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私の死刑廃止論

2021年3月2日、神奈川県弁護士会は臨時総会にて「死刑執行の停止及び死刑制度の廃止に向けた取組を求める」決議を圧倒的賛成多数で採択しました。

死刑執行の停止及び死刑制度の廃止に向けた取り組みを求める決議|神奈川県弁護士会 (kanaben.or.jp)

当職は総会にて、以下の意見を述べました。

53期の神原です。決議案に賛成の立場から、なぜ弁護士会が決議を挙げるべきなのか、私見を述べさせて頂きます

私が初めて冤罪事件を経験したのは2000年11月であります。事務所に来た相談は「なぜ保釈がつかないのか」でした。私は横浜拘置所で、被告人と接見しました。彼は言いました。「新しい就職先が決まった。」「出られるなら認めて出たい。でも、やってないから、犯行が再現できないのだ」。

私は最高裁まで徹底的に争いましたが結果は有罪確定です。しかし、最初に接見をした日の、彼の発言から、私は今でも、冤罪事件であった、と確信しております。このようなケース。弁護士であれば、誰でも、一つならず経験があるはずです。

そして、このようなケースは、政府の統計上、決して「冤罪」、とはカウントされないのであります。こうした、いわば闇に葬られた冤罪事件が、いかに多いか、知っているのはわれわれ弁護士だけなのであります。

今回の決議案にもあるとおり、死刑制度の最大の、そして決定的な問題点は、無実の人を殺してしまう、危険があることであります。他の刑罰であれば再審による救済があります。しかし、死刑によって失われた命は、永遠に帰ってこないのです。

この一点のみをとらえても、死刑制度は制度として重大な欠陥を持っているのであり、直ちに廃止してしかるべきであると考えます。そして、闇に葬られた「冤罪」の多さを知っている弁護士こそ、この点について、声を大にして語るべきであります。それは我々弁護士の道義的義務でもあると考えます。

弁護士が冤罪を言わないなら、一体、他の誰が、言うというのでしょうか。

この点、絶対に間違いがない事件、もあるではないか、という人がいます。しかし、有名な足利事件をご覧下さい。これは、自白があり、DNA鑑定もあった事案です。それでも人間は間違えるのであります。自分は絶対に間違えない、等と言える人は、今日この会場で、一体何人いるのでしょうか。

殺人事件では多く精神鑑定が争われます。精神医学も今後発達するはずです。そうしたら、現時点で有罪でも、将来は無罪となる、そういうことだってあるではありませんか。今日の時点の判断が、永遠に正しいと言える根拠が、一体どこにあるのでしょうか。

2011年7月22日、ノルウェーのウトヤという島で20代の若者ら69人、が銃で殺害されるという事件が発生しました。事件を免れたある青年は、こう発言しました。「ひとりの男性がこれだけの憎悪をみせることができたのです。私たちが共に、どれだけ大きな愛、をみせることができるか、考えてみてください」

犯人には最高刑に相当する禁錮21年の判決が下されました。その結果、ノルウェーで犯罪が増えたとか、社会秩序が混乱したとか、そういう話は聞かないのであります。

死刑のない社会。憎悪に憎悪で報いない社会。ノルウェーでは可能だが日本で不可能である、等と言い切る根拠は、どこにもありません。

今まだ立場を決めていない方。是非、理性と進歩の側に立ち、決議案に賛成の票と投じて頂けるよう、お願い致します。

2021年3月2日神奈川県弁護士会臨時総会での発言

連続テロから5年 復讐という選択肢を拒むノルウェー 遺族や生存者が当時の悲惨なSMSを公開 - 記事詳細|Infoseekニュース

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