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診察の帰りに


 1週間で3㎏増えた。診察で先生にそれを伝えると「太ったらまた入院すればいい。」と言われた。せっかく入院1ヶ月で10kg減量したのに、返ってくる言葉がそれだ。1ヶ月で10kg痩せること、それがすぐに3kg増えること、それが心身ともにどれだけ辛いかは先生には分からないのだ。

 入院生活が快適なら、先生の言うことも悪くないかもしれない。しかしこの病院の入院環境が、私にとって良くないことも先生は分かっているはずなのに。

 それでも「また入院すればいい」と先生は言う。そしてさらに驚くべきことがある。それは私自身、最終的に入院という保険があることでどこか安心していたりするのだ。この状況は一体何なのだろうか!??


 診察で先生は、私の行動履歴を見ながら「これだけ活動的で楽しそうで、結果として3㎏増えたのならよしとしよう」と言った。

 先生の狙いは、私が3㎏増えたことに罪悪感を持たないようにするため、以前より活動できていることに注目させたいのだと思った。そして私が入院しないよう自制して減量するのを狙っている。さらにもし結果として入院になっても、また頑張れば大丈夫だというメッセージを送っているのだ。

 (以前から先生は、私が入院を繰り返したとしても毎回振り出しに戻る訳ではなく、入院ごとにどんどん良くなっていくと言っていた。そして目安として2~3年後には、ずいぶんよくなっているはずだと言って私に希望を持たせた。)

 そして私は診察室から出る頃には先生の言葉と狙いを理解し、明るく前向きな気持ちになっていた。最終的に入院になったとしても、想定内のことであり絶望ではない、また頑張るしかないと納得さえしていたのである。


 しかし会計を終え病院を出るあたりから、なんだか詐欺にでもあったような気持ちになってきた。もやもやとし、ぐるぐると考えはじめた。そして診察前に感じていた「人間関係が辛い、食べてしまって辛い」という気持ちが、全然解消されていないことに気付いた。

 今太ることをよしとされても、また入院すればいいと言われても、今ある心と感情が救われていないのだ。

 そもそも私が3㎏増えたのは、急に活動的になり体が疲れ、人と接するということ自体に神経が疲れたからだ。それがストレスとなって暴食に走ったのだと思う。その結果の急な体重増は心身ともに辛い。

 診察でそのストレスをどうにかしたかったのに、先生からは「そのストレスは仕方ない。その結果入院になってもいい」と返ってきた。それらは私にとって、直接傷付く言葉だ。

 先生の言っていることはやはりおかしいと思う。私の気持ちを何も分かってない。今の辛さや自己嫌悪感、あの劣悪な環境に入院することについて、先生は何の同情もない。腹さえも立ってくる。


 先生も私も今より病状を良くするという目標は同じだ。そしてこの先生の元で、ここまで自分が良くなった。だから先生をとても信頼している。

 しかし最近、私は足元ばかりを見て苦しみ、先生はゴールだけを見て楽観しているように感じる。この1年くらい分かりあえていないという状態が続き、それが私を悩ませている。


 しかしながら現時点で、先生の診察内容や治療方針は正しい。なぜなら私が入院などごめんだと奮起して、永遠ダイエットを続けることができればそれがベストだからだ。人間関係を整理したり、ストレスから食べないようにするためカウンセリングを受けたりするより余程効果的だ。

 そしてもし結果として入院になっても、私は敗北感はあるにせよ想定内のことだと自分を責めずに済むだろう。これが入院という保険にどこかで安心している理由だと思う。「また入院すればいい」という先生の言葉が、長い目で見ると私に治療的であることは間違いないのだ。

 これらのことが頭では分かっていても、それでもなお、私はただ一言、感情的を伴った言葉を先生から聞きたい。この診察で同情や共感の言葉をかけてもらって、ホッとしたいのだ。傷付き、もやもやした気持ちを持ち帰りたくない。

 せめて先生から「体重が増えた?大変だね~。」とだけでも聞けたなら、気持ちが全然ちがうのにと思う。

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