ライクピーナツバター。(超短編小説#1)
奈緒はここ数日ふつふつとしている自分の気持ちを言い出せないでいた。
この気持ちはなんだろう。
婚約者の篤とは海外出張などもあり2週間会えていない。
親友の優子が先週一足先に入籍したこと、
大学のサークル友達の由美が妊娠したこと、
たまたま立ち読みで見つけた北参道にあるいい感じのカフェに行きたいこと、
式でスピーチをお願いする上司の人選について、
ほかにも式場のこと、人を見る目のない弟の新しい彼女のことなど、
電車を降りて改札を出るまでの30秒にも満たない時間のなかで、次々と奈緒の脳と口元をつなぐ公園の穏やかな芝生スペースには、話したいことが遊具のごとく散りばめられている。
篤の仕事が大切な時期なのは重々わかっている。
これまでも理解してきたつもりである。
『会って話せない?』
これが言えるだけで、奈緒の公園には晴天が広がるかもしれないのに、電話でもLINEでも伝えられないでいる。
自分で晴天にできるのに、なぜ曇ったままにしておくのだろう。
何を気にして、何を強がっているのだろう。
『強がり』なんて、生まれてきた瞬間にヤマザキのトーストにベタベタ塗って、おいしく食べれたらいいのに。
そう思いながら、エレベーターホールについた奈緒は、上を向いている矢印を人差し指で強く押した。
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