なぜ私は、共著「9条の挑戦~非軍事中立戦略のリアリズム」を出版したか
「今や『護憲派』もその大半が『専守防衛』の範囲内なら自衛隊や日米安保を容認しているようで、かつて護憲派の少なからぬ部分が非武装中立論を唱えていた時代があったことすら忘れ去られようとしている。本書はそのような風潮に『待った』をかけ、一般に『現実的」だと思われている軍隊による自衛戦略の『非現実性』を突き、一般に「非現実的」だと思われている非軍事中立戦略の『現実性』を正面から主張した稀有な書物である。」(アマゾン・レビューより)
A先生。A先生と私とでは、見えている世界が違うのだろう。私の目には、右のレビューにもあるとおり、もう何年も前から護憲派の一致点は「専守防衛」であったと映る。2015年安保法反対運動に参加した若者の対談を読んで衝撃を受けた。一人は9条改憲、一人は自衛隊合憲論。若い方々にとって、安保・自衛隊を廃棄するという選択肢は遡上にも上がっていないのだ。なるほど安保法反対運動の一致点は「専守防衛」であり、そこから運動に参加した若者は、安保・自衛隊を廃棄するという選択肢が、最初から視界に入っていないのだ。この流れからすれば、若手弁護士から「専守防衛が一致点であれば、それを憲法に書けばいいではないか」という声が出てくるのはごく自然である(「護憲的改憲論」等)。
もはや時代に取り残された私は、永遠に口を閉ざす道もあった。しかし、9条改憲という戦後最大の危機に際し、「専守防衛」という、自己の信念に反する理念の下で闘うのは嫌だった。「お花畑」「利敵行為」と罵られても、最後まで信念に基づいて行動したかった。そこで、専守防衛批判・護憲的改憲論批判を自分のフェイスブックに投稿し、同じ文章を団通信1621号にも投稿したのである。
世の中とは不思議なものだ。この投稿が私より9歳若い若手気鋭ジャーナリスト布施祐仁さんの目にとまった。偶々布施さんの友人が私の前著の編集者であった。布施さんと私、編集者とで居酒屋等で密談を重ね、「憲法の伝道師」伊藤真先生を引き込んで企画したのが本書である。
本書の企画を通して多くのことを教えられた。伊藤先生は「軍隊を持つのか持たないのか」とストレートに問いかけ、軍隊必要論を5つの視点で分析・論破する。布施祐仁さんは今すぐ自衛隊をなくすのは現実的でないとする一方で「軍備撤廃をあきらめるのには、まだ早過ぎます」とし「目の前の安全保障にリアルに向き合いながら、同時に、どうしたら日本と世界の軍備撤廃という目標に接近できるか、その道筋を考え、具体的に行動していくことです」とする。そして、まずはアメリカの「打撃力」に依存する国防から脱却して真の意味の「専守防衛」を目指し、中期的には北東アジアの多国間安全保障体制の構築を進め、最終的に自衛隊を領土警備隊や災害救助隊などに再編するべきだとするのである。私は、この若いジャーナリストの、理想とリアリズムの絶妙な統合に目を見開かせられた。
出版記念会で、伊藤真先生は、これから教え子たちに平和の理念を教え、種を蒔こうと思っている旨を述べられた。私はこれに深く感動した。そうか。今すぐ多数派になれなくとも、若い世代にバトンを託す道がある。
私は当初本書を「負け犬の遠吠え」のような気持ちで書き始めた。今は違う。今、私にとって本書は、若い方々に先人の知恵を伝え次世代にバトンを託す「希望の書」である。若い団員のみなさんにお読み頂き、忌憚のない意見を頂戴できれば幸いである。
以上
初出2019年3月7日自由法曹団メーリングリスト投稿
9条の挑戦 - 株式会社 大月書店 憲法と同い年 (otsukishoten.co.jp)