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トルコで事故って死ぬかと思った話


まずはじめに断っておくが、これは完全に自業自得である。


2019年12月。令和元年の終わりに、トルコ東部の街をレンタカーで周っていた。エルズルムを起点に1週間ほどかけてカルス、バヤジット、ヴァン、タトワンと移動する気ままな旅だ。

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車はエルズルムで借りた。今回相棒となったのはFIAT AEgeaというコンパクトセダンだ。5速MTのディーゼル車で、当然ながら左ハンドル。コンパクトセダンというくくりだが、別段コンパクトだとは思わなかった。一般的なセダン車のサイズであり、一人旅の足としては十分すぎるほどだった。

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出だしで若干ギアの入りにくさを感じたが、コンディションは良好。右車線の国を走るのは2度目だったが、走っているとすぐに慣れた。

トルコは基本的に西に行くほど栄えており、東側は田舎町が多い。しかしながらバス大国ということもあってか道路は比較的整備されており、交通量も少ないので非常に走りやすかった。車幅も広く、緩やかなカーブと直線が延々と続くので、高速を走っている気分になる。

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特に大きなトラブルもなく、旅は順調に進んだ。アニ遺跡のあるカルスや、アララト山のそびえるバヤジット、トルコ最大の湖であるワン湖周辺の街々をめぐり、気がつけばレンタカー旅の最終日となっていた。ワン湖の東に位置するタトワンという街を出発したあと、アフラトという小さな村に立ち寄り、パトノス経由で目的地のエルズルムを目指してひた走る。

トルコ東部は西部に比べてかなり冷え込む。イスタンブールが秋の暮れ程度の気温であるのに対し、エルズルム以西は日中でも摂氏0度前後であり、降雪もある。更にトルコ東部は山岳地帯が多く、アフラトからエルズルムへは山々を縫うようにして峠道を走らねばならない。

途中、濃霧に包まれたり牛の群れに行く手を遮られたりしたが、エルズルムまであと1時間というところまで無事にたどり着いていた。岩山の間を走る2車線の峠道が続く。車幅はそこそこあるが、急カーブが連続していた。更に薄っすらと降雪しており、路肩には雪が降り積もっている。ひっきりなしに除雪車が往復していて、路面はところどころ凍結しており、泥と雪が混ざってみぞれ状になったものが広がっていた。

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油断があった。いや、油断しかなかった。

一週間のドライブによる慣れとトルコの広大な大地、そして交通量の少ない道は、自分を増長させるのに十分だった。あろうことかコンディション最悪な峠道を時速100km強で走っていたのだ。

比較的緩やかな右曲がりのカーブに差し掛かる。曲がろうとハンドルを切った瞬間、後輪が雪を噛んだ。軽い衝撃を感じると同時にタイヤのグリップ感が消える。眼前は切り立った岸壁だ。衝突すれば死ぬ。まずいと思い、ブレーキを踏むが、半凍結した車道だ。止まるわけがない。

死んだと思った。

操舵性を失った車体はそのまま右に2回転、横滑りに路肩の雪山に突っ込んだ。舞い上がった雪がフロントガラスを覆う。

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不思議と生きていた。シートベルトを締めていてよかったとつくづく思う。当然エンストしているので、まずはエンジンをかける。ワイパーを動かし雪を払い、現状を把握する。車体の右半分が、路肩に積もった雪の中に埋もれていた。幸い雪は柔らかかった。降ったばかりの新雪のようだった。半クラでアクセルを吹かすが、タイヤが滑って空回りする。完全にスタックしてしまっていた。

一人途方に暮れていると、救世主が現れた。通りすがりのバンからイケメントルコ人が降りてきて声をかけてくれたのだ。

「大丈夫か?」という問いに「生きてるけど車が動かない」と状況を伝えていると、さらに通りすがりの車が止まり、二人目のトルコ人が現れた。これは困ったねと話していると、さらにもう一台、大きめのSUVがやってきた。「大丈夫か? 押してやるよ」と、屈強なトルコ人のおじさんが3人中から出てきた。

自分のスキルでは押してもらったところでスタックから出れる気がしないので、運転が得意そうな人にキーを渡し、後ろに回って屈強なトルコ人のおじさん集団と一緒に車を押した。1、2、3とタイミングを合わせて車を揺する。10回くらい繰り返したところでゆっくりと車が動いた。スタック脱出だ!

ありがとう、ありがとうと「テシュケルエデリム(ありがとう)」を連呼する。「気をつけろよ。ゆっくり走るんだぞ!」と、おじさんたちは颯爽と去っていった。

救出された車を確認する。側面に圧縮された新雪が氷になってこべりついていたので、蹴り落とす。見たところ奇跡的に傷や凹みはない。一安心するが、心臓はまだバクバクだった。少しタイミングがずれていたら岩山に激突、もしくは谷底に真っ逆さまだったのだ。本当に運が良かった。

それからは超安全運転だった。40~50kmで巡航。カーブは30km以下まで速度を落とす。それでも怖い。一度スリップするとそう簡単に恐怖感は消えない。時間はかかったが、無事エルズルムに到着した。レンタカーショップで車を返却する。何か言われるかと思ったが、別に何も言われることはなかった。少なくとも外面的には無傷だったようだ。

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あの時助けてくれたおじさんたちには本当に感謝している。トルコ人のおじさんは優しくて屈強だった。

【教訓】
雪山での運転は気をつけよう。

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