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探究 加速する自治体 -寄付で柔軟な学び-

教育長の高橋洋平です。

鎌倉スクールコラボファンドについて、令和6年(2024年)5月27日の日本経済新聞に寄稿文が掲載されましたので、許可を受けてこちらに掲載させていただきます。


未来を生きる子どもたちのためには、未来の視点に立って学びを創造する必要がある。SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けたリアルな社会課題に基づくプロジェクト型学習、人工知能(AI)をはじめとするデジタル技術を活用した個別最適で協働的な学びなどはその一例だ。

しかし、学校現場は未来に向けた教育実践の挑戦と、足元にある限られた資源という現実の間で板挟みになり、活路を見いだそうともがいているように見える。文部科学省の地方教育費調査によると、公立小中学校に自治体が支出した経費の6割超を人件費が占め、肝心の教育内容の魅力化に回る教育活動費は約4%にとどまる。

そして、個々の学校が予算を編成するのではなく、教育委員会が全学校の年間経費をまとめて予算措置するため学校独自の裁量は少ない。補助金や委託費は使途・目的に制限があり、それらを含めるとさらに硬直的になる。

このように学校の裁量的経費が限られているうえ、学校の構造としても外部に頼らず教職員が抱え込みがちな自前主義がある。文科省の掲げる「社会に開かれた教育課程」の実装は簡単ではない。

また、教委にとって地域間・学校間の公平性や平等性は重視すべき価値のひとつだが、ともすれば意欲ある学校や教職員のチャレンジに対して「ほかはやってない」「まだ早い」として主体性や勇気をくじいている場合がある。

予算の硬直性打破/地域社会と「コラボ」推進

鎌倉市教育委員会は、こうした状況を打破する一つの打ち手として2020年度から「鎌倉スクールコラボファンド」を推進している。これは政府や自治体が行うガバメントクラウドファンディングであり、個人や企業から募った寄付を子どもたちの学びに柔軟かつ機動的に活用する。

ふるさと納税の制度を活用し、これまでに約2,600万円を調達した。豊かな人材・NPO・企業・大学とのコラボレーションにより、子どもも教職員もワクワクするような教育活動が生まれた。

例えば、

  • 起業家やアーティストと対話し、自分のウェルビーイング(心身の健康や幸福)とは何かを探究するプロジェクト

  • 映画監督と学ぶ創造的な映像制作

  • 介助犬・聴導犬・車いすバスケットボールチームとつくるインクルーシブな学び

  • 学校教材のプラスチックをゴミにせず再利用するSDGsプロジェクト

などだ。23年度は約500万円を活用し、小中14校で19件のプロジェクト型学習を構築できた。

今年に入り、ファンドを条例に基づく基金とした。基金化したことで年中いつでも寄付の募集が可能になり、教委の独自財源であることも明確にできたと考えている。

この仕組みは教委から学校に「この企業の出前授業やってみて」などと上から下へ落とすものではない。あくまで子どもや学校現場から湧き上がってくる問いや願いを起点に教委が学校と企業などを結びつけ、ウィンウィンになるよう調整するのがポイントだ。

鎌倉市教委は本施策に限らず、学校への指示・命令のような管理型リーダーシップではなく学習者を中心に考え、学校を支え・助け・励ます伴走型リーダーシップを目指している。

1年間のプロジェクト型学習の前後で子どもの意識がどう変容したかを調べた。「自分たちが動くことで地域や社会が変わっていくと思う」とする割合は38%から81%に、「SDGsは遠い世界の話ではなく、自分とつながりのあるものだと感じている」割合は26%から93%にそれぞれ上昇した。

子どもたちは企業や大学と協働して学ぶことで社会課題を「自分ごと」と捉え、自分が動けば社会が変わるという実感を得て、持続可能な未来社会の創り手としての第一歩を踏み出せたのではないだろうか。

課題解決への主体性を高める探究学習が実現したことで、未来への先行投資という寄付者の期待にも沿った運用ができているように思う。

スクールコラボファンドのような民間資金と公財政支出の関係はどうあるべきか。私は「2階建て」が望ましいと考えている。

教委に大口の寄付があると、備品の購入などに充てられがちだ。しかし設備など学校教育の基盤となる経費(1階部分)は公財政でしっかりと措置すべきだ。寄付をはじめとする民間資金は子どもたちの未来につながる新しい教育プログラムに必要な経費(2階部分)に活用するなど、施策の性質に応じた財源の確保が必要である。

スクールコラボファンドの今後の課題は「いかに持続可能な仕組みにしていくか」だ。寄付も当初は集まりやすいが時が経つにつれ難しくなっていく。鎌倉市ではファンドの持続可能性を高め、市内での認知度を上げるため、売り上げの一部が寄付されるタイプの自動販売機の設置も進めている。

今後は有価証券の運用益を寄付してもらうような仕組みの可能性も検討しており、ファンドをさらに進化させていきたい。

今年1月、経済産業省に「イノベーション創出のための学びと社会連携推進に関する研究会」が設置された。地域・企業と自治体・学校との連携や、学校の外部資源活用を促す方策を議論している。

筆者も委員を務めており、スクールコラボファンドを具体策の一つとして取り上げつつ、公教育に企業の資金や人材を呼び込むのに必要な政策レベルでの議論を進めていきたい。

様々な企業などとのコラボレーションにより子どもが社会の変化を肯定的に捉え、自分も社会に良い影響を与えられることにワクワクする。そんな教育を鎌倉から全国へ発信していくつもりだ。

(2024年5月27日『日本経済新聞』掲載文)

※日本経済新聞に許可をいただきnoteに掲載しています