ソフトウェア・ファースト要約して見えてきた開発意識の持ち方

この本は、ソフトウェアファーストのマインドをインストールすることで、変わりつつあるユーザーのニーズにどう応えていかなければいけないかが、書かれています。

サービス開発やアプリケーション開発に携わる人においても、必須の考え方がたくさん詰まっているので、抜粋して要約してみました。


世界は変わり続けている

モノ/コトの移り変わりを音楽業界を例に考えてみましょう。

モノ/コト 内容
1950年代 レコード アナログ
1979年 ウォークマン いつでもどこでも好きな音楽を楽しむ
1982年 CD アナログ→デジタル(大容量、高音質化)
2001年 iPod MP3の普及(データ化)
iTunes ソフトウェア+ハードウェア(音楽体験の変化)
2015年 Apple Music 聴き放題(音楽体験の変化)

レコードの発明により、それまで音楽はコンサートホールで楽しんでいたものが、家でも楽しめるようになりました。

1979年にソニーがウォークマンを開発すると、音楽は外出中でも楽しめるようになりました。

1982年にCDが開発されたことで、音楽データはアナログ(カセットテープ)から、デジタルへ変化し、きれいな音でたくさんの曲を楽しめるようになりました。

2001年にAppleがiPodを発売すると、音楽はiTunesで管理し、iPodで聴くようになり、音楽をデータファイルとして扱うようになります。

この変化は、音楽をパソコンでもiPodでも楽しめるようになりましたし、ジャケット画像や歌詞などの音楽以外のデータもまとめて管理することができるようになりました。

そして、2015年。AppleやSpotifyなどが、音楽のサブスクリプションによる聴き放題サービスを始めます。

このことにより、音楽はデータを自分で扱うのではなく、クラウド上にある音楽データを自分の端末で楽しむというスタイルに変化していきます。

また、これまでは購入した楽曲しか楽しめなかったのに対し、サービス提供者が保有する音楽全てを楽しむことができるようになりました。

ユーザーのニーズは高度化している

前項の太字をもう一度見てみましょう。

音楽を、

家でも
外出中でも
きれいな音でたくさんの曲を
パソコンでもiPodでも、ジャケット画像や歌詞などの音楽以外のデータも
サービス提供者が保有する音楽全て

楽しむことができるようになっていってます。

レコードだけでよかったんじゃないか?ではなく、ユーザーは新しい体験に感動したいがゆえに、ニーズが高度化していっているのです。

そのニーズに応えるために日本は、技術の進化によって対応してきました。

しかし、技術自体に究極的な差別化が難しくなってきた現在では、新しい体験をいかにデザインし、提供していくかが大事になってきており、それに成功した会社が大きく成長しています。

ユーザーとの密接な関係を築き、常に新しい体験を提供するためには、デジタル化・AI化・サブスク導入といった新しいビジネスモデル構築し、成功させていくためにも、IT開発の主導権を握っていかなければいけないのです。

産業のサービス化

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では、なぜIT開発の主導権を握らなければいけないのでしょうか。

それは、現在の産業とITの距離がどんどん縮まっていっているからです。

もう一度音楽業界を例に考えてみましょう。

最初の変化は、アナログからデジタルへのフォーマットの変化です。これはアナログレコードからカセットテープ、CDへの移行です。

次の変化は、メディアの重要性の低下です。CDが不要となり、MP3として楽曲が流通するようになったため、メディアは不要になりました。

最後の変化は、楽曲を購入して楽しむスタイルから利用権を取得して聴く形になっていった流れです。

この音楽業界の変化は、産業がサービス化したことに他なりません。この変化がすべての産業において起きつつあるのが今日なのです。

もちろん新しい体験に感動したいだけで、ここまでの変化は起きません。産業のサービス化の背景には以下の変化も密接に関係しています。

- インターネットが社会基盤として定着した
- 携帯料金の低価格化が進んだ
- ウェアラブル端末やIoTにより家電も「コネクテッド」となってきた
- ミレニアル世代(1989年~1995年生まれ)を中心に価値観が、所有(モノ)から- 利用/体験(コト)へ変化してきた
- 利用価値という概念による、「シェアリング」という消費者動向が増えてきた
- コネクテッドとシェアリングにより、「体験価値」がさらに増大してきた

