すごく大事な「弦サイト」のこと
コンパウンドにあって、リカーブにないものは?
「ピープサイト」。
では、リカーブにあって、コンパウンドにないものは?
「弦サイト」です。
上の写真は、1969年世界チャンピオンのハーディー・ワードです。リカーブボウで今では認められない、ストリングに印を付けています。この写真は1969年の世界選手権より前のものです。
この年の世界選手権から現在に至るまで、照準の助けとなる付着物をストリングに付けることは認められていません。
コンパウンドでは「ピープサイト」と呼ぶストリングに取り付ける「のぞき穴」があります。多くのアーチャーは、このピープサイトがコンパウンドボウと一緒に生まれた道具と思っています。しかし、コンパウンドが発明されたのは1969年です。ピープはコンパウンドより古く、リカーブと一緒にあったのです。ただし、FITAが禁止した後も、PAAなどのプロ団体では認めています。
PAA 10年連続賞金女王 、インドア、アウトドア、フィールドのすべてのタイトルを持つ、アン・バッズも、リカーブボウにピープサイトを使っていました。
FITAのリカーブでピープサイトが認められないのは、「ダブルサイト禁止」という意味です。
例えばライフルにしてもピストルにしても、銃身の先に照星(凸)と手前に照門(凹)があり、この2つの照準点を合わせることで狙いを定めます。これによって的中精度は飛躍的に向上します。しかしリカーブアーチェリーの場合、このように2つの照準点を持ってはいけません。それがダブルサイト禁止の意味であり、ピープサイトは手前の照門にあたります。
では1つの照準点(サイトピン)だけで、的中精度を高めるにはどうすればいいのか。ルールに抵触しない範囲で、極力2点照準の状況を作り出すことが、当てるための必須条件になります。
そこでリカーブに必要になるのが「弦サイト」です。ピープサイトはストリングに空いた穴から、ピンを合わせてゴールドを狙えばいいだけです。穴の真ん中にサイトを合わせることで、上下左右の照準が同時に固定されます。
ところが、リカーブの弦サイトはもっと難しい技術(テクニック)になります。リカーブではストリングの中から狙うことができないため、上下と左右に分けて行うしかありません。
その上下の固定(安定)があごの下に収まった「アンカー」です。人差し指があごから離れたり、あごにかぶさったりして上下がずれれば、的中位置も毎回変わることになります。
では、左右はどうやって固定するのか。
あなたは、サイトピンをゴールドに付けて狙っている時、目の前のストリングはどこに見えていますか?
アンカーは他人からも見える部分であり、指導マニュアルにも載っている技術なので、注意や指導がしやすい部分です。ところが、左右を決定付ける「弦サイト」は、それがちゃんと行われているかどうかは本人の目にしか映らず、マニュアルにもあまり載ることがありません。そのため他人がそれを見極め、指導するのが非常に難しいのです。
ストリングの右側から狙っていれば、ストリングはサイトピンより左にあり、ストリングの左側から狙えば、ストリングはサイトピンの右にあります。
これを合わせることが「弦サイト」なのです。ストリングを毎回同じ位置に置くことで、左右の照準が安定します。もしこの固定が不安定ならば、左右の的中はバラつきます。
昔、日本のアーチャーの80%以上はストリングの右から狙っていました。しかし最近は多くのアーチャーが、ストリングの左側から狙っているかもしれません。これはどちらからでも構いません。大事なことは、弦サイトはあくまで「エイミング」(ピンをゴールドに付ける動作)を補助し、より正確なエイミングを行うための手段です。弦サイトに気を取られて、一番大切なエイミングがおろそかになるべきではありません。
それに、人間の目は遠近両方に同時に焦点を合わせることはできません。それに目の前のストリングははっきりと見えないのが普通です。弦サイトは、サイトピンを見る動作の中で「無意識に」「自然に」合わせるものだと理解すればいいでしょう。最初は意識がいります。しかし、ある程度できるようになれば、エイミング時に自動的に無意識に同じ位置に来ている、というのが正しい方法です。
毎回一定の位置にある弦サイトと、しっかり固定されたアンカーによって、ダブルサイトが禁止されているリカーブボウにおいて、正確な2点照準が作りだされます。