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【短編】想い巡り【note創作大賞】
おきたらそこにいた。
ぼくのそばにはおはながたくさん、おかしもジュースもおいてあって、ぼくのまわりにはくろいふくをきたおとこのひとやおんなのひとがたくさん。みんなないているけど、なんでないているのかな…。おかしをとろうとするけどとれないし、ジュースものめない。
くらくなった。みんなおかしやジュースをのこしてみんなどこかにいってしまう。おいかけようとしても
ぼくはそこからうごけない。
つぎのひもつぎのひも、おはなをかざりにきてくれたり、おかしやジュースをくれたり、おもちゃをくれたりもした。ありがとうというけどきこえないみたい?くれたものもさわれない。またおいかけようとしたけど
ぼくはここからうごけない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
目をつぶったまた、どれくらいの夜がすぎたかな。 前ほどは人も来なくなったし、くれるおかしもジュースもへってきた。どうせ返事もくれないし、ちらっとうかがってまた目をつぶる。
…、ころんという音。気づけばどんぐりがおいてある。見あげると女の人と小さな女の子。女の人はまえにもみたことあるな。小さな女の子はだれだろう。かわいい子だな。ありがとうとお礼をいうとニコッとしたような。聞こえたのかな?いっしょに遊びたいと思うけど
ぼくはここからうごけない。
女の子はそれからも女の人とよくきてくれる。どんぐりのほかにも、お花でつくったわっかやまつぼっくりとかをおいてくれる。手をあわせて目をとじてるけど、おまじないかな?ぼくもやってみる。なんとなくきもちがつうじるようでうれしいな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
どれくらい時間が流れたのかな。女の子はどんどん背も大きくなって、赤いカバンも背負って、小さいころは女の人とふたりで来ていたけど、最近はひとりでも来てくれる。いろいろなお話を聞かせてくれたり、お歌や楽器を奏でてくれたり。でも、背が大きくなればなるほど会いに来てくれる日は減ってきた。ちょっと淋しいけど、僕から会いに行きたいと思う日もあるけど
僕はここから動けない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
またどれくらいの時間が過ぎただろうか…。女の子は来なくなった。ただ、一緒に来ていた女性は数ヶ月に一度は来てくれる。お花やお水をくれる。ありがとうといつも言うけど、こちらの言葉が届かないことは分かっている。
最近はまた目を閉じて過ごすことが多くなった。人々は目の前を通り過ぎるだけだし、こうして僕はここで過ごしていくのだろう。
そしてその日も目を閉じていた。 ふと気配に気づくと若い女性が立っていた。白いブラウスに紺色のスカート、顔をみるとあの小さな女の子の面影がある。きっと彼女だろうなと思う刹那、昔くれていたようなどんぐりを置いて、手を合わせている。
泣いているようだ。どうかしたのかな?声をかけたいけど、届かないのはわかっている。
「…、私も君みたいにいなくなってしまえばよいのかな…」
胸が波打つ一言…。違う、僕はそうなりたかったわけじゃない!そんな悲しいことは言わないで! どんなに叫んでも
君の耳には届かない。
彼女はまたフラフラと歩みはじめる。心配だから止めたいけれど
僕はここから動けない。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
しばらくすると、入れ替わるようにあの女性が息を切らしてやってきた。とても不安そうだ。こちらを見ると置かれていたどんぐりを摘み上げた。
「あの子、やっぱりここへ来たのね…」
そう言うと、僕を見つめて抱きつくようにして
「どうか力を貸して…」
女性の温もりと匂いと…、懐かしい、あぁ、そうだったな。そしたら彼女は…
なんとか力になりたいと思い、できる限りの想いを込めて叫んだ。
「彼女はあっちにいったよ」
ハッとして立ち上がると、女性は走り始めた…が、そこで再び止まりこちらを振り向くと
「ありがとう…」
そう聞こえた気がした。僕はここから動けないけど、声も届かないけど、想いは伝わったのだろうか。女性はまた駆け出し始めた。
…ふと、自分の目が重いことに気づいた。目が開けていられない。女の子は大丈夫かな…、ちゃんと会えるだろうか… 頭を巡らしているうちに、どんどん目の前は暗闇に満ちていった…
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
起きたらそこにいた。
辺りを見渡すと、景色はまったく変わっていた。自分だけが時が止まっていたかのように。どれくらいの時間が過ぎたのだろう…
ふと気づくと傍には花が置かれていた。見上げると手を合わせる女性が2人…、若い女性と白髪の混じった女性に、間に挟まれた小さな女の子が1人。女の子はあの彼女にどこか似ている。
女の子は、尋ねる。
「どうして手を合わせているのー?」
「ここには大切な人が眠っているのよ。会ったことはないけれど…」
女の子は「会ったことないのに、変なのー」と不思議で少し可笑しくもあるような表情でつぶやいた。そして、小さな右手に握られていたどんぐりを花の近くに置き、真似をするように手を合わせた。
去っていく3人をただ見送る。女の子が振り返ると
「じゃあ、またねー!!」
と、愛らしい笑顔で手を振っていた。
【終】