技術の進化に伴い、価値観に変化が表れ始めているのが今日ということです。

IT開発手法

走りながら考える
産業のサービス化やSaaS(Software as a Service)の台頭により、ビジネスモデルは大きく変わりました。

従来のみ売り切り型は販売すると対価としてお金を受け取ります。しかし、その後のユーザーとの接点はサポートくらいです。また、発売した直後から、次のモデルの開発が始まっていくため、プロダクトのリプレイスにより仕様を改善してくタイプです。

対して、サブスクリプション型は、販売してからがユーザーとの関係性のスタートとなります。売上絶対額は低いですし、途中で契約を解除されてしまったら、投資回収ができません。つまり、契約を解除されないために、常にユーザーの感情を満足させていかなければいけないのです。

このモデルですと、時間が勝負となってきます。つまり、仕様設計や開発、運用を走りながら考えていかなければ間に合わないのです。

このように開発と運用が一体となりプロダクトを育てていく組織連携、またはそれを支える文化のことDevOps(デブオプス)と言います。

フィジカルとサイバーの継続進化
売り切りモデルの場合、世に出した商品の成長はありえません。

また、日本はものづくりの得意な国です。その得意分野を伸ばしつつ、ソフトウェアの特長を活かして、相乗効果を出していくことで、競争力を高めることができます。

  フィジカル(リアル/ハードウェア) x サイバー(ソフトウェア)

ソフトウェアだけでなく、ハードウェアを融合させるようなサービス領域で新規事業を生み出すことが、競争社会で生き残る手段と考えられます。

このような取組みは既に始まってきています。

例として次のようなものが挙げられます。

Amazon Go – 店舗での購入(リアル)において、アカウント連携でレジスルーで買い物ができる(ソフト)
Whim – スマホアプリで目的地を登録すると、公共交通機関/タクシー/レンタカー/カーシェアリングなど、さまざまな移動手段(リアル)から最適な組み合わせや経路を自動で提案(ソフト)し、予約や決済まで完結できる
このような、フィジカルとサイバーを柔軟に、適切に組み合わせていくことで、新しいサービス、体験を提供することできるようになります。

ただし、フィジカルの進化をサイバーに合わせることも忘れないようにしなければいけません。

ハードウェアもソフトウェアの進化に合わせるように、OTA(On-The-Air)を活用することやパーツ交換を容易にするなど、進化のスピードを鈍化させないようにする工夫が必要です。

DXの本質は、IT活用の手の内化
経済産業省のDXレポートには、こう書かれています。

我が国の企業においては、ITシステムが、いわゆる「レガシーシステム」となり、DXの足かせになっている状態が多数みられるとの結果が出ている。

※ここでのレガシーシステムとは、「自社システムの中身が不可視になり、自分の手で修正できない状態に陥ったこと」と定義

つまり、ITがを活用した新サービスを展開する際にも、必要なシステムの開発を様々な要因から、外部パートナーに委託しており、スピーディーな判断もできず、事業の武器にもできずになってしまっているのです。

この体制を続けていくとどうなるか、DXレポートにこう書かれています。

我が国のように外部のベンダー企業に開発を委託することが主となっている場合は、メンテナンスをある程度の間隔でまとめて行っていくことになり、ベンダー企業側にノウハウが蓄積される。この形態では、要求仕様を整理・調達し、契約を結び、ウォーターフォール型開発を行うので時間もかかる。

この状態を回避するために、自社プロダクトの進化に関わる重要な技術を自分たちが主導権を持って企画・開発し、事業上の武器にしていくこと、すなわち「手の内化」していくことが重要になります。

仮に外部パートナーを活用するとしても、ITの企画、設計、実装、運用というすべてのフェーズを自らコントロール可能な状態にすること必要です。

このIT活用を手の内化していくことこそが、ソフトウェア・ファーストの概念です。

プラットフォームビジネス
プラットフォームビジネスとは、不特定多数を対象に製品やサービスを提供する場所を構築することです。

ユーザーはプラットフォーム上にある複数のサービス(ソフトウェアなら機能)を目的に応じて利用することができます。

自社以外のプレーヤーも参加できるオープン・プラットフォームとして運営されるケースも多く、参加するプレーヤーが多くなるほどサービスが拡充され、利用料も増えていく仕組みです。

ただし、プラットフォームビジネスを始める場合、最初から誰もが利用できる汎用的なプラットフォームを目指すと失敗する可能性が高くなると考えられます。

それは、プラットフォーム上で提供するサービスや参加するプレーヤーが少ない時期に、あらゆるユーザーニーズに応えようとしても、期待を裏切る結果になってしまうからです。

最初の一歩は特定の領域、ごく少数のユーザーが確実に使えるものを提供するバーティカル(垂直)なサービスづくりから始めるべきだと考えます。

組織に必要なもの
ITを手の内化、つまり内製化に向けてメンバー一同で取り組む、あるいは外部パートナーと一緒にDXに取り組んでいく中で、必要なことがあります。

それは、VisionやMissionの共通認識です。

新しいことを始める、つまり変革していくには、変革を主導していく人材と、主導者の考えるVision、Missionに共感してついていくチームメンバーが必要となります。

チームメンバーの人材となると、「多様性(ダイバーシティ)」の重要性が謳われておりますが、組織に求められる多様性というものは、てんでバラバラの人が寄り集まることではなく、ミッションに対する共感度が高いという同質性がある中で、多様性を重んじることが正しいやり方です。

著者が「Google日本語」を開発しているときには、英語では不要なIMEという存在を意識させない「空気のような日本語入力」というミッションに向かってチームで開発を進めていたそうです。

ミッションを言語化することで、開発に関わる全員が進むべき方向性を理解できるようになるのです。

IT開発マインド

ソフトウェアに対する考え方
ものづくり日本のソフトウェアに対する考え方は世界共通でしょうか?

地域によってその考え方は違います。米マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の主幹教授 マイケル・A・クスノ氏は、下図のような分析を披露しています。

地域 ソフトウェアに対する考え方の考察
日本企業→標準化された設計パターンに従い、元の条件からはほとんど変更しない カスタムまたはセミカスタム・アプリケーションの複数バージョンを 大量生産するのに向いており、現在も活躍している。しかし、それが 世界を変えることはないし、だれかが大富豪になるということもない。

米国企業→米国人ほどソフトウェアをビジネスとしてとらえている国民はほかには いまい。会社をつくって「まあまあ良質」の製品をつくり、業界標準を 打ち立て、その過程で大儲けしようとしている。

欧州企業→製品をマス・マーケットに出荷して、自分たちの素晴らし技術から なるべく多くの利益を生み出そうとするよりも、むしろソフトウェア設計 における美を達成することに多くの力を注いでいる。
日本企業は、組み込みソフトウェアの設計・開発概念に基づいて、アプリケーション開発も進めているということがわかります。

ただこの考え方では、開発途中での方向転換が難しく、世界が変わるスピードについていくことが難しくなってきています。

ソフトウェアは、ハードウェアのために(動かすために)あるのでしょうか?いえ、違います。

ソフトウェアは、感動するユーザー体験を生み出すためにあるのです。

ヒューレッド・パッカードやイーベイに勤務してきたマーティ・ケイガン氏は自著「Inspired:顧客の心を捉える製品の造り方」で、「アップルに学ぶ」と題して次のように言っています。

1. ハードウェアはソフトウェアのためにある
2. ソフトウェアはユーザーエクスペリエンスのためにある
3. ユーザーエクスペリエンスは人々の感情を満足させるためにある
これは日本企業にとって重要な示唆となります。コネクテッドの世界になりつつある今日でも、製造業のプロダクト開発ではハードウェア重視・ソフトウェア軽視の傾向が根強く残っているからです。

しかし、産業のサービス化が進んでいる中、ソフトウェアによって実現できることが広がっているのは明らかです。

また、SaaSのようなクラウド型のソフトウェアは販売後もインターネット経由で更新することが可能です。ハードウェアとして実装するよりも、ソフトウェアとして実装するほうが進化を続けることができます。

そう考えると、むしろ現代のハードウェアはソフトウェアの魅力を伝えるための道具と言っても過言ではありません。

ただし、ケイガン氏の示唆では、最重要なのは体験がもたらす感情の変化としています。

ソフトウェアが最重要なのではなく、ソフトウェアの可能性を理解した上で、ユーザーの感情に訴えるプロダクト開発を目指す姿がソフトウェア・ファーストなのです。

エクスペリエンスの概念

昨今エクスペリエンスというと、2つのタイプがトレンドとなっています。

ユーザーエクスペリエンス(UX)
カスタマーエクスペリエンス(CX)
簡単に説明すると、

ユーザーエクスペリエンスは、特定のサービス・プロダクトの利用体験のことになります。

前述の通り、ユーザーエクスペリエンスはユーザーの感情を満足させるために存在しますし、感情を満足させるためにサービス・プロダクトの構成(デザイン)を考えます。

もう一つのカスターマーエクスペリエンスは、BtoBモデルで例えるなら、導入前研修やコールセンター業務などサービス・プロダクトにかかわる事柄すべての利用体験のことになります。

カスタマーエクスペリエンスは3つの方法で実現することが推奨されています。

1. ハイタッチ:人と人との深いかかわり合いを重視する方法例)個別面談や各ユーザーのニーズに併せてテーラメイドの研修など
2. ロータッチ:定期的に開催される研修に参加してもらうことや展示会などのイベントで接点をもつこと
3. テックタッチ:オンラインのフォーラムやメール、チャットを通じた接点など
上記の方法をユーザーの顧客価値(LTV)に応じて実施していくのですが、いずれの場合も、カスタマーエクスペリエンスを高めるにはカスタマーサクセスと呼ばれる思想が不可欠です。

従来から行われてきたカスタマーサポートとは違い、顧客の成功に向かって伴走するような考え方です。

ユーザーの成功と自社の成功を一致させることで、Win-Winの関係構築を目指すことで、感動体験を提供し続けることができるのです。

全員を幸せにしなくてもいい

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プロダクトやサービスに対して、ユーザーアンケートやNPSを実施すると、ある特定のユーザーだけが極端に悪い印象を持っていることがあります。

率直な意見として真摯に受け止めなければいけない反面、そのようなケースでは「当該ユーザーにはプロダクトを使っていただかなくてもいい」と考えた方がよい場合もあります。

ターゲットではないユーザーに合わせる形でプロダクトを改善したり、方向性を変えていくことは、本来のプロダクトのターゲットユーザーにとっては好ましくないことも多くあります。

プロダクトやサービス提供者は、UIやUXをユーザーニーズに応える形で様々な工夫を加え、プロダクトを進化させていきます。

少し厳しい言い方をすれば、進化を止めてしまったユーザーに合わせていてはプロダクトの進化も止まってしまうのです。

難しいのが、このような一部の極端なユーザーは”声”が大きいことです。このようなユーザーは「ボーカルマイノリティ」と呼ぶのですが、真摯な対応は心がけつつ、進化の方向をその声に紛らわせられないようにしなければいけません。

ソフトウェア・ファーストを読んでまとめ

ソフトウェア・ファースト~あらゆるビジネスを一変させる最強戦略』を ...
ハードウェアはソフトウェアのためにある
ソフトウェアはユーザーエクスペリエンスのためにある
ユーザーエクスペリエンスは人々の感情を満足させるためにある
この提唱が全てを表していますが、

サービスの企画、ソフトウェアの仕様開発を「手の内化」していき
サービス化する産業に対して適切な開発手法、組織/体制を築き
プロダクト・サービスの進化に合わせて、開発者自身も進化し
人々の感情を満足させるために、ソフトウェアを駆使する
ことが、ソフトウェア・ファーストを実践することに他なりません。

今回は仕事にも使える本の要約がんばってみました!

では、おつかめ!

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