【F1】コラム:波乱のレース、困難を乗り越え最後に笑った王者〈第6戦スペインGP〉
本格的なヨーロッパラウンドが始まったスペインGPですが、ここで多くのチームが大きなマシンのアップデートパーツを持ち込んできました。その中でも話題を集めたのがアストンマーティンでしたけれども、特にサイドポッドの形状がレッドブルのマシンと非常に似ていたことから「グリーンブル」と揶揄されていましたが、ただ真似をするだけでいきなり速くなるわけではありません。それぞれのチームがマシン開発の設計思想をもとに、より速く走るためにどうすればよいか、どこを開発していくかを決める必要があるわけです。
今回アップデートが成功したのはフェラーリ、そしてメルセデスです。特にフェラーリは開幕5戦とにかくアップデートを我慢してきましたから、レッドブルにシーズンの主導権を握られそうになったこのタイミングで満を持しての投入でした。一方のメルセデスは開幕から悩まされているポーパシングの問題解決へ、ここでも解消されなければシーズン中のマシン開発も諦めるくらいの覚悟でアップデートを持ち込んできました。メルセデスがフェラーリとレッドブルの上位戦線に加わってくるのは時間の問題だと確信した週末になりましたね。
SC出ずとも上位陣にトラブル続出
シャルル・ルクレールにとっては25点を間違いなく稼げたレースだっただけに、PUのトラブルは大誤算でした。予選での圧倒的な速さに加え、過去2戦苦しんだレースでのタイヤマネジメントも、他の上位陣が10〜14周目あたりにタイヤ交換へ向かう中、ルクレールは使い古したソフトタイヤで21周目までミディアムタイヤに交換したライバル勢に劣らないペースで走り続けていました。決勝のレースペースは大きな自信を得たと思いますが、信頼性の問題以上にがっかりだったのはチームメイトのカルロス・サインツです。7周目にターン4でスピンし優勝戦線から後退、ハミルトンのガス欠に助けられて4位になりましたが、ルクレールとの差はあまりに大きくコンストラクターズチャンピオンシップでフェラーリは劣勢に立たされそうですね。
レッドブルにとっても苦難のレースでした。フェルスタッペンが9周目にコースアウトしたところで、優勝の可能性はほぼなくなった挙句、予選に続きDRSトラブルも起こりました。ルクレールのトラブル、チームメイトのセルジオ・ペレスに実質のチームオーダーが出されたことで、結果的には優勝が転がり込んできましたが、過去2戦と違って快勝といえる内容ではありませんでした。ライバル勢が速さを増してきたなか、レッドブルも1-2フィニッシュ+3連勝と良い流れを継続していくためにも小さなトラブルやミスはなくしていきたいところですね。
そしてメルセデスは復活の狼煙を上げました。ジョージ・ラッセルがフェルスタッペンやペレスを抑え込みトップ争いを面白くしてくれました。しかし予選、決勝ともにフェラーリやレッドブルよりもまだ遅れていることは確かです。そして気になるのはルイス・ハミルトンの精神面です。スタート直後にケビン・マグヌッセンと接触し最後尾まで後退すると、レースエンジニアのピーター・ボニントンに対してリタイアを提案する無線が流れました。いろんな要素も絡んでの結果ですが、やはりラッセルに負け続けている状況は彼にとって許せないのでしょう。それでもチームから励まされ走り続け、実質4位まで帰ってきたのはメルセデスチーム、ハミルトンにとって大きく進歩を感じる結果だったと思います。最後のガス欠はメルセデスらしからぬ事態でしたが、いよいよ王者がチャンピオンシップ争いに絡んできそうだと感じさせる週末でした。
やっぱり違う今年の角田裕毅、今後にも期待は十分できる
中団勢に目を向けるとやはりバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)がベスト・オブ・ザ・レストの位置に常にいます。2戦続けてアルファロメオのマシンにトラブルが起こり、フリー走行の時間は削られてしまっていましたが、きっちり結果を残すあたりさすがボッタスといったところでしょうか。また扁桃炎のなか酷暑のレースを戦い抜き8位入賞を果たしたランド・ノリス(マクラーレン)も素晴らしいですね。地元の英雄、40歳フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)は失意のQ1敗退から、しっかり入賞圏内に入れてくる走りを見せてくれました。
そして角田裕毅も本当に昨年からの成長が著しいと思わせるレースとなりました。今回はマシンのアップデートもなく、FP3ではトラブルで走れなかったピエール・ガスリーの走行プログラムを消化、予選でもQ1敗退も覚悟したなかでQ2に進みました。今年のアルファタウリは予選があまり良くない時のほうが決勝では力を発揮しきれない傾向があります。セットアップのバランスを見つけるのが相当難しいのでしょうが、今年の角田であれば今後も十分に期待できるでしょう。
text by 亀石 弥都
画像:Formula 1 Official Twitter