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「私は猫の目」レビュー

2023年5月に発売された椎名林檎デビュー25周年記念シングル「私は猫の目」をレビューしていきます!

本作はシングルver.以外にアルバム(放生会)ver.があります。

今回は最初に出たシングルver.をレビューします。

演奏メンバー

田渕ひさこ(Gt, NUMBER GIRL)
時津梨乃(Dr, ex.ロレッタセコハン)
BIGYUKI(Key)

田渕ひさこ&時津梨乃は椎名林檎の博多時代からのバンド仲間、BIGYUKIはNYのJAZZシーン、HIPHOPシーンで活躍するキーボーディストです。

田渕ひさこや時津梨乃とのコラボは一部の音楽ファンの間で話題になっていましたね。個人的にはBIGYUKIとのコラボがアツいです!

楽曲構成

1A            B♭m
1B    B♭m
1サビ  Fm(属調)
2A    B♭m
2B    B♭m
2サビ  Fm(属調)
C    F(同主調)
間奏
3サビ  Fm
ラスサビ F#m(キー半音上げ)

構成は標準的。JPOPの王道の型で非常にわかりやすいですね。Cメロもあり最後に半音上げまでする徹底ぶりです。
キーはB♭m。サビで属調のFmにいったり、Cメロで同主調転調したりしますが調性はそこまで複雑ではありません。


Aメロ

弱り目祟り目当たり前 世知辛い
なんちゅうカタストロフィーよ!
鵜の目鷹の目で網の目 洒落臭い
尚なお詰んでジエンド?

1番のAメロです。
メロディー複雑すぎんか・・・?

さっき楽曲構成はJPOPの王道と言いましたが、メロディーに関してはもう異次元の域です。

たまに椎名林檎は難解なメロディーの曲を書くんですが(例えば迷彩、獣行く細道、生者の行進など)この曲はその部類に入ると思います。

そもそもタイトルにある「猫の目」とは、移り変わりが激しいことを意味するたとえなので、目を閉じてリラックスして聴けるようなメロディーになっていたらいけませんね(笑)

スケールから外れた音をたくさん使っていたり、聴き馴染みのない跳躍があったりするので、1回聴いたくらいでは記憶に残りづらいです。

この曲はシングルが発売される前にライブ(諸行無常)で披露されたんですが、僕はライブ中「なんじゃこの曲は??」と思いながら聴いているうちに曲が終わっていました(笑)

シングルver.は和声感が薄いため、なかなか最初はとっつきにくいかもしれませんが、カップリング曲の「さらば純情」は和声がとても美しいバラードです。2曲が似た雰囲気にならないように配慮したのかもですね。


Aメロでは田渕ひさこのパンチの効いたギターが目立ちます。シンコペーションが多用されておりロック色が強いです。かっこいい!

BIGYUKIによるシンセベースは一部「B♭→A♭→A♭♭→G♭」のラインを弾いています。
(歌詞でいうと「弱り目祟り目網の目」の部分です。)

実はこの進行、椎名林檎2枚目のアルバム『勝訴ストリップ』収録の「サカナ」と同じです。

本曲が収録されているアルバム『放生会』の字体は『勝訴ストリップ』の字体と同じですし、もしかしたら勝訴を意識して作ったのかも…?

各パートが分離ながらも共存しており音の配置がとても素晴らしいです。

Bメロ

腹の虫がおさまらない
溜めに溜めた呪いの念
手目が上がるぜ意趣返し
今ここで会ったが百年目

Bメロはほぼ同じ音型を4回繰り返しているだけですが、メロディーは相変わらず複雑です。
コードはG♭とCを交互に繰り返しており、なかなか解決せずもどかしいです。

ギターはAメロに比べて2~3倍の音価(音の長さ)が確保され、幾分落ち着いた印象を受けます。

また単音弾きではありますが、ルートと5度の音しか弾いていないのでパワーコードの雰囲気が出てますね。

さて、この曲は和声よりもメロディーやリズム、音色で魅せる意図を感じる点で椎名林檎作品としては珍しいと思います。

例えばベースはレーザービームみたいな粗い音が鳴っています。一歩間違えれば音割れっぽくなってしまう音色ですがしっかり場面転換を印象付ける音になっています。コードチェンジが少ない分、各楽器の音色が際立ちますね。

余談ですが、Cメロのあとの間奏でBメロが楽器隊だけで演奏される箇所があるのですが、本当に素晴らしいです。。

サビ

野郎め天誅だい参ったか
目には目を血で血を洗え
煩えど本業を飽くまでも
遣り上げ続けましょう

コード進行

Fm A♭aug B♭m7
(百年目)野郎め天誅だい参ったか
C♭7 C7 
目には目を血で血を洗え
Fm A♭aug B♭m7
煩えど本業を飽くまでも
C♭7 C7 (F)
遣り上げ続けましょう

BIGYUKIの粗いシンセベースを抜けたあとのサビでは椎名林檎がタンバリンを叩き始めます。

ボーカル×タンバリンという組み合わせは一般的ではあるんですが、ボーカルのタンバリンのせいで曲のリズムが狂うことはよくあって、実は結構リズム感が要求される楽器です。

この曲でのタンバリンのリズムは、2拍目に2回、4拍目に1回ならされています。
カタカナでいうと「ウン・タタ・ウン・タ」です。

このリズムの曲は他にも結構あって、たとえば「歌舞伎町の女王」のAメロ、「いろはにほへと」のBメロ、東京事変の「月極姫」のサビなどです。(月極姫の作曲は浮雲)

椎名林檎お気に入りのリズムでしょうか。2拍目に推進力を感じる小気味良いリズムです。

サビのギターはコードをなぞっている感じですね。田渕ひさこのギターまじでかっこいい。。
ベースラインも非常にかっこいいのでぜひ聴いてほしいです。

メロディーには減音程(ブルーノート)が多用されています。
(減音程とブルーノートは厳密には違うのですが、ここでは区別しません。)

ブルーノートは歌い手の感情を表現する手段の一つで、江戸弁で書かれたこの曲でブルーノートを多用するのはぴったりですね。サビ最後の「遣り上げ続けましょう」の所なんかは減5度の跳躍を3回も繰り返すのでかなり耳に残るメロディーになっています。

★★★

江戸弁について少しだけ!

江戸弁の主な特徴は「ヒ」と「シ」が入れ替わること(①)と連母音変化(②)です。

①「百年目」は「ヒャク年目」ではなく「シャク年目」と発音します。

②連母音変化というのは、アイ・アエ・オイが「エー」、ウイが「イー」と変化するものです。
例えば、「天誅だい参ったか」は「天誅でーめーったか」となります。

★★★

これまでの楽曲でも「ヒ」を「シ」と発音していることがあって気になっていたんですが、ライブ「諸行無常」のMCで林檎さんが「江戸前を自負しているもんですから~」と話していて、「そういうことだったのか!」と納得できました。

Cメロ

引け目人目は打っ遣って
けじめ折り目至って結構
しかし自分の本心へ忠義
尽くすことです いつも
肝心要天下分け目なら尚

CメロはFmからFに同主調転調します。
曲中で唯一のメジャーキーのパートなので浮いた感じがあります。

コーラスが入ったり高音でシンセが細かく動いていたりと音の厚みがありますね。特にシンセは見せ場!

Aメロ、Bメロ、サビと比べるとシンプルな曲調でCメロらしいCメロだと感じました。

リズムのアクセントはサビで2,4拍目だったのがCメロでは3拍目のみになっており、聴き手に「あれ、なんか今までよりゆったりした新しいパートに入ったぞ」と思わせる作りになっています。

コード進行はポジションを上げていく形なので一段ずつ階段を上って解放に向かっていく印象を受けます。そして聴き手が油断したところで突然「尚(にゃお)!」というどら猫声で元の世界観に戻ります。
このあたりの遊び心が椎名林檎らしくて最高です。

Bメロで少し触れましたがCメロ後の間奏が素晴らしいのでぜひ聴いてほしいです。楽器隊はここが一番楽しいと思います(笑)

まとめ

ざっくりですが「私は猫の目」のレビュー・感想でした。

この曲のアルバムver.は、キーを半音上げて歌謡曲風のアレンジになっており、もはや新曲⁉というくらい変貌を遂げています。

シングル作成時点でアルバムver.も作ることは決めていたと思うので、シングルver.はロックに振り切りたかったのかも?

どちらのバージョンから完成したのかわかりませんが、バンドver.とオーケストラver.の両方をリリースしてくれると発見が多くとても勉強になるのでありがたいです(笑)

オーケストラver.は2024年のライブ「林檎博~景気の回復~」で披露されたのでそちらの円盤化も楽しみです!

最後までお読みいただきありがとうございました!





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