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「人口増やせ論」が、若者の地域離れを加速させる理由
「地方衰退を止めるためには、人口を増やさないといけない」。
地域を回っていると、こういった言葉はよく聞きます。
もちろん、人口が増えれば税収が上がりますし、地方自治体としては願ったりかなったりです。一方、それが簡単ならみんなやっているよ!というわけで、まさに言うは易し、行うは難しです。
「若者が子どもを産まない」わけではない。
まず、一口に人口が増えるといっても、そこには二種類あります。
一つは地域を離れた転出者の数と、地域に住み始めた転入者の数を比較したときの増減。これは社会増(減)といいます。
そして、死亡者数と出生者数の差を比較したときの増減。これが、自然増(減)です。
「最近の若い子は子どもを産まないからだめだよ」と完全アウトなセクハラ発言をしている方がまれにいらっしゃいます。これは後者の自然増を指しているわけですね。
ちなみに、この発言はセクハラという意味だけではなく、事実としても間違っています。1960年代以降、結婚した夫婦に生まれる子どもの数は昔から変わらずだいたい2人です。
これは、第二次ベビーブームのときと比べても特に変化ありません。
結婚した夫婦に生まれる子どもの数はこの60年、変わっていないのです。
なので「最近の若い子が特に子どもを産まない」というわけではありません。
ではなぜ、少子化なのか。
これはさまざまな研究でも実証されていますが、少子化の原因は主に未婚化です。近年は、結婚しても子どもを産まず、二人で生涯を生きていくことを選ぶ夫婦もいますが、まだまだデータ上では、「結婚=子どもを産む」という方程式が成り立っています。
つまり、結婚する人自体が減っているので、子どもも生まれませんというわけです。
なので、「最近の若い子は結婚をしない」なら事実として正しいです。それ自体は、問題なわけではありません。今の若い人たちは生まれたときからデフレですし、社会保険料や税金も年々、上がっています。将来に明るい見通しもないのに、所帯を持って子どもを持つなんていうのは、あまり実感がわかないどころか、とんでもないリスクにすら感じるわけです。
出生率低下の背景として問題とすべきはもっぱら結婚行動の変化であり,夫婦の出生行動(子ども数)の変化は出生率にほとんど影響してこなかった。それをふまえて,少子化に関する先行研究では,わが国の出生率低下の大半は未婚化によってもたらされており、…
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jps/advpub/0/advpub_2401001/_pdf
行政主導の婚活=数値設定なき政策
いろんな自治体がマッチングサービスと連携して「若者の出会いを増やそう」的な政策をしています。いわゆる官製婚活というやつです。
私が昔、取材した自治体主催のお見合いで、「どれくらいのペアが結婚したんですか?」と聞いたら、「それは個人のプライベートにかかわるので統計をとれていない」という回答があって、ずっこけました。
政策とは何らかの数値的な目標があるべきですが、婚姻数が分からないのであれば、その政策が成功しているのかどうかもわからないですよね。
挙句の果てには、外部のマッチングサービス会社に多額の税金を投入しているだけのところもあります。なんだかなあという感じです。
と思っていたら日南市も他の自治体と同様に、このような事業をしていました。委託料は150万円です。
「結婚を希望する独身者を対象に、婚活イベントとスキルアップセミナー等を開催することで、結婚支援の取組を推進することを目的とします」だそうです。
スキルアップできた人やイベントに参加した人に「あなた、結婚したら市に報告してくださいね」みたいな無粋なことを言うのでしょうか。
厳しい言い方になりますが、いい加減こういうことはやめましょう。今の時代にはそぐわないです。それどころか、こういう個人のプライベートに首を突っ込むような真似をするから、どんどん若者は離れていくんです。
国レベルでも出生数増加は難しい
そもそも私は、自然増を政策目標にすることは望ましくないと思っています。それは、最終的に市に住む若い人たちに、あなたたち子どもを産んでくださいね、とお願いをすることにつながるからです。
あの子育て政策で有名な泉房穂前市長がいた兵庫県明石市ですら合計特殊出生率は1.6前後です。自治体だけの力で、出生率を引き上げるには限界があります。
そもそも、少子化は先進国では共通の課題です。
経済が発展途上の国では、子どもの数=労働力です。労働が機械化されておらず、自給自足で畑などを耕している場合は、子どもがたくさんいた方がいいわけです。
一方、日本のような先進国では、多くの仕事が機械化されていますし、子ども一人当たりに対する教育費用もばかになりません。
子育て政策が充実し、ジェンダー平等を掲げているフランスですら人口増は移民が増えたおかげです。国レベルであっても、子どもを産む数を増やすのは難しいのです。
当たり前です。
子どもを産む産まないは極めてプライベートなことで、最終的に決めるのは夫婦だからです。また、こうした少子化対策自体が、不妊で悩む夫婦に対して、「子どもを産まないことはいけないことなんだ」と思わせてしまうことにも注意が必要です。
以上を踏まえて、私は、「地方衰退を止めるためには、生まれる人口を増やさないといけない」という意見に反対です。
人口増ではなく「地域幸福度」アップを目指した方が人口が増えるという皮肉
最近、地域幸福度という言葉がさまざまな自治体で使われています。
市民の「暮らしやすさ」と「幸福感(Well-being)」を数値化・可視化したものです。
いくつかの自治体では、「もう人口減少止めるのは無理。人口減っても個人の幸福度をしっかり上げていくことに注力していくことが大事だよね」と気づいているということですね。
市民の幸福度を上げていくと移住者数は増えていき、結果的に人口が増えているという皮肉な現実もあります。
私が以前、訪問した北海道の東川町とかは、まさにそうでした。東川町では、過疎でもない過密でもない、「適疎」という言葉を使っています。人口は適度にいればいいよね、ほどよい人間関係のゆとりがあればいいよね、という考え方です。その考え方に同調していま、北海道中から移住者が集まってます。
私も現在30代で、いわゆる若者世代ですが、今の若者は「結婚しましょう」「子どもを産みましょう」みたいなマッチョな考え方している自治体に、住みたい、来たいとは思いません。
そもそも、飲み会の席や親せきの集まりで、やれ「結婚はまだか」「子どもはまだか」など、プライベートなことを聞かれるのが嫌で、地元を出ていっている若者もいるわけです。
明石市だって、子育て政策は人口減少対策としてやったわけではありません。「子どもを産みたいのに産めない環境はおかしい」と、あくまで住んでいる人たちの暮らしやすさを追求した中で、結果的に移住者数が増えていった訳です。
UIターンに大事なベンチャー企業を増やしていく
上記に挙げた2市は市長の圧倒的なリーダーシップがあったからこそ、ここまで実績が出ていると思います。私はよく「地域のリーダーが変わればまちが変わる」と言っていますが、その好事例ですね。
日南市も、不毛な人口減少対策をしていれば、その間に、どんどん周りの自治体に置いていかれてしまいます。まず、地域の人たちの幸福度を上げることに専念すべきです。
先ほど例に出したフランスでは、人口の少ない小さな村であっても、村人一人ひとりはワイン畑で稼いで大金持ちなんてケースもあります。
少ない人数でもしっかり稼げる。
地方における地域資源を生かした新規創業(ローカルベンチャー)を増やしていくことが大事です。
私が5月の会見で政策として挙げたベンチャー企業の創出もこうしたことを念頭に置いています。
↑の記事によると、ローカルベンチャーで働く人の5割は30代以下で、3割が移住者です。日南市内には、従業員全員がUターン、Iターンの会社もあります。
こうした勢いのある企業を地域でつくっていくことが、結果的には若者の移住を進め、人口増につながっていきます。
こういうことを話すと、若者、若者と、若者の政策ばかりで、先輩世代をないがしろにしているのではないか、という言葉をいただくことがあります。若者向けの政策をすることが、結局は高齢者への手厚い支援につながるという話をしたいところなのですが、長くなってきたので、またの機会にします。
決して、先輩世代の方々をないがしろにしているわけではない、ということだけ、まず心にとめておいていただければうれしいです。
さあ、みんなで新しい日南をつくっていきましょう!