どっちが上で、どっちが下リム?
ティラーハイト(Tiller Height) は、ストリングハイトとは違います。「ティラーハイト」はストリングを張った弓の、リムの付け根部分での弓からストリングまでの長さを表します。しかし、実際にはその長さではなく、上下の数値の「差」を示すことで使われます。その意味で「ティラーハイト=リムバランス」 です。
a 、b の長さをティラーハイトと言う訳ですが、実際には a-b=c が、プラス( a>b )か、マイナス( a<b )か。そして、その「差」( c )が何ミリなのか、が重要になってきます。常識的考えると、この差はゼロ(a=b)が理想のように思われます。しかし実際には a - b = c がプラスになること( a>b )が必要とされています。弓は上リムより下リムが強いわけです。
その理由はグリップ(ピボットポイント)と矢を発射する位置(クッションプランジャー位置)が違うことに由来します。クロスボウ(ボウガン)のように、弓の真ん中を持って、その手の中から矢が発射できればいいのですが、この3点が異なるために、あたかも弓の中心から矢を発射するかのように下リムを強くし、リリース時には下のリムが先に返っていくようにしているのです。そのため矢は、押し下げられるように出ていきます。ノッキングポイントを直角より上に取り付ける理由もここにあります。
そこで昔、ワンピースボウの時代に弓は、リムのネジレなどがないように作るのと併せて、必ず下リムを上リムよりも強く作っていました。それは上リムの表面やサイド面を、ほんの少しバフ掛けなどで削って上下バランスを調整していました。
ところが現在3軸の調整だけでなく、見えなくなったものがあります。それがティラーハイトの上下差です。上下リムはテイクダウンになっても、下リムが強く作られていると信じたいのですが、ハンドルのポンド調整機構においてデフォルト(初期位置)が示されていないために、表示ポンドだけでなく、ティラーハイト差もどれだけあるかが分かりません。
ではワンピースボウのように、上下のリムがデフォルトでセットされているとして、ティラーハイト差はどれくらいあればいいのでしょうか。ワンピースボウの頃、メーカーやモデルによって違いましたが、大体下リムが1ミリ~12ミリくらいの範囲で強く作られていました。ところが今では、デフォルトが分からないため、アーチャーはこの範囲に自分で調整するようになりました。ちょうどノッキングポイントを付けるようにです。
確かに、微調整ができたり、自分の好みに合わせられる点では良いのかもしれませんが、その分メーカーはどんな精度、どんな品質でリムを作っても、アーチャーには見分けがつかなくなったのです。例えばあなたのリムが上リムの方が強かったり、下リムが20ミリ強く作られていたとしても、あなたはそれに気づかず、調整して使うだけでしょう。
ではティラーハイト調整のために、テイクダウンのリムはどのように作られるのでしょうか。あなたのリムは、最初から上下ペアで作られたと思いますか。ちょうどスキー板のように幅の広いリムを成形して、縦に切って上下ペアを一度に作る方法です。そこで出来上がった強い方のリムを下リムにして、ペア組みすればいいのです。確かにそのような方法で作るメーカーもありますが、そううまくはいきません。
ほとんどのメーカーは、リムを片方ずつ作ります。最初は、ペアも上下も決まっていません。リムの生産は、まとまった数を1工程ずつ進めていきます。この時、ポンドすら最初から狙って作れるのではありません。例えば、40ポンドのリムを作ろうとした場合、生産ラインには何10本ものリムが流されます。その結果、41ポンドも39ポンドも、40ポンドのリムも出来上がるのです。昔はこれを39、40、41ポンドとして販売していたのですが、2ポンド刻みの現在では、すべて40ポンドで売ることもできます。
ではこの出来上がったバラバラのリムをどうするかというと、メーカーにもよりますが、塗装前に「ペア組み」という作業を行います。
出来上がったリムをマスターハンドルにセットしてみると、ティラーハイトが異なるだけでなく、同じ木型で押さえているのに、形状も微妙に異なる場合があります。そこで上下同じようなリムを探します。あなたのリムをテーブルに乗せると、チップの先端が同じ長さ、同じ高さで、全体が同じようなカーブを描いたリムであることを望みます。
上下ペアのリムが見つかったら、再度測定して強い方のリムを下リム、弱い方のリムを上リムとします。もちろん、その時のティラーハイトの差は、モデルごとに決めた基準内です。このようにして、1ペアになったリムを、ポンド測定して表示ポンドが決まり、最後に、塗装をして金属部品を取り付けて、完成です。
とはいっても、デフォルトも分からず、リムボルト1本でポンドもティラーハイトも動かすことができれば、ペア組みなど不要になるかもしれません。ちなみに、ペア組みされた同じ形状のリムが、ドローイングされた状態でも同じ形状をしてくれるとは限りませが、そこまでメーカーは検査していません。