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子どもたちのULTLAな言葉

教育長の高橋洋平です。
『内外教育』で掲載されました「第8回 鎌倉教育長日記」を紹介します。(内外教育には許可をいただいています。)


学校に行くのがつらい子どもたちのための「かまくらULTLA(ウルトラ)プログラム」を今年も開催しました。鎌倉の海や森、寺などを舞台に、体験的・探究的に自分らしく学んでいく場です。子どもたちから発せられた言葉からULTLAがどのような場なのか、お伝えします。

※ULTLAは「Uniqueness Liberation Through Learning optimization and Assessment(学びの最適化と評価による個性の解放)」の略

「自分のトリセツ(取り扱い説明書)が分かった」

ULTLAでは認知心理学等に基づくアセスメントを行い、自分の学びの特性を可視化・言語化します。例えば、情報を得るのは聴覚優位か・視覚優位か、大きなビジョンから考えたいか・細部から考えたいかなど、自分の宝物であるユニークな学びの特性を受け止め(ある子の言い方を借りればトリセツ)、それぞれの個性に応じた学び方をしていきます。

「何て大人げない大人たちなんだ!」「面白い大人!」

ULTLAでは、専門家や地域の大人がナビゲーターになります。今年も地球惑星科学などの研究者や鎌倉の住職、漁師さん、パン屋さんなど、いろいろな仕事をしながら枠にとらわれず生きる大人たちが学びへと誘い、子どもたちの心に火が付いていきます。学びの場のデザインは巧妙に行うものの、大人が教えるのではなく、子どもたちと一緒に海や森、寺や街に分け入り、共に学びます。子どもたちからは、大人の方がすっかり楽しんでいるように見えるのでしょう。私は「大人げない大人!」と言われました。

「なりたい自分になれたよ!」「初めて自分を表現できたと感じました」

鎌倉の豊かな海や森、寺など、ゆったりした時間・環境の中で、自分の心が動く方向にじっくり学んでいきます。安心して何度でも試せる自由な場や、力が湧いてくるのを待てる余白を用意します。正解に向かってではなく、「自分の心のコンパス」を頼りに、自分らしい学びを進めていきます。

今年のテーマは「石と意志」。石を集めて宝箱を作る、石から宇宙を考える、鎌倉の石がどこから来たのか探究する、石の収集・分類、黒曜石でナイフを作る、そのナイフで食材を切ってみる、ピザの食材や人件費を計算する、デザインした石窯でピザを焼く、そしてピザ祭りを計画・実行する!
石を通じた意思が、自然や人間同士でつながり合う場になりました。

「毎週ULTLAがあってほしい」「ULTLAのある時代に生まれてきてよかった!」

わずか数日のプログラムでも、こうしたことを言ってくれる子もいます。

文部科学省の調査によれば、2023(令和5)年度の全国の小中学校の不登校児童生徒数は約34・6万人となり、22年から約5万人もの増加となりました。

要因調査では、「学校生活に対してやる気が出ない」が最多となりました。学びたいという気持ちがありながらも、自分らしい学び方や関心・特性が、学校での学びになじまない子どもたちがいます。子どもたちに応じた多様な学びの場が求められており、ULTLAがその一つになっています。

来年4月には新教科ULTLAをコアカリキュラムに据えた「学びの多様化学校」(不登校特例校)である「鎌倉市立由比ガ浜中学校」を開設予定です。ULTLAや由比ガ浜中学校での子どもたちが自分らしく学んでいくチャレンジと、学校教育そのものが学習者中心の学びに向かっていくチャレンジを並行して進めていきます。

(2024年11月26日『内外教育』掲載文)

内外教育に許可をいただきnoteに掲載しています。