえに、光ることも含め、遠くから自分の矢が確認しやすいのです。
ではこれ以外に、ノックを選ぶ基準はあるでしょうか。ここからは、個人的な好みをお話しします。
今使っている矢には最初からノックピンが付属しているので「ピンノック」を使っていますが、付属していないならピンノックは使いません。金銭的に「高価」なのに加え「重く」、そして何よりも「真っ直ぐ」付いていることの点検が煩わしいからです。後から来た矢で、ノックピンは曲がりやすいからです。
では、X10やACEなら、「インアウトノック」が好きです。特にアルミコアの樽型シャフトの場合、内径はアルミシャフトで寸法は出るのですが、外径が一定しません。アウトノックはきつ過ぎたり、ゴソゴソの状態を修正する必要があるので、「真っ直ぐ」付けることに神経質になります。
そう考えると、アルミコアでもオールカーボンシャフトでも、最も安く、最も軽く、最も精度が出て、最も細く、最も真っ直ぐ付けやすく、最も神経を使わず、最も見えやすく、差し込めばいい、という理由で「インノック」を使うと思います。
それと使っているのはバイターノックですが、他のノックは知りませんが、バイターノックは「ポリカーボネート」で作られています。この素材はプラスチックの一種で、防弾ガラスや戦闘機のキャノピーなどに使われる、耐衝撃性、寸法安定性、透明性、耐熱性などに優れています。そのため、取り付け方は別にして、ノックとして安心して使えます。
こんな小さなパーツにも、性能があります。皆さんは、どう思いますか。