ひとり焼肉
朝から9時間、息苦しい建物の中で仕事を乗り越えて迎える休日。
一度メイクを落として、夜仕様に塗り替える。
時間を確認しようと携帯の画面を触る。
恋人からの連絡は無くて、やっぱりもうだめかなとぼんやり考える。
綺麗にメイクをしても、目的地は決まっていない。
でも恋人の存在が薄く漂うこの部屋で酒は飲みたくなかった。
昨日を思い出して泣いてしまいそうだから。
忙しそうな恋人とやっと会えたのは昨日だった。
次の休みはいつになるかわからないと言って
私の手を繋いだだけで部屋を出ようとした。
会えなくても平気、一人の方が気楽だし。
と、強がりと寂しさのギリギリのラインを攻めた私は自爆した。
何も言わず、でも私を哀れむような目をして部屋を出た。
コートのポケットに手を入れて、ヒールの音を立てながら駅まで向かう。
隣に誰もいなければこんなに早く着くものなのか…
ポケットの中でカサッと手触りがした。
冬が始まる前のいつかのデートで
小さく咳払いを繰り返す私に
恋人がくれた飴玉の袋だった。
適当に入った焼肉屋で、ビールをあおる。
恋人が出来る前は“おひとりさま”なんて出来なかった。
誰かがいないといけないと思ってたけれど、そうでもなかった。
一緒に行ってくれる人が出来ると、おひとりさまは平気になった。
私は一人黙々と肉を焼く。焼いては食べ、食べては飲んで。
(…あった)
ずっとカバンの中を手探りで探してた携帯はテーブルの上にあった。
煙に気付いて私は慌てて箸をつかんだ。
焦げ切った小さな塊は、網の隙間の暗い向こうへ落ちていった。
私はやっと、気づいた。
無意識に誰かを求めて、
ひとりを自覚していない
自分がいることに。