「サンドイッチ」と「たい焼き」の作り方
昔々、川上源一さんがハワード・ヒルからもらった弓の時代から、今に至るまでの70年間、弓は「サンドイッチ製法」で作られてきました。何も進歩していないのが現実です。1976年に「カーボンリム」が、1987年には「フォームコア」が登場しますが、それらは素材の変化であり、作り方は変わっていません。
サンドイッチ製法で使われる「カーボン」は、「Carbon Fiber Reinforced Plastics」の頭文字をとった「CFRP」と呼ばれるもので、「カーボン繊維で強化されたプラスチック」の総称です。樹脂の中に繊維を入れて固めたもので、サンドイッチで使われるCFRPは、平らな板状のプラスチックの下敷きのようなものですが、最初からチップの方が細くなった、リムの形状をしているのではありません。最初は幅6cmくらいの短冊型で、リムの長さより少し長い、真っ平の板です。まだ曲がっていません。
これを芯になるコアの板に接着剤を付けて、複数枚重ね合わせます。そして接着剤が硬化しないうちに、リムの形状をした型に入れ、高圧高温を掛けて押し付け、完全硬化を待ちます。そして型から外すと、まだ短冊形ですが、リム全体の形状が出来上がります。
そして最後の仕上げとして、チップ部分と差し込み部分に補強材を貼り付けた後、両サイドを先細りに削り落として、塗装をすればサンドイッチのできあがりです。
世の中には「サンドイッチ製法」しかないと言いましたが、実は1995年にヤマハが開発した画期的なリムの作り方がありました。それが「たい焼き製法」です。
「たい焼き製法」のもっとも特徴的なことは、たい焼きのようにリムの形をした「金型」があり、そこに柔らかい具を入れて焼き上げるのですが、その時接着剤は使いません。金型に高温、高圧を掛けて焼成、熱処理することにより、プラスチックを炭素化し、一体成型します。貼り付けでないので、強度も耐久性も強く、素材の特長が発揮され品質が安定します。
それだけでなく、CFRPは硬化した樹脂の板ですが、硬化する前の半硬化状態の素材を「プリプレグ」と呼びます。たい焼き製法では、この柔らかい素材を、部分的であったり、厚さが異なるものであったり、枚数を変えたりと自由に組み合わせ、金型のどの位置にでも入れることが可能なのです。
この設計の自由度によって、サンドイッチにはない性能のリムが、たい焼きで作ることができます。1995年にヤマハが世界で最初に製品化した、「Super Ceramic Carbon」には「パワーリカーブ構造」が搭載されていました。リカーブの弦みぞが逆側に膨らんでいるのです。このようなことは、サンドイッチではできません。
そして、サンドイッチの場合、重ねる素材がすべてCFRPであったとしても、芯材や差し込み部分にはCFRPを使いません。そのため「オールカーボンリム」と言っても、リム全体のカーボン比率は50%前後と推測され、実際には「100%」カーボンではありません。
それに対してたい焼きでは、リム全体をカーボン100%で作ることができます。
2002年にヤマハが撤退後、この製法を継承できるメーカーがなかったのですが、2009年からフランスの「uukha」社が、たい焼き製法によって、リムを作り続けています。
これほどたくさんあるメーカーの中で、uukha社だけがこの方法を採用しているのには理由があります。ヤマハがこの製法を実現できた背景には、ゴルフ、テニス、そしてスキーのノウハウがあったからです。特に「カーボンコンポジット」と呼ばれる分野は、ヤマハの専門ともいえる技術です。EASTON社がアルミニュームメーカーであるがゆえに、アルミコアのシャフトにこだわるのと同じように、たい焼き製法でリムを作るには、多くの知識とノウハウに加えて、生産設備に多額の費用が掛かります。たい焼きは、サンドイッチより高くつき、作るのが難しいというわけです